第70話:反逆の代償
HP残量【45】。
それは死の淵、文字通りシステムが強制終了を迎える直前の数値だった。
全身の神経が焼き切れるような激痛の中、レイは【超硬度外殻】の残滓を強引に絞り込み、崩れかけた肉体を支えて立ち上がった。
「……まだだ。俺たちの反逆は、こんな所で終わるプロトコルじゃない」
漆黒の執行官の一体が、無機質な青いバイザーをレイに向けたまま、高周波ブレードをゆっくりと構え直す。
「対象の生存反応を確認。……例外処理として、完全消去を実行する」
逃げ道はない。ハッキングは完全に封じられ、シエナは重傷で動けず、エリスの魔力も底をついている。
だが、絶望の淵に立たされたレイの左手首で、これまでの死闘で奪い取ってきた全てのカードが――【空間収納】、【事象略奪】、そして【暴食の黒風】が、赤黒い異常な光を放って共鳴し始めた。
王都のシステムがどれほど完璧な秩序を敷いていようとも、外の世界で泥まみれになりながら拾い集めた「バグの残骸」は、いまや主の命と同期し、一つの狂気的なシステムへと変貌を遂げていた。
「――エリス。お前のローカルOSの全リソースを、この瞬間にここに集中させろ」
レイの冷徹な声に、後方の岩陰で息を潜めていたエリスがハッと顔を上げる。
「全リソースって……そんなことしたら、この端末の基盤が焼き切れて二度と起動しなくなるわよ!?」
「構わない。ここで死ねば全てが終わる。……王都の犬どもに、泥を喰らう人間の執念を見せてやる」
エリスは唇を噛み締め、震える両手をキーボードに叩きつけた。
「……っ、クソっ! 好き勝手言いやがって……! 私たちのREBELLIONを、ここで終わらせるわけないでしょ!!」
エリスの絶叫と共に、コンテナに繋がれた無数の配線が激しい火花を散らし、残された全ての魔力がレイのリストホルダーへと爆発的に流れ込んだ。
バチィィィィンッ!!!!!
世界が真っ赤なエラーコードに染まる。
レイは右手の【ただの木の棒】を大きく振りかぶり、限界を超えた【確率演算】の限界値を発動させた。
狙うは、執行官の胸元に輝くメインコアの一点のみ。
死と隣り合わせの荒野で這い上がってきた反逆者たちのすべてを乗せた一撃が、王都の絶対的な秩序へと叩き込まれる――!




