第4話:エラーの波紋と、初めてのカード進化
特異個体の魔獣を鼻の穴への一撃で沈黙させた静寂の中、レイの頭上に浮かぶシステムウィンドウが、わずかに不協和音を奏でた。
《……警告。システムエラーを検知》
《通常外の戦闘データ(古武術・確率演算)が、初期デッキに干渉しています》
《条件達成――【ただの木の棒】の固有進化ルートが開放されました》
「ん?」
レイが自分の手元に目をやると、子供のチャンバラ用だったはずの【ただの木の棒】の木目が、青白く不気味な回路の模様のようにうっすらと発光していた。
それは、システム管理されたこの世界では絶対にあってはならない「不具合」の始まりだった。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」
ポトリと魔導書カードを落としていたエリート令嬢・ルミアが、青い顔のままトコトコと歩み寄ってきた。
先ほどまでの高慢な態度はどこへやら、彼女の瞳には畏怖と、激しい混乱の色が浮かんでいる。
「なんなの、今の……! 魔法も使わず、ただの木の棒で魔獣を……しかも、あんたの持ってるカード、今変な光を放たなかった!?」
「あぁ、これか?」
レイは平然とした顔で、ほんの少しだけ密度と重さを増した【ただの木の棒】を持ち上げて見せた。
「さっきの戦闘データを、この三枚目の【白紙のエラーカード】が勝手に吸い取りやがってな。どうやら俺のカードは、他の連中のと違って『戦えば戦うほど、勝手にバグって進化する』仕様らしい」
「は、はあ……? カードが勝手に進化するって、そんなの聞いたことないわよ! この世界のカードは全部、神殿で発行された初期スペックから一生変わらないようになってるの! 変異するなんて、それじゃあまるで――」
「俺自身が、この世界のバグ(特異点)ってことだろ」
レイがニヤリと不敵に笑うと、ルミアはギョッとしたように一歩後ろへ下がった。
だが、彼女のプライドがそれを許さないのか、ぷるぷると唇を震わせながら声を張り上げる。
「っ、調子に乗らないでよね! たまたま運が良かっただけじゃない! それに、これからあんたがどうやって生きていくつもりよ。この世界じゃ、新しいカードを手に入れるには高額なダンジョン報酬か、ギルドの正式な配給が必要なんだから!」
ルミアのその言葉を遮るように、レイの端末が再びピピッ、と軽快な音を鳴らした。
《戦闘報酬のドロップを検知しました》
《【追加スロット】に新しいカードが追加されます》
シュピンッ! と、魔獣の消えた足元から、一枚の真新しいカードがレイの手元へと吸い込まれていく。
レイが表を確認すると、そこに描かれていたのは――。
【劣化された魔獣の牙】
――説明:魔獣の素材から精製された。切れ味はそこそこだが、投擲用のナイフとしても使える。
「ほらな。言ってるそばから追加された」
「嘘……! 倒した魔獣から直接カードが生成されたっていうの……!?」
ルミアは絶句した。
一般の人間がカードを手に入れるには何段階もの複雑な抽出プロセスが必要なのに、レイは「生身の戦闘と知略」で直接敵からカードを剥ぎ取り、さらに自分の手札として追加してしまったのだ。
初期デッキの「特異進化」と、戦闘による「カードの追加・強奪」。
システムの外側を暴走するレイの力は、堅牢なカード社会の理を、今まさに音を立てて歪め始めていた。
「さてとお嬢ちゃん。見学は終わりだ。俺はこの追加された牙カードをどう料理するか考えるんでね。これ以上絡んでくるなら、お前のその自慢の魔導書カードも『進化の実験台』にしちまうが?」
「っ……! だ、誰が絡むもんですか! 勘違いしないでよね、あんたがどうなろうと私の知ったことじゃないんだから!」
真っ赤になりながら背中を向け、早足で去っていくルミアの背中を見送りながら、レイはフッと小さく笑った。
(さて、最初の獲物は手に入った。次は……この世界の裏を暴くための『次の盤面』へ行くとしようか)
最強の頭脳と、進化し続けるバグ手札を手に、レイの壮大なる大河の旅が本格的に動き出す――!
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【名前】 レイ
【職業】 無職 / 【Lv】 2
【HP】 50 / 50
【MP】 4 / 5
【筋力】12(UP!) 【敏捷】15 【魔力】1
《装備スロット(4/4:拡張!)》
・【ただの木の棒(※進化前夜・微発光)】
・【微風】
・【白紙のエラーカード(※進化の触媒)】
・【劣化された魔獣の牙】(NEW!)
《生身スキル(※システム外)》
・【確率演算】【古武術:極】
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