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第81話:貪る泥と反逆の牙

「グガァァァァァッ!!」

 事象破壊の刃によって触手を消滅させられた泥の巨塊が、苦悶に満ちた咆哮を響かせる。

 だが、安堵する暇はなかった。斬り飛ばされたはずの泥の断面がドロドロと波打ち、周囲のコンクリートや旧世界の鉄屑を飲み込みながら、瞬く間に新たな質量として再生し始めたのだ。

「ダメよ、レイ! あいつ、取り込んだ質量そのものがHPの塊みたいなものだわ。削っても削っても、周りの瓦礫を喰って無限に回復してる!」

 エリスが端末のモニターを睨みながら叫ぶ。王都の殺戮システムすら溶かす酸と、無限の再生能力。これこそが、かつての人類が地下を物理的に封鎖して逃げるしかなかった最大の理由だ。

「……なるほど。削り合い(リソース勝負)じゃ勝ち目はないってことか。なら、再構築している大元の心臓(コア)を直接砕くまでだ」

 レイは迫り来る泥の弾丸を【黒樹の邏卒(デッド・エンド・ブランチ)】の防壁で弾き飛ばしながら、後方へ指示を飛ばす。

「シエナ、エリス! 奴の中心核を割り出せるか?」

「無茶言わないでよ! スキャンしようにも、あの瘴気と泥のノイズが厚すぎて波形が読めないわ!」

「待って、エリス! 匂いが……違うわ」

 シエナが鼻をヒクつかせ、双剣を構えたまま叫んだ。彼女の亜人としての鋭敏な嗅覚が、死臭と鉄錆の混ざる空間の中で、微かな違和感を捉えていた。

「あの泥の奥底……右下のあたり。ひときわ濃い鉄錆と、古い機械の匂いがする場所がある。あいつが一番大事に守りながら消化してる『胃袋』のど真ん中よ!」

「シエナの嗅覚データをOSの索敵コードに同期させるわ!……ビンゴ! 泥の右下部、旧世界の巨大なメインフレームを核(ブレイン)にして己の泥を制御してる!」

 エリスのハッキングによって、レイの網膜に赤いターゲットマーカーが浮かび上がる。

 だが、そこは分厚い泥の装甲の最も奥深く。いかに【黒樹の邏卒】の極大防壁といえど、深部まで潜れば周囲全方位からの酸の圧力に押し潰されかねない。

「ニア、俺の武器に『浄化』のコードを全力で上乗せしろ」

「は、はいっ! 【清浄なる領域(アンチ・ウィルス)】、単体指定(フォーカス)!」

 ニアが必死に祈るように両手をかざすと、漆黒の棍の表面に淡い緑色の光のコーティングが施される。

 すべての準備が整った。レイは泥の巨塊に向かって一直線に駆け出す。

「グルルルゥゥゥッ!!」

 レイを完全に呑み込もうと、四方八方から致死の泥津波が襲いかかる。しかし、ニアの浄化コードが触れた瞬間の酸を無効化し、さらに【黒樹の邏卒】の防壁が物理的な泥の波を真っ二つに割って道を切り開いた。

「喰らうのがお前のシステムなら――」

 泥の最深部。赤黒く脈打つ巨大なメインフレームの残骸に向かって、レイはバグの光を放つ棍を真っ向から突き立てた。

「俺の『バグ』も残さず喰らい尽くせ!!」

 圧倒的な質量を誇る泥の装甲の内側で、事象破壊の高周波バグが爆発的に拡散する。

 絶叫のようなノイズを響かせながら、かつて王都を絶望させた深淵の捕食者は制御不能のエラーを引き起こし、内側からボロボロと崩壊を始めた。

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