第26話:境界のゲート
崩れ落ちる外縁通路の足場を飛び移りながら、二人は目的の建造物――「実験区画へのゲート」へと肉薄していた。
背後では、管理ドームの崩壊が本格的な瓦解へと変わり、空を覆っていた幾何学模様のコードが激しいノイズを伴って明滅している。世界の基盤そのものがロストしていく轟音が、耳をつんざくように響き渡っていた。
「ここよ……!」
エリスが息を切らせながら、通路の突き当たりにそびえ立つ巨大な金属製のゲートを指さした。
かつて王都の管理者や特権階級しか立ち入らなかったはずの区画。その重厚な扉には、幾重もの暗号化されたセキュリティコードが網の目のように張り巡らされている。
――この箱庭のシステムが完全に崩壊していく中、中で平穏に暮らしていた一般の人々がどうなってしまうのか。エリスの脳裏にもその不安がよぎっていたが、立ち止まる余裕などどこにもなかった。今はまず、この閉鎖された空間から脱出するのが先決だった。
レイはゲートの前に立ち止まると、左手首のリストホルダーに神経を集中させた。
「――マテリアライズ」
ホルダーから一筋の光が走り、手の中に収まったのは進化を遂げた【 ????? 】のカードだ。
普通の人間にはただのデータ媒体、あるいは触れることすら許されないエラーの塊であるそのカードを、レイはゲートのメイン・インターフェースへと静かにかざした。
「ちょっと、まさか……そのカードの不規則なエラーコードで、ここのセキュリティを無理やりこじ開ける気っ!?」
エリスが息を呑みながらレイを見上げる。
このゲートの認証規格は、通常の人間や並みのカード使いが持っているコードでは到底突破できない。だが、レイの手にあるカードは、システムの外側で変質した「唯一無二の例外データ」だ。
「他に方法があるなら教えてくれ」
レイが冷徹に言い放つと同時に、未知のカードが青白い冷光を激しく明滅させた。
――ジリリリッ! と神経を逆撫でするような電子音が走り、カードから放たれた無数のエラーパケットが、ゲートの複雑なセキュリティ回路へと直接流し込まれる。
正規の認証プロセスを完全に無視した「暴力的な上書き」。
ゲートの表面を覆っていた幾何学模様のコードが激しく痙攣し、次の瞬間、パチン、と乾いた音を立ててすべての鍵が強制解除された。
「……嘘でしょ。本当にこじ開けた……」
エリスが息を呑む中、重厚な金属扉がギギギと不気味な音を立てて左右にスライドし始める。
その隙間から流れ込んできたのは、これまでの箱庭の空気とは全く異なる、生々しい「現実の風」だった。
「行くぞ」
レイは手首のホルダーにカードを戻す動作を済ませ、開いたゲートの向こうの暗がりへと足を踏み出した。




