第85話:反逆のロードマップ
『――要求を拒否します。星の環境を再構築するためのルート権限は、現在【王都】のメインシステム中枢、および世界各地に点在する6つの拡張都市に分割・ロックされています』
無機質なアバターが告げると、空間のホログラムが切り替わり、広大な荒野に点在する巨大なドーム群の立体マップが投影された。
中央にそびええる最も巨大な王都を囲むように、6つの防衛都市がネットワークの結節点として機能している。
『例外処理による強制アクセスを試みた場合、これら7つの都市のメインフレームすべてを物理的、あるいは論理的に制圧する必要があります。未登録のバグデータであるあなた方に、それは不可能です』
「不可能かどうかは、俺たちの『手札』が勝手に決める」
レイは不敵な笑みを崩さず、漆黒のデータコアを介して【第零アーカイブ】のコンソールへと【事象略奪】のノイズを流し込んだ。
「エリス、いけるか」
「……ええ、任せて。システムの深部までは入れないけど、この星の『防衛ネットワークの構造図』と、各都市の『管理者権限のロックキー』のデータだけなら、強引に引っこ抜けるわ!」
エリスがキーボードを叩き壊すような勢いで打ち込むと、彼女のローカルOS『REBELLION』のストレージに、王都の心臓部へ至るための膨大な海図がダウンロードされていく。
「ひぅっ……! な、なんか、施設全体が赤く光り始めましたけどっ!?」
ニアがホログラム・パネルに浮かび上がった警告色を見て、半泣きでシエナの背中にしがみつく。
「王都のメインシステムが、ここの不正アクセスを検知したのよ! 長居は無用ね、レイ!」
シエナが退路を確保すべく、いつでも動けるよう姿勢を低くする。
『警告。重大なセキュリティ違反。王都中央司令部より、特異点排除のための上位プログラムが多数降下してきます』
アバターの姿がノイズまみれに乱れ、第零アーカイブの巨大な空間そのものが、自己防衛のための排他モードへと移行し始めた。
「上等だ。星の管理者が降りてくる前に、とっととズラかるぞ」
レイはコンソールから強引に右手を引き抜き、踵を返した。
その網膜には、エリスがダウンロードした6つの拡張都市の座標が、次なる反逆の標的として赤黒く焼き付けられている。
世界の真実を知り、星を再起動するための『地図』を手に入れた。
次なるフェーズは、彼らの絶対的な拠点となった【鉄屑の谷】の戦力を極限まで拡張し、王都のエリートたちが引きこもる箱庭を外側から一つずつ喰い破る陣取り合戦だ。
地下深くの深淵を駆け抜けながら、反逆者たちの目はすでに、灰色の空の向こうにある次なる戦場を見据えていた。




