第83話:星の墓場
純白の合金で構築された巨大な扉の前に立つと、微かな電子の駆動音が四人の鼓膜を静かに揺らした。
周囲のひどい腐臭と鉄錆が嘘のように、扉の周辺だけが無菌室のような冷ややかな清浄さに包まれている。
「……これが、すべての始まりの場所」
エリスはごくりと息を呑み、扉の傍らにあるコンソールへ慎重に端末のケーブルを接続した。しかし、画面に走るコードを目で追う彼女の顔が、すぐに険しいものへと変わる。
「ダメだわ。暗号化のレベルが王都の現行システムとは根本的に違う。王都の防壁が『外敵を弾く壁』だとすれば、これは『管理者以外を存在として認識すらしない虚無』よ。私のローカルOSじゃ、アクセスを弾かれる以前に、扉に触れることすらできない」
エリスが悔しげに唇を噛んだ時、レイが静かに歩み寄り、扉の中心で発光する世界樹のエンブレムへと直接右手を伸ばした。
「レイ? 物理攻撃で強引に壊そうとすれば、中のデータごと自爆するプロトコルが起動する可能性が……」
「壊しはしない。……『鍵』なら持っている」
レイの左手首でリストホルダーが明滅し、インベントリから漆黒のデータコアが実体化する。嘆きの谷で打ち破った王都の最強端末『執行官』のコア。それは単なる殺戮のための出力源ではなく、王都のメインシステムに直結した『最高位のアクセス権』そのものだ。
レイが漆黒のコアを純白のエンブレムに押し当てると、相反する二つのコードが激しく明滅して干渉し合う。やがて、重々しい空気の排気音と共に、数十年にわたって強固な物理封鎖を保っていた円形の扉がゆっくりと左右にスライドし始めた。
「開いた……!」
シエナが感嘆の声を漏らし、ニアが眩しそうに目を細める。
扉の奥に広がっていたのは、書物や物理的な記録媒体が並ぶ埃っぽい書庫などではなかった。見渡す限りの広大な空間に、無数の青白いホログラム・パネルが葉脈のように張り巡らされた、巨大な『星のサーバー・ルーム』だった。
四人が冷たいフロアに足を踏み入れた瞬間、空間の中央へ光の粒子が収束し、白衣を纏った一人の女性の姿を象る立体映像が静かに浮かび上がる。
『――アクセス権限を確認。第七世代メインフレーム、スリープモードを解除します』
感情を一切持たない、透き通った無機質な声が空間を満たした。
『ようこそ、第零アーカイブへ。……あるいは、この星の環境を致命的に食い潰した【魔法】という名のエラープログラムの墓場へ』
無機質なアバターが告げた一言。それは、王都のエリートたちが魔法を切り捨てた本当の理由であり、レイたち反逆者が直面する世界の根源的なルールを覆す、残酷な真実の幕開けだった。




