第69話:執行の刃
「……排除を開始する」
漆黒の特務防衛部隊――『執行官』の一体が、感情の欠片もない合成音を響かせた。
その瞬間、肉眼では捉えきれないほどの超高速で空間が歪み、執行官の姿がかき消えた。
「――っ、上だ!!」
レイの【確率演算】が、コンマ数秒後の死角からの軌道を弾き出す。
反射的に【ただの木の棒】を掲げた直後、凄まじい衝撃がレイの全身を襲った。執行官が放った高周波ブレードの斬撃が、レイの『超硬度外殻』ごと肉体を抉り取る。
「ガッ……!」
HP残量【310】という限界を超えた肉体に、文字通り桁違いのダメージが突き刺さる。レイの身体は砲弾のように背後の岩肌へと叩きつけられ、堅い岩盤を盛大に砕いた。
「レイ!!」
「っ、ふざふざけないでよ……!」
シエナが悲鳴を上げ、双剣を構えて執行官へと飛びかかる。しかし、もう一人の執行官は振り返りすらしなかった。冷徹に腕部の銃口を向け、容赦なく放たれた重力弾がシエナの足元の地面を抉り飛ばす。
衝撃波だけでシエナは吹き飛ばされ、愛用の双剣が空中でむなしく弾き返された。圧倒的な力の差の前に、亜人の精鋭である彼女です一歩も近づけない。
「クソッ、私のローカルOSの波長を完全に見切られてる……! 端末からのハッキングが防壁に弾かれるわ!」
後方の岩陰でエリスが両手をキーボードに走らせるが、王都の最高峰セキュリティを誇る執行官のコードは、彼女の即席のシステムを完全に凌駕していた。パルスの嵐はすべて無効化され、逆に強烈なフィードバックがエリスの端末を焼き焦がしていく。
完全に追い詰められた。
傷だらけの肉体、機能しないハッキング、そして容赦なく迫る死の執行者。
瓦礫のなかに倒れ伏したレイは、口元から溢れる血を拭いもせず、冷徹な瞳のままゆっくりと立ち上がった。視界の端で、ローカルOSの赤色警告が激しく点滅している。
【警告:HP 45 / 2450 —— 限界値突破】
「……ふっ」
絶望的な数値の並びを見て、レイは不敵な笑みを浮かべた。
王都のシステムがどれほど強大で、完璧な死刑執行を用意していようと関係ない。彼らは『バグ』だ。ルールを外れた人間は、どれほど追い詰められようとも、最後にひっくり返すための手段を持ち合わせている。
レイの左手首で、略奪したカードと【暴食の黒風】が、主の瀕死の血に反応して狂ったように脈打ちはじめた。




