第22話:システム例外の牙
神殿の中枢ドームを揺るがすほどの異様なノイズの嵐の中で、レイは不気味に脈動する【 ????? 】のカードと【ただの木の棒】を両手に構えた。
重力座標の束縛は破られたが、バルドの周囲に展開された漆黒の特権カードは、依然として圧倒的なまでの魔力の光を放ち続けている。
「……面白い。ゴミデータの寄せ集めが一時的にシステムを攪乱したところで、根源の理そのものを覆すことなどできん」
バルドの冷徹な瞳に再び光が宿り、彼の周囲の空間が歪み始める。
システム・コアから直接供給される無限の演算リソースが、ドーム全体の重力を数倍に跳ね上げ、床の石畳がミシミシと音を立ててひび割れていく。物理的な攻撃や小手先のハックでは、コアそのものの防衛機構を完全に沈黙させることはできない。
(こいつの出力の源は、あの後ろのコアだ。いくらこっちのカードが変質したところで、正面から撃ち合えばこちらの演算リソースが先に焼き切れる……)
レイの冷徹な頭脳が、わずかな時間で最適解を弾き出す。
正面突破は不成立。ならば、バルドとシステム・コアを繋いでいる「同期回線」そのものを逆手に取り、内側からエラーを流し込むしかない。
そして、元・設計者であるエリスなら、誰も持っていない特権的ポートを用いてその内部回線をこじ開けられると、レイはこれまでの道中のやり取りから確信していた。
「エリス」
レイが短く声を張り上げると、床に崩れかけていたエリスが痛みに顔を歪めながらも顔を上げた。
「……わかってるわ。バルドの権限コードの隙間、私がこじ開ける」
エリスは古びた金属デバイスを自身の腕へと強く押し当てた。
人間が生まれながらに持つ生体回路のベースは共通規格であり、王都の管理システムによって誰もが同じ位置にデータバスの通り道を持っている。しかし、どこを外部デバイスとリンクさせるかという個別の接続ポイントや、内部に蓄積されたエラーのルーティングは人によって異なる。元・設計者であるエリスには、一般人には隠された特権的なアクセスポートが存在していた。
彼女の古い設計者としてのコードが、システムの中枢に強制アクセスを開始する。デバイスの画面が真っ赤なエラーコードに染まり、エリスの口元からツーッと一筋の血が伝った。
「馬鹿な……! エリス、貴様、自分の生体データを削る気か……!」
バルドの表情に、はじめて明確な焦りの色が混じる。
エリスの命がけたハッキングによって、最高管理官であるバルドの絶対的な権限(特権カードの制御権)に、わずかコンマ数秒の「ロスタイム(隙)」が生じた。
「今だ――!」
レイはその隙を逃さず、地面を蹴り飛ばした。
胸元から引き抜いた【 ????? 】のカードが放つ真空の刃が、バルドの築いた防衛障壁の僅かな綻びを正確に切り裂いていく。同時に、手にした【ただの木の棒】が、システム・コアの接続端末へと鋭く突き出された――。




