第96話:反逆の最前線(フロントライン)
王都がネットワークを物理切断したことで、第一拡張都市は完全にシステムから切り離された「孤島」となった。
しかし、それはレイたちにとって、王都からの直接干渉を受けない絶対的な『最前線基地』が完成したことを意味していた。
「信じられない……。外の世界の人たちが、本当に王都の施設で暮らせるなんて」
鉄屑の谷から続々と移住してきた無法者や自警団の面々が、かつて無菌室だった純白の居住エリアに足を踏み入れ、歓声を上げている。ニアの展開した浄化コードによって無害化された安全な水と、豊富なエネルギー。泥を啜り続けてきた彼らにとって、それは夢にまで見た光景だった。
「これで心置きなく次のステップに進めるな。……エリス、他の都市の動きはどうだ?」
レイは最上層の窓から灰色の荒野を見下ろしながら、端末を操作するエリスに声をかけた。
「王都は完全にパニックからの引きこもりモードね。残る五つの拡張都市は、第一都市が陥落したデータを受けて、防衛レベルを物理・論理ともに最大まで引き上げてるわ。第一都市のパイプみたいに『システムの隙』を突くのは、もう通用しない」
「なら、正面から粉砕する手札を増やすだけだ」
レイは左手首のインベントリから、アトラスから奪い取った『白銀のデータコア』を取り出した。絶対消去の理を内包した、王都の最高位システムの一部。それを自身の武器へと直接合成する。
バチィィッ! と強烈な閃光が走り、漆黒の棍【黒樹の邏卒】の表面に、鋭利な白銀の幾何学模様が浮かび上がった。
【バグ拡張:事象切除】
「アトラスが使っていた空間ごと削り取る消去プログラムを、物理的な『斬撃』に上書き(ハック)した。……これで、どんな分厚い論理防壁だろうが、空間ごと『なかったこと』にして両断できる」
「……本当にデタラメな武器に育ってきたわね。王都の連中が知ったら、恐怖でメインフレームごと自壊するんじゃない?」
シエナが呆れたように笑いながら双剣の手入れをしている。
泥に塗れた最弱のバグたちは、最強の番人を喰らい、自らの牙を極限まで研ぎ澄ませた。王都の敷いた理不尽なルールは完全に崩壊し、力関係は今、明確に逆転しようとしている。
「次は第二拡張都市――『生産と兵器』の要塞だ。俺たちのバグで、この星を根本から再起動するぞ」
灰色の空を睨みつけるレイの瞳には、世界を喰い尽くす確かな反逆の炎が宿っていた。




