第84話:魔法という名のエラー
無機質なアバターの声が響くと同時、空間を埋め尽くす青白いパネルが次々と切り替わり、かつてのこの星の姿が空中に投影された。
豊かな緑と青い海。しかし、人々が『魔法カード』という奇跡を乱用し始めた瞬間から、大地は黒く変色し、海は枯れ、星の生命力そのものが急速に吸い上げられていく映像が流れる。
『魔法。それは星の根源的なリソース(マナ)を無秩序に消費し、事象を強引に捻じ曲げる極めて非効率なエラープログラムでした。結果として星は深刻な汚染を引き起こし、地表は致死の瘴気に覆われました』
「……嘘でしょ。じゃあ、外の世界が荒野になったのも、汚染獣が蔓延っているのも、全部『魔法』のせいだって言うの……?」
エリスが息を呑み、シエナも信じられないものを見るようにホログラムを見上げた。
『肯定します。故に、旧世代の管理者たちは決断しました。星のリソースを浪費する魔法コードをシステムから完全消去し、少数の人類だけを生存させるための最適化された閉鎖空間――【王都】を建造することを』
アバターの背後に、灰色の空を遮断する巨大な王都のドームが映し出される。
『彼らは徹底的なコスト削減と効率化を図りました。魔力変換効率の悪い人間や旧式サイボーグは不要なリソースとして外へ廃棄し、完全に制御可能な物理と論理の力だけで完璧な秩序を構築したのです』
コストに見合わないと判断され、ゴミのように王都から捨てられたニアが、痛みを堪えるように自身の白いコートを強く握りしめた。
「……なるほどな。泥を啜って生きるくらいなら、綺麗な箱庭に引きこもって、世界ごと見捨てる道を選んだってわけだ」
沈黙を破ったのは、レイの低い笑い声だった。
彼は絶望するどころか、王都の殺戮システムと旧世界のバケモノを喰らって変異した漆黒の棍、【黒樹の邏卒】を肩に担ぎ、ホログラムのアバターを真っ直ぐに見据えた。
「だが、その完璧な箱庭のドームはもう崩れ始めている。最適化の果てに自閉した連中には、想定外の事象を処理する力すら残っちゃいない」
『……警告。対象の手中に、王都のメインシステムに致命的な干渉を引き起こす規格外のエラー・コードを確認。あなた方は、星の秩序を脅かす特異点です』
アバターの目が赤く点滅する。
「ああ、その通りだ。俺たちは王都が切り捨てた最弱のゴミで、この狂った世界をハックして生き抜いてきた『バグ』だ」
レイの瞳に、反逆の暗い炎が宿る。
「王都が世界を放棄したなら、俺たちが全てを奪い取って再起動してやる。……おい、旧時代のシステム。この星の環境を書き換えるための『ルート権限』はどこにある?」
泥に塗れた反逆者たちが、絶対的な上位者である王都のルールに真っ向から牙を剥く。世界を覆し、真の楽園を創り出すための次なる標的が、いま完全に定まろうとしていた。




