第21話:例外の刃
圧倒的な重力座標の固定と、容赦なく降り注ぐ特権カードの光弾。
エリスが展開した防壁はひび割れ、彼女の膝がガクンと折れかけた。
「……くっ、バルドの出力は、これまでの管理権限のレベルを超えている……! このままでは中枢の演算リソースごと押し潰されるわ!」
「っ……流石に、空間ごと座標を固定されると、こんな重力の中じゃ指一本動かせねえな……」
レイは冷徹な表情を保ちながらも、全身を襲う凄まじい重圧に奥歯を噛み締めた。冷静な分析力を失ってはいないが、先ほどまでの余裕は消え失せ、冷や汗が額を伝う。
フィジカルの強さや、小手先の回路のハックだけでは、最高管理官が築き上げた「絶対の理」の壁を突き破ることはできない。バルドの背後にそびえるシステム・コアは、今この瞬間も無限に近い演算処理をバックアップとして彼の魔力に供給し続けているからだ。
「無駄な足掻きだ、レイ。王都の末端から執行官どもを次々とハックし、私の管理領域にまで土足で踏み込んできた『最悪のバグデータ』よ」
バルドは冷ややかな笑みを浮かべ、さらに数枚の漆黒の特権カードを虚空に展開した。
空間そのものを押し潰す致命的な一撃が、レイとエリスを完全に消し去ろうと放たれる――。
(――だが)
レイの脳裏で、これまでの戦闘のデータが高速で組み上がる。
かつて戦闘の代償としてコストに消え、完全に消滅したはずの初期手札【微風】。だが、神殿中枢への侵入とエラーカードの暴走によってシステムの外側から演算リソースが逆流し、失われたはずのそのデータが勝手に再構築されていた。
それがエラーの奔流に呑まれ、変質した未知のカード、【 ????? 】――。
「システムが予測できない例外なんてない、だと?」
圧倒的な重力で身体が床に縫い付けられるような絶望的な状況の中、レイは全身の毛細血管を破る勢いで強引に意識を集中させ、自らの神経回路をスロットに無理やり直結させた。物理的な腕の力ではなく、限界を超えた執念の意志の力だけで、胸元のスロットからそのカードを力ずくで引き抜く。
「ぐっ……!」
引き抜いた瞬間、カードの隙間から爆発的なまでの疾風が吹き荒れた。もはやそれは、ただのそよぐ風などではない。世界を構築する理そのものを切り裂くための「鋭利な真空の刃」へと変貌を遂げていた。
「お前のその完璧な理はよ、『消滅して消えたはずの初期手札が、勝手にバグを拾って再構築される』までは計算に入れてなかったはずだ!」
レイがその真空の刃を纏ったカードを前方へ突きつけた瞬間、周囲の空間を縛り上げていた重力座標の束縛が一瞬で切り裂かれ、神殿の中枢ドーム全体を揺るがすほどの異様なノイズの嵐へと変わる。
バルドの整った顔に、初めてわずかな動揺の色が走った。
「なっ……!? その魔力の波動は……完全に消滅したはずの初期配給の【微風】が、なぜシステムの管理外でこれほどの例外変異を起こしている……!?」
「……知るかよ。勝手にバグりやがったんだ」
【ただの木の棒】と、進化した【微風】の残滓を両手に構え、レイは冷徹な瞳の奥に鋭い闘志を宿しながら、圧倒的な格上の敵を見据えた。
理を司る最高管理官と、すべてを書き換える異端の少年の激突が、最高潮へと達する――。




