第43話:接触の予感
不規則な青白い光の点は、荒涼とした大地を縫うようにして、着実にその距離を縮めてきていた。
風に乗ってかすかに届くのは、重苦しい機械の駆動音というよりも、硬質な金属が地面を引きずるような耳障りな摩擦音だ。王都の管理下にあった洗練された警備ユニットとは明らかに異なり、その挙動には制御を失った者のような異様なぎこちなさが漂っている。
レイは洞窟の入り口の岩陰に身を潜め、呼吸の音さえも極限まで殺した。
生身スキルである【確率演算】の思考回路が、冷徹に状況を分析し続ける。
(距離、およそ二百五十。移動速度は一定だが、地形の瓦礫に足を取られてやや不安定か……。個体数は、おそらく単体、あるいは――)
思考の海を巡らせながら、レイの右手は【ただの木の棒】の柄をしっかりと握り締めていた。
進化前夜の微光を帯びた木製の棒は、周囲の冷気の中でもかすかな熱を放ち、レイの掌の温度と重なり合っている。システムの外側に放り出された彼らにとって、それはもはや単なる武器ではなく、この過酷な現実世界で生存を証明するための数少ない確かな実体だった。
左手首のリストホルダーに収められた【 ????? 】のカードと【白紙のエラーカード】は、近づいてくる光の波長に感応するかのように、ピリピリと神経を焼くような微弱な疼きを送り続けている。
それは警告のようでもあり、あるいは同族の気配を察知したかのような不気味な共鳴だった。
――もし、あれが王都の残存スキャナーであれば、この洞窟の遮蔽物などすぐに看破されるだろう。
背後を振り返る。
洞窟の奥、薄暗い一角ではエリスが微動だにせず横たわっていた。鎮静パッチの効果で神経の激しい痙攣こそ収まっているものの、MPは依然として1のままであり、生体回路の自己修復にはまだ十分な時間が必要だ。ここで戦闘や大規模な魔力の露出が起きれば、彼女の消耗しきった肉体に再び致命的な負荷が跳ね返りかねない。
(戦闘は極力避ける。だが、不可避であれば――この先頭の一撃で確実に沈黙させる)
レイの瞳に迷いの色は一切ない。
かつて王都のシステムに管理されていた頃の従属的な意識はとうに消え失せ、目の前にある脅威を冷静に数値化し、排除するための冷徹なハンターの思考だけが残されていた。
足音が、いよいよ洞窟の入り口の真横へと近づいてくる。
風の唸りに紛れて、シュコー、という乾いた気体の抜ける音が聞こえた。
レイは身構え、右足の重心を落とし、いつでも跳躍して一撃を叩き込めるよう筋肉の緊張を高める。
影が、洞窟の入り口のわずかな隙間から漏れる微光の中に、その異様な姿をさらそうとしていた――。




