第7話:執行者の論理と、異端の答え
酒場の扉が荒々しく蹴破られ、冷徹な空気が店内に流れ込んだ。
神殿の純白の聖印を纏った特務騎士団の一団が、一糸乱れぬ足取りで踏み込んでくる。その先頭に立つ騎士団長・バルドは、鋭い双眸をレイへと向けた。
「そこまでだ、レイ」
バルドの低い声が、混乱して逃げ惑う客たちの喧騒を切り裂く。
彼は手元の端末に表示されたデータを確認しながら、冷ややかな笑みを浮かべた。
「第一区画での特異個体討伐、そして昨夜の廃墟ダンジョンにおける魔力異常の発生。貴様が『白紙のエラーカード』を用いてシステムの定めたコスト法則を踏み破った不具合の元凶だな」
特務騎士団の目的は明確だった。彼らにとってレイは、世界の秩序を根本から揺るがす「排除すべき例外処理」に他ならない。
しかし、レイは追詰められた者の焦りを見せることもなく、片手をテーブルに突いたまま、やれやれと首を振ってみせた。
「不具合、ねえ。大層な言い草だな。神殿の連中は、自分たちの都合の悪い現象はすべて『エラー』の一言で片付けるらしい」
「口を慎め平民崩れが!」
バルドの背後に控える副官が、怒気を孕んだ声を上げる。
「この世界は、神が授けたカードの理とコストの均衡によって保たれている。貴様のようにルールを無視してリソースをかすめ取る存在は、放置すればやがてこの世界全体のデータ崩壊を招く。……故に、ここでそのカードスロットごと処分する!」
副官の言葉に、論理的な裏付けがあった。
彼ら特務騎士団は感情で動いているのではなく、「世界の崩壊を防ぐための防衛措置」という絶対的な正義のもとに動いている。だからこそ、その行動に迷いは一切ない。
だが、レイはその正義の前提そのものを冷徹に撃ち抜く。
「世界全体のデータ崩壊、か。……だがよ、バルド団長。あんたたちは本当に『神の理』を信じているのか? それとも、自分たちが管理するシステムが不完全で、わずかな例外すら許容できないほど脆いから怯えているだけなんじゃないのか?」
「なに……?」
バルドの眉がピクリと動いた。レイの言葉には、ただの挑発にとどまらない、システムの核心を突く鋭さがあったからだ。
「俺がやっているのは破壊じゃない。システムが想定しなかった『別の計算式』の証明だ。コストが足りなければ別のリソースを代用し、手札がゴミなら独自の進化を導き出す。人間が定めたルールに縛られているだけのあんたたちには、それがバグに見えるのだろうがな」
「……弁明はそれまでだ」
バルドはそれ以上議論を重ねることを拒絶し、右手を高く掲げた。
彼らの目的はレイの思想を正すことではなく、あくまで「異端の排除」である。会話の論理が平行線を辿った以上、残された手段は武力しかなかった。
「騎士団、陣形展開! 容赦はするな、そのエラーカードの残骸ごと消し去れ!」
ガチャン、と一斉に数名の騎士たちが最高位の戦闘用カードをスロットにセットする。
逃げ遅れた酒場の店主や客たちが悲鳴を上げて床に伏せる中、レイは不敵な笑みを浮かべたまま、スロースタートで自身の【ただの木の棒】を握りしめた。
「お望み通り、俺の計算式の正しさをその身で教えてやるよ」
狭い酒場を舞台に、世界の理を司る執行者と、すべてをハメ倒す異端の頭脳戦が、静かに火花を散らした――。




