第109話:本当の空と泥の太陽
第四拡張都市のガラスドームを突き抜け、黄金色の陽光が真っ直ぐに降り注ぐ。
数十年の間、星を覆い隠していた分厚い灰色の雲が晴れ渡り、無限に広がる青空と本物の太陽が、荒野の世界を暖かく照らし出していた。
「……あたたかい。これが、本当のお日様の光……」
ニアが両手で光を受け止めるように差し出し、ポロポロと大粒の涙をこぼす。シエナも眩しそうに目を細め、言葉を失ったまま青空を見上げていた。鉄屑の谷をはじめとする星中のスラムでも、泥に塗れた人々が空を見上げ、歓喜の声を上げて抱き合っている。王都が独占していた「光」は、今や完全に全人類のものとなったのだ。
一方、王都の中央区画。
酸の雨によってドームの天蓋が溶け落ちたそこへ、外の世界から「本物の太陽光」が容赦なく射し込んでいた。王都が誇る完璧な人工太陽の光は、大自然の圧倒的な熱量と輝きの前に完全に霞み、その存在意義を失っている。
「あ、ああ……我々の空が、世界が……外の泥水で汚されていく……」
特権階級のエリートたちは、今まで見下していた荒野が黄金色に輝く美しさを前に、自らの箱庭がいかに狭く、惨めな作り物であったかを物理的に突きつけられ、絶望のままに座り込んでいた。
「さて、感動の時間はここまでよ。王都の連中に息をつかせる暇なんて与えないわ」
コンソールを叩きながら、エリスがニヤリと笑う。彼女が投影した立体マップには、晴れ渡った空の下で全貌を現した王都の巨大な浮遊構造と、それへ繋がる唯一の物理的な橋渡しを担う都市が映し出されていた。
「次は第五拡張都市――『物流と空間移送』の要塞。王都へ直接乗り込むための『巨大な転送ゲート』そのものよ」
「つまり、あそこを落とせば、いよいよ王都の玄関のチャイムを鳴らせるってことだな」
レイは差し込む陽光に【黒樹の邏卒】をかざし、白銀の幾何学模様をギラリと輝かせた。
理不尽な天候は消え去り、星の視界は完全に開けた。もはや小細工も奇襲も必要ない。残る二つの要塞を真っ向から粉砕し、システムの中枢を泥で塗り潰すため、最弱の反逆者たちは黄金に輝く荒野を一直線に駆け抜けていく。




