第27話:現実の重力
重厚なゲートの向こう側に広がっていたのは、管理ドームの洗練された人工空間とは似ても似つかない、剥き出しのコンクリートと錆び付いた配管が剥き出しになった無機質なメンテナンス通路だった。
空気の密度が違う。
システムによる気圧や温度の自動調整が及ばないその場所は、冷たく淀んだ空気が満ちており、呼吸をするたびに肺の奥がわずかにヒリついた。
背後では、いまだに崩壊を続ける箱庭の轟音が地響きとなって伝わってきていた。ゲートの扉は自動で閉ざされかけているが、一度抉じ開けられたセキュリティの基盤はすでに焼き切れており、二度と元のロックがかかることはない。
「……ここが、実験区画の維持ルート……」
エリスは壁に手をつきながら、周囲の錆びたパイプや天井で明滅する古い非常灯を見回した。
彼女の額には脂汗がにじみ、先ほどからの無理がたたり、痛む腕をかばいながら荒い息を繰り返している。システムによる自動修復がない世界では、生体回路に受けたダメージはそのまま肉体の負債として積み重なっていく。
「無理をするな」
レイは振り返ると、エリスの様子を一瞥して短く言った。
「ここで足が止まったら、一緒にリセットのデータに巻き込まれるだけだ。歩けるか?」
「……そんな心配をされる筋合いはないわよ。足はまだ動くわ」
エリスは苦悶を押し隠すように小さく息を吐き出しつつ、しっかりと地に足をつけた。
「私たちを管理していたあの箱庭が『上層』だとすれば、ここはすべての理の裏側、いわばゴミ捨て場のようなものね。……管理者たちが何を隠していたのか、見てやろうじゃない」
二人は足音を殺しながら、薄暗く続く通路の奥へと歩みを進めた。
通路の壁面には、かつてこの区画で行われていた実験の痕跡を示すかのように、無数の古いモニターやデータ端末が並んでいたが、そのほとんどはシステムの中枢が崩壊した影響で画面がブラックアウトしているか、あるいは激しいノイズの嵐に見舞われていた。
しかし、そのうちの一台のモニターが、二人の足音に反応するかのように突如として明滅を始めた。
ブツッ、と不快なノイズ音とともに、画面の砂嵐の奥から、無数の文字列と――見覚えのある「王都の住民たちの生活データ」のサムネイルが幾重にも映し出される。
「……これって……」
エリスがハッとして足を止めた。
モニターの端に表示されていたのは、崩壊する箱庭の中で、これから何が起きるかも知らずに日常を営んでいた一般人たちのログだった。




