第6話:管理された世界の歪み
王都の中心にそびえ立つ、白亜の神殿。
その最奥に位置する極秘の監視室には、絶えず青白いモニターの光が明滅していた。
壁一面を埋め尽くす魔導計器の群れが、突如として耳障りな警報音を奏でる。
管理官の一人が、冷や汗を拭いながら計器の数値に目を凝らした。
「な、なんだこれは……!? 第四区画の廃墟ダンジョンで、局地的な魔力異常を検知!」
「馬鹿な。あそこは低ランクの採集場だぞ。高位の魔法カードなど持ち込めるはずがない」
ざわめく室内の中心で、特務監視官の男が険しい表情のままモニターを叩いた。
画面に映し出されていたのは、本来であれば膨大なHPやMPの犠牲を払わなければ発動しないはずの、禁忌の広範囲炎獄陣の軌跡だった。
「消費コストの偽装……? いや、そんなシステム上の穴など、この世界の絶対的な理において絶対にあり得ん。一体誰が、神の定めたルールを踏み破った……?」
男の背筋に、冷たいものが走る。
この世界は、すべてが「カード」という絶対のシステムによって管理され、秩序を保っていた。生も死も、富も貧困も、すべては神が与えたデッキの優劣によって決まる――はずだった。
そこへ、青ざめた表情の別の部下が飛び込んでくる。
「し、司令官! 先日、第一区画の広場であの特異個体を撃破した『無職』の少年……レイの動向を追っていたのですが……!」
「あのゴミ手札の平民か。奴がどうした」
「やつが所持していた『白紙のカード』から、過去に一度も観測されたことのない未知の例外エラー反応が確認されました。あいつの周囲だけ、カードの法則が……世界の理が書き換わっています!」
監視室に、重苦しい沈黙が落ちた。
神のシステムに対する唯一にして最大の反逆者。
その芽は、まだ小さいうちに摘み取らなければならない。
「……特務部隊を派遣しろ。あの少年の持つ『エラーの源』を回収し、処分する」
その頃。
王都から遠く離れた場末の酒場で、レイは冷めたエールをあおっていた。
手元のテーブルには、不気味に青く光る【ただの木の棒】と、先日の戦いで手に入れた高コストカードが置かれている。
酒場の喧騒から少し離れた暗がりで、レイの脳裏にある思考が巡っていた。
(システムは、すべての事象をカードに変換し、人間を管理下に置いている。だが、逆に言えば――この世界のすべてがカードでできているなら、俺の持つ『エラーカード』の書き換え権限を極限まで拡大すれば、この世界そのものを別の形に再構築することも不可能じゃない)
レイの瞳の奥に、冷徹で底知れない野望の光が宿る。
ただ理不尽な世界を生き抜くだけではない。この世界を縛り付けるシステムそのものをハメ倒し、根底から覆してやる。
その時、酒場の扉が荒々しく蹴破られた。
「いたぞ! その者だ!」
店内に響き渡る冷徹な声。
現れたのは、神殿の聖印を纏った一団――絶対の法を執行する『特務騎士団』の面々だった。彼らの手には、一般人では到底太刀打ちできない最高位の制裁カードが握られている。
酒場の客たちが恐怖に震えて逃げ惑う中、レイは慌てることなく、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
その口元には、不敵な笑みが浮かんでいる。
「ほう。雑魚を片付けたら、今度は本物の番犬がお出ましってわけだ」
逃げ場のない空間で、カードの理を無視する少年と、神の法を執行する者たちの激突が始まろうとしていた――。




