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第86話:宣戦の帰還

 無数の赤い警報光が明滅する中、旧地下輸送網のトンネルを四つの影が疾走していた。

「上から来るわ! 王都の奴ら、私たちごと地下を物理的に圧壊させる気よ!」

 エリスの悲鳴に近い警告と同時、頭上の分厚いコンクリートの天井が轟音を立てて崩落し始める。王都の中央司令部から降下してきた上位の殲滅プログラムが、物理的な質量爆撃でこの区画ごと「バグ」を消し飛ばそうとしているのだ。

「ひぃぃっ! 潰されますぅっ!」

「泣き言を言わない! 走れ、ニア!」

 シエナがニアの手を強く引き、落ちてくる瓦礫の雨を縫うように駆ける。

 その前方、完全に崩落して退路を塞いだ数千トンの岩盤に対し、レイは一切の減速すら見せずに漆黒の棍を振り上げた。

「道を、開けろ」

【黒樹の邏卒(デッド・エンド・ブランチ)】が放つ事象破壊のバグコードが、圧倒的な質量を無視して岩盤を円形に消し飛ばす。王都の最高位システムすら喰らい尽くす規格外の刃が、泥と鉄錆に塗れた地下道に脱出のための巨大な風穴を穿ち続けた。

 ズガァァァァァンッ!!

 灰色の風が吹く渓谷の出口へ飛び出した四人は、背後で地下施設が完全に圧壊し、もうもうと土煙を上げるのを無言で見つめた。

 上空を見上げれば、分厚い雲を突き抜けて、王都からの追撃部隊と思しき幾つもの青白い光の尾が荒野の各地へ散っていくのが見える。

「ギリギリだったわね……。でも、これで王都は完全に私たちを『排除すべき致命的なバグ』として認識した。今までみたいな辺境での小競り合いとは次元が違うわよ」

 エリスは自身の端末を抱きしめながら、不敵に口角を上げた。

 それから数日後。

 圧倒的な安全地帯(セーフゾーン)として機能し始めた拠点、『鉄屑の谷』。

 その中心にあるバラック小屋で、エリスがホログラム・デバイスを起動した。空中に投影されたのは、王都を囲む6つの拡張都市(サブフレーム)の立体海図だ。

「いい? これが私たちが手に入れた次なる反逆の標的よ。この都市群のメインフレームを落とせば、星の再起動への道が開ける」

 集まった自警団の幹部たちや無法者たちが、かつてない壮大な規模の作戦に息を呑む。

「……王都の巨大なドームはすでに崩れかけてる。あいつらの完璧な箱庭はもう終わりだ」

 レイが地図の中心、最も近い位置にある『第一拡張都市』の座標を短く指差した。

「これより、俺たち『バグ』がこの世界のシステムを上書きする。手始めに、一番近い都市のコードから喰い破るぞ」

 最弱の追放者たちが、世界を支配する理不尽なシステムへ真っ向から宣戦布告を果たした瞬間だった。灰色の空の下、反逆者たちの新たな戦端が静かに開かれた。

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