第3話:エリートの尊厳と、あまりにシュールな処刑方法
ドゴォォォン!!
盛大に前のめりへ転倒した特異個体の魔獣が、砂煙の中で「クゥ〜ン……」と情けない鼻息を漏らした。
三半規管をピンポイントでバグらされた巨体は、すでに戦闘不能のオーラを漂わせている。
だが、周囲の広場に広がるのは、歓声ではなく――異様なほどの静寂だった。
「…………は?」
誰かの間抜けた声が響く。
最高レアリティの【魔導書カード】を三枚も浮かべ、今まさに「華麗に魔獣を焼き払うヒロインの図」をキメるはずだったエリート令嬢・ルミアは、両手を掲げたまま完全にフリーズしていた。
彼女の脳内は、今の現象を理解するキャパシティを超えてエラーを起こしている。
(待って。何あれ? 私が必殺魔法の詠唱を完了するより前に、あの平民崩れが……たった一発の『そよ風』で、あの巨体を自爆させたの? え、風邪の初期症状みたいな魔法でボス級が転ぶことある!?)
ルミアの美しいお人形さんのような顔が、信じられないものを見る目でみるみる歪んでいく。
さらに、周囲のギャラリーたちもざわめき出した。
「おい、見たか今の……!」
「見えねえよ! なんかこう、フッてやっただけだぞ!」
「マジシャンかよ! いや、でもカードの効果は『夏の暑さ対策』って書いてあったぞ! なんでエアコンの風で魔獣が沈んでんだよ!」
「バカな! あんなの格下のザコ技だ! インチキだろ!」
野次馬たちのパニックをよそに、当事者であるレイは、肩に担いだ【ただの木の棒】をポリポリと後頭部に当てながら、やれやれと深い溜息をついた。
「いやぁ、これだから文明に依存しきった脳筋どもは困る」
レイは冷ややかな目を、呆然と立ち尽くすルミアへと向けた。
「お嬢ちゃん。いくら高い魔導書カードを並べたって、相手の生態と重心移動の法則すら見えてなけりゃ、ただの『高い置物』だぜ? 宝の持ち腐れってやつだな」
「なっ……!?」
ルミアの顔が、怒りと羞恥心で真っ赤に染まる。
自尊心を完膚なきまでにへし折られた彼女は、ぷるぷると震えながら叫んだ。
「た、たまたまよ! まぐれ当たりに決まってるわ! そんなゴミみたいな木の棒とそよ風で、この魔獣のとどめを刺せるわけが――」
「刺せるぞ?」
「は?」
レイはクスリと不敵に笑うと、足元で気絶しかけている魔獣の巨体に歩み寄り、ひょいと【ただの木の棒】を突きつけた。
――説明:そこらへんの雑木林に落ちていた。攻撃力1。子供のチャンバラごっこ用。
「攻撃力1だ。だがな、この魔獣の唯一の弱点は『鼻の穴の粘膜が異常にデリケートで、そこをピンポイントで突かれるとショック死する』って、さっきの確率演算ですでに弾き出してある」
「そんなバカなデータがあるわけ――」
「行くぞ。『ただの木の棒』による、人類史上最もシュールなオーバーキルだ」
レイは表情一つ変えず、ただの木の棒の先端を、魔獣の鼻の穴へと――ブスッ! と極めて事務的にねじ込んだ。
「グギャッ!?」
――ビクゥッ! と全身を激しく痙攣させた特異個体の魔獣は、その瞬間にガクッと頭を垂れ、完全に沈黙した。
頭上のシステムウィンドウが、淡い光を放って告げる。
《討伐完了。経験値を獲得しました》
《レベルが『2』に上がりました》
「……」
静まり返った広場。
エリート令嬢ルミアは、口をあんぐりと開けたまま、自分の頭上に浮かんでいた高級魔導書カードを、ポトリと地面に落とした。
最高峰の魔法でもなく、伝説の剣でもなく。
そこらへんの木の棒とそよ風、そして鼻の穴への一突きで魔獣が秒殺されるという、あまりにもシュールで規格外な幕開けに、誰もが言葉を失うのだった。
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【名前】 レイ
【職業】 無職 / 【Lv】 2 (UP!)
【HP】 50 / 50
【MP】 4 / 5
【筋力】10 【敏捷】15 【魔力】1
《装備スロット(3/3)》
・【ただの木の棒】【微風】【白紙のエラーカード】
《生身スキル(※システム外)》
・【確率演算】【古武術:極】
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