第42話:近づく影
地平線の彼方から這い寄るように現れた「光の点」は、近づくにつれてその異質な正体を明確な輪郭へと変えていった。
それは温もりある太陽の光でも、王都のドームを彩っていた整然とした管理コードの光でもない。青みがかった冷徹な電気信号が、まるで呼吸をするかのように不規則に明滅している。
無機質なガラクタや崩壊したドームの残骸を踏みしめながら、その影は確実にレイたちの潜む洞窟へと向かって進んでいた。
(……自律型の探索ドローンか、あるいは――)
レイは【確率演算】の思考を高速で回転させ、対象の移動速度と風速、地形の起伏から導き出される接触までの時間を一瞬で弾き出す。
距離はおよそ三百。このペースであれば、数分も経たずにこの洞窟の入り口付近へと到達する。
もしそれが王都から放たれた残存の排除ユニットであれば、隠密行動をとっている今の二人の位置が特定されるのは時間の問題だった。エリスは未だに深い眠りに落ちており、MPは1のまま動けない。戦闘になれば、レイが単身ですべてを処理しなければならない。
「……っ」
レイは無言のまま、右手に握りしめた【ただの木の棒】に力を込めた。
進化前夜の微光を放つその棒は、ただの木製品でありながら、システム外の異質なエネルギーを帯びて確かな質量と手応えをレイの掌に返している。
左手首のホルダーでは、変質した【 ????? 】のカードと【白紙のエラーカード】が、近づく光の波長に共鳴するかのように激しい疼きを脈打たせていた。
(迎撃するか、それとも――)
洞窟の奥から聞こえるエリスの寝息は穏やかだ。彼女を危険に晒すわけにはいかない。
レイは物音一つ立てず、足元の岩陰に身を潜めたまま、近づきつつある青白い光の群れを冷徹な眼光で見据え続けた。




