第63話:荒野の行軍と合成(シンセサイズ)
鉄屑の谷に別れを告げた三人は、灰色の雲が垂れ込める荒野を北西へと進んでいた。
目指すは世界の真実が眠る特異点『第零アーカイブ』。シエナの案内のもと、大規模な汚染獣の巣を避けつつも、レイは意図的に群れのはぐれ個体を狩り、ローカルOSの稼働テストとデータ収集を並行して行っていた。
「――シィッ!」
レイの鋭い呼気と共に、【ただの木の棒】が空気を引き裂く。
襲いかかってきた三匹の小型汚染獣が、物理法則を無視した質量の一撃によって同時に粉砕され、赤いポリゴンの塵となって荒野に散った。
すかさず、レイの左手首のリストホルダーが青い光を放ち、エラーデータを吸い上げる。網膜に浮かび上がるバグ混じりのUIに、新たな乱数データが抽出された。
【抽出データ値:7・3・5(配列パターン:セットのボックス)】
【同配列の既存カードを検知。合成を開始します】
「エリス。同じ乱数パターンのデータが揃ったぞ」
「予想通りね! 王都のシステムでは神が勝手にアップデートを配信していたけれど、このローカルOSでは、同じパターンのデータを重ね合わせることでカードのコードを自力で上書き(レベルアップ)できるのよ」
リストホルダーの射出ポートから放たれた光が、すでにレイが所持していた【空間収納 Lv1】のカードに吸い込まれていく。
黒い鉱物のような輝きが一段と増し、カードの表面に刻まれた文字が書き換えられた。
【空間収納 Lv2】
・追加効果:収納空間内の『時間経過の完全凍結』を獲得。
「空間内の時間凍結……。これで、さっきシエナの街で貰ってきた生肉や水が、永遠に腐らずに持ち運べるわね」
後方を歩いていたエリスが、携帯端末を操作しながら満足げに笑う。
「信じられないわ……」
シエナは銀色の尾をパタパタと揺らし、目を丸くしてその光景を見つめていた。
「外の世界じゃ、獲れた肉はその日のうちに食べ切るか、泥まみれの塩漬けにしてカチカチにするしかないのに。あんたたち、神様の奇跡でも使ってるつもり?」
「ただのハッキングと泥棒よ。神様なんて、もっとタチが悪いわ」
エリスの軽口に、レイは微かに口角を上げ、進化したインベントリのカードを再びリストに収めた。
ただ敵を倒すだけではない。倒せば倒すほど、彼らの手札は無限の組み合わせを生み出し、生存のためのシステムを強固にしていく。
荒野の風は相変わらず冷たいが、もはや彼らは無力な追放者ではない。牙を研ぎ澄ませた反逆者たちの行軍は、着実に第零アーカイブの影へと迫っていた。




