↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/112

第90話:箱庭の管理者

 純白の専用エレベーターが滑らかに上昇し、無音のまま扉が開いた。

 辿り着いたのは、第一拡張都市の最上層。都市全体を見下ろす半球状のガラス張りの空間の中央に、青白く発光する巨大なサーバー群――『サブフレーム・コア』が鎮座していた。

 そのコアを背に、王都の最高位を示す白銀の制服を纏った細身の男が、不快げに顔を歪めてこちらを睨みつけていた。

「……清掃ドローンのエラーかと思えば。まさか、廃棄された有機物のゴミが、この私の無菌室(コア・ルーム)にまで這い上がってくるとはな」

 第一都市の管理者。最適化されたエリートの象徴のような男は、床に滴り落ちる泥水を見て吐き気を催すように鼻を覆った。

「驚かないのね。普通、絶対防壁を抜けられたらパニックになるものだけど?」

 エリスが端末を弄りながら挑発するが、管理者は冷笑を浮かべた。

「パニック? 冗談を。システムにおいて『あり得ない事象』は、単なる処理の遅延(ラグ)に過ぎない。バグはただちにデバッグされる。それだけの論理(ルール)だ」

 男が指先を軽く鳴らすと、空間そのものが微かに歪んだ。

『――管理者権限行使。対象の存在座標を強制初期化(フォーマット)します』

 管理者の背後のコアが連動し、レイたち四人の足元に高密度のエネルギー陣が展開される。王都のシステムによる、有無を言わさぬ事象の消去コマンド。外の世界の汚染獣でさえ、一瞬で原子レベルに分解される絶対的な「削除」の光だった。

「ひゃっ……!」

 ニアが悲鳴を上げ、シエナが双剣を抜くよりも早く。

「ただの『論理』で、俺たちの『物理(バグ)』が消せるかよ」

 レイが前に踏み込み、【黒樹の邏卒(デッド・エンド・ブランチ)】を光の陣の中心へ無造作に突き立てた。

 バチィィィィンッ!!!

 事象破壊の高周波バグが、絶対的だったはずのフォーマット・コマンドをガラスのように粉々に砕き散らす。飛び散った光の破片が純白の床を焦がし、管理者の顔に初めて「驚愕」という感情が張り付いた。

「なっ……馬鹿な。都市のメインフレーム直結の消去コマンドだぞ!? なぜ、ただの物理的な木切れで、論理コードが破壊される……!」

「木切れじゃないわよ。あんたたちの自慢の殺戮端末から奪い取った、最高純度のバグコードよ」

 エリスが不敵に笑い、管理者が動揺している隙にサブフレーム・コアの端末へと自身のケーブルを撃ち込んだ。

「なっ、貴様、サブフレームに直接ハッキングを……! やめろ、汚らわしいジャンクOSが触れるな!」

「遅いわよ、エリートさん。レイ、そいつ黙らせて!」

「言われるまでもない」

 管理者が慌てて次の防衛プログラムを起動しようとした瞬間、レイは一瞬で間合いを詰め、漆黒の棍を男の首筋へとピタリと突きつけていた。

 棍から放たれるバグの熱量が、管理者の白銀の制服をジリジリと焦がしていく。

「……大人しく都市の管理者権限(パス)を渡せ。それとも、論理じゃなく物理で頭を砕かれたいか?」

「ひっ……!」

 泥とバグに塗れた最弱の反逆者が、最適化された完璧な箱庭の王を、物理の暴力で完全に組み伏せた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。