第41話:暗転する視界
洞窟の入り口付近に身を潜め、レイは冷徹な視線を外の荒涼とした景色に向けていた。
鉛色の空から吹き付ける風は時折唸りを上げ、地表の細かな砂塵や砕けたコンクリート片を乾いた音とともに転がしていく。遠方に見える崩落した構造物の影は、時間の経過とともに夕暮れのような鈍い暗褐色へと染まりつつあった。
王都を囲んでいた箱庭の管理下であれば、一定時間ごとに周囲の環境データや安全保障のステータスが視界の隅に自動でポップアップしていたはずだ。しかし、この外の世界にそんな親切な機能はない。
レイが頼れるのは、自身の肉体に刻まれた【確率演算】の思考回路と、生身の五感、そして左手首のホルダーから漏れ出る不規則な青白い冷光だけだった。
(……風向きが変わった。夜にかけて、一段階冷え込むか)
肌を撫でる空気の温度低下と、気圧のわずかな変動を筋肉と皮膚の感覚で捉えながら、レイは思考を巡らせる。
エリスの回路のオーバーヒートは鎮静パッチと冷却ジェルによって最悪の危機を脱したが、MPが1のままでは、目覚めたところで自力移動はおろか簡単な防衛コードの構築すらままならない。完全回復には半日以上の静養が必要不可欠だった。
つまり、この洞窟での籠城はまだしばらく続けなければならない。
背後を振り返ると、暗がりの中でエリスの寝息は先ほどよりもいくぶん安定していた。神経を焼くような痙攣から解放され、過熱していた生体回路が最低限の自己修復モードに入っている証拠だ。
レイは再び意識を前方の荒野へと戻し、周囲の警戒態勢を維持しようとした――その時だった。
ピリ、と。
左手首のリストホルダーに収められた【 ????? 】のカードと【白紙のエラーカード】が、これまでとは明らかに異なる鋭い疼きをレイの神経に伝えた。
(……?)
それは冷たい電子の冷光が、まるで外部からの何らかの干渉波を拾ったかのように、激しく明滅を繰り返す感覚だった。
同時に、レイの脳裏に直接焼き付くような形で、システム外の異質なエラーコードの断片がスパークする。
《――局所的干渉……検知……》
音声としての音はない。ただ、脳の奥の神経回路を直接引っ掻くような、不快なノイズの直感が走った。
レイは即座に【ただの木の棒】を構え直し、姿勢を低くして視線を鋭く尖らせる。
視界の端、荒野の地平線と崩れかけた瓦礫の境界線。
そこに、これまでにはなかった「異質な光の点」が、不規則な軌跡を描きながらゆっくりとこちらへ接近してくるのが見えた。




