第87話:完璧な都市の盲点
鉄屑の谷は、もはや単なる無法者の掃き溜めではなくなっていた。
ニアの【清浄なる領域】と回復コードによって負傷者の死亡率がゼロになったことで、街にはかつてない活力が満ちている。ガラクタ漁りの効率は跳ね上がり、武装はアップデートされ、一つの巨大な「軍隊」としての輪郭を持ち始めていた。
だが、反逆の狼煙を上げるレイたちの視線は、すでに遥か先の標的へと向けられている。
バラック小屋のテーブルに投影されたホログラムには、荒野にそびえる強固な要塞――『第一拡張都市』の姿が浮かび上がっていた。
「正面突破は100パーセント自殺行為よ。王都のお下がりとはいえ、都市の周囲には『論理消滅防壁』が張られているし、上空からは衛星軌道上のレーザーが常に睨みを効かせているわ」
エリスがキーボードを叩き、赤い警告エリアをマップに表示させる。
「じゃあ、どうやって中に入るのさ? また地下から穴でも掘る?」
シエナが腕を組みながら尋ねると、エリスはニヤリと悪魔的な笑みを浮かべた。
「あいつらの『徹底したコスト削減』を逆手に取るのよ。第一都市は巨大なメインフレームを冷却するために、外の荒野の地下水脈を強引に吸い上げているわ。取水パイプの内部は極寒で、防衛用の光学レーザー網が張り巡らされているけど……『デジタルな防壁』は一切存在しない」
「……なるほどな。システムの監視外なら、物理的な罠などいくらでもハックできる」
レイは左手首のインベントリを展開し、地下の深淵で泥の汚染獣から奪い取った『捕食者のコア』を取り出した。
「この泥のコアが持つ『質量同化』のバグを、手持ちの【隠密】系のジャンクカードと合成する。光学センサーの光ごと俺たちの姿を同化させれば、レーザー網は素通りだ」
「生命反応は、私の医療コードで極限まで低下させます! 一時的な仮死状態に近い数値なら、王都の生体スキャンも誤魔化せるはずですっ」
ニアが身を乗り出して提案する。
「完璧ね。パイプの分厚い物理隔壁はレイの棍でぶち破るわよ」
エリスが端末を閉じ、作戦のフェーズが完了したことを告げた。
最適化され、無駄を削ぎ落とした完璧な都市。しかし、その絶対的なシステムには、泥臭く進化を続けたバグたちが入り込むための「致命的な隙」が確かに存在していた。
次なる手札を構築した四人は、第一拡張都市の足元を流れる冷たい地下水脈を目指し、再び荒野へと歩みを進めた。




