第95話:絶対理の粉砕
ズガァァァァァァァァァンッ!!!
都市の最上層を吹き飛ばすほどの凄まじい轟音が響き渡った。
アトラスの掌から放たれた『超高密度の論理の球体』と、レイの振り下ろした赤黒い重力を纏う【黒樹の邏卒】が激突する。
『――エラー。消去コマンド、物理的質量によって押し潰されています。論理崩壊……馬鹿な、あり得ない!』
常に氷のように冷徹だったアトラスの表情が、初めて驚愕と焦燥に歪んだ。
あらゆる事象を無に帰すはずの純白のブラックホールが、レイの漆黒の棍から放たれる事象破壊のバグと極大重力によって、まるでガラス玉のようにピキピキとひび割れていく。
「綺麗な箱庭で計算通りにしか動けねぇお前らのシステムじゃ、俺たちの泥臭いバグは処理しきれねぇんだよ!」
レイがさらに一歩踏み込み、棍に込めるバグの熱量を爆発的に引き上げた。
パァンッ!!!
甲高い破砕音と共に、絶対消去の論理が完全に粉砕された。
防御ごと弾き飛ばされたアトラスの純白の装甲に、レイの容赦のない物理的な一撃が深々と叩き込まれる。
「ガ、ァァァァッ……!?」
王都の誇る最高位の番人が、泥とバグに塗れた棍の一撃によって無様に床へ叩きつけられた。完璧だった白銀の肉体に亀裂が走り、そこから赤黒いエラー・ノイズが激しく噴き出す。
「……計算、不能。泥を啜る下層のエラー・コードが、王都の……星のシステムを、超えるなど……」
アトラスの視界が明滅し、その機能が完全に停止しようとしていた。
「超えるさ。お前らが切り捨てた世界の重さを、その身で味わいながら消えろ」
レイが左手首をかざす。【事象略奪】の黒い光が、崩壊していくアトラスの肉体から、ひときわ眩い白銀のデータコアを強引に引きずり出した。
『特級殲滅端末、ロスト。――対象は、星の理を破壊する致命的な特異点と認定――』
最期の無機質な警告を残し、アトラスの残骸は完全にピクセル状の塵となって消え去った。
「……勝った。本当に、あの王都のバケモノを物理で叩き潰しちゃった……」
シエナが呆然と双剣を下ろし、ニアがへたり込んで安堵の涙を拭う。
「レイ! 王都の中央システムがパニックを起こしてるわ!」
端末を叩いていたエリスが、信じられないものを見るように声を上げた。
「第一都市のネットワークを、王都側から『物理的』に切断・隔離したのよ! バグ(私たち)の侵食が中央に及ぶのを恐れて、この都市を完全に切り捨てたんだわ!」
それは、王都が歴史上初めて、明確に「敗北」と「恐怖」を認めた瞬間だった。
「なら、遠慮なくこの巨大な要塞を、俺たち反逆者の『最前線基地』にさせてもらう」
レイは奪い取った白銀のコアをインベントリに収め、天井が吹き飛んで剥き出しになった灰色の空を見上げた。
「一つ目は喰い破った。……残る拡張都市は、五つだ」
最強の番人を打ち倒し、強固な都市を丸ごと手に入れた最弱の反逆者たち。王都の絶対的な支配は今、明確な音を立てて崩壊を始めていた。




