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第62話:再誕する手札(カード)

視界の隅で明滅する赤と緑のステータス画面。

 王都の洗練されたUIとは似ても似つかない、ノイズとエラーコードが混ざり合った歪なウィンドウだが、レイの目にはこれ以上ないほど頼もしい「武器」として映っていた。

「ステータスが可視化されただけじゃないわ。レイ、左手首のリストホルダーをシステムに同期させてみて」

 煤で顔を汚したエリスが、キーボードを叩きながら誇らしげに言った。

 レイが言われた通りにリストホルダーを端末に近づけると、チカッという電子音と共に、彼のインベントリ画面に新たな項目が追加された。

「これは……『カード生成』か?」

「ええ。あなたが集めてきた汚染獣のデータコアをローカルOSで解析して、王都にあったカードシステムを擬似的に復元したのよ。ただし、王都のように神(メインフレーム)から無尽蔵に支給されるわけじゃない。倒した敵のエラーデータを乱数化して、その数値の組み合わせでカードを精製するの」

 エリスはモニターに流れるデータ列を指差した。

「抽出される三つのデータ値の配列が完全に一致する『ストレート』なら高位の戦闘カード。順不同でも適合する『ボックス』や、その両方の性質を兼ね備えた『セットのボックス』なら、便利なユーティリティ(補助)カードが生成される仕組みよ。あなたの【確率演算】と相性が良いはずだわ」

「ランダムなドロップ素材から、確率で手札を組み上げるというわけか。悪くない」

 レイは即座にシステムの仕様を理解した。王都にいた頃のように、インフラとして当たり前に使っていた便利系カードや戦闘スキルが、この荒野でも自らの手で生み出せるようになったのだ。

「早速、さっきの汚染獣の余剰データで一回生成を回してみたわ。抽出されたデータ値は『7、3、5』。配列パターンはセットのボックスに該当ね。……ほら、出てきたわよ!」

 エリスがエンターキーを叩き込むと、端末の射出ポートから青白い光を放つ一枚のカードが物理的に生成され、レイの手のひらへと滑り落ちた。

【空間収納(インベントリ) Lv1】

・分類:ユーティリティ(便利系)

・効果:無菌状態の亜空間に、一定質量の物体を収納・取り出し可能。

「……王都では引越しや買い出しに使われる日用品だったが、この過酷な外の世界においては、水や食料、予備の武器をノーリスクで運搬できる『神の御業(みわざ)』に等しいな」

 レイはカードをリストホルダーにスキャンさせた。

 次の瞬間、足元にあった重いコアの麻袋や、水筒、携帯食料などが、青いポリゴン状の光となって虚空へと吸い込まれ、完全に消失した。リストを操作すれば、瞬時に手元へと実体化させることができる。

「うわっ、マジで!? 荷物が消えたわよ!」

 それまで黙って見ていたシエナが、目を丸くして銀色の尾を逆立てた。

「ウチの街じゃ、重い荷物を運ぶためだけに何十人も人足を雇ってるのに……。その小さな板切れ一枚で、全部解決するっていうの!?」

「これが『システム』の力だ。王都の連中は、これを独占して肥え太ってきた」

 レイは冷徹に言い放ちながら、さらにもう一枚、自らの左手首で激しい熱を放ち続けていた【白紙のエラーカード】を引き抜いた。

 ローカルOSの起動と、汚染獣の強大なデータに呼応したそのカードは、すでに白紙ではなく、黒い鉱物のような輝きを放ち、赤い文字列を浮かび上がらせていた。

【エラーカード更新:『事象略奪(スキル・イーター)』】

・分類:特殊戦闘カード(バグ)

・効果:対象の討伐時、敵対者が保有する『特異能力』または『ステータスの一部』を強制抽出し、自己の手札(カード)として保存する。

「……能力の略奪。これで、敵の戦力をそのまま俺たちのカードとして追加できる」

「戦闘から便利系まで、倒せば倒すほど私たちの手札(デッキ)は王都の精鋭部隊並みに強化されていくってことね」

 エリスが不敵な笑みを浮かべ、レイもまた【ただの木の棒】を肩に担ぎ直した。

 インベントリによる物資の完全確保。そして、敵の能力を奪い取る最凶の戦闘カード。王都のシステムを模倣し、かつ凌駕する力を手に入れた彼らの視線は、すでに荒野の最深部――『第零アーカイブ』へと真っ直ぐに向けられていた。

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