第110話:虚空を架ける回廊
澄み渡る本物の青空の下、装甲重機は地平線の果てへと突き進む。
目指す先、陽光を浴びて現れたのは、これまでの要塞群とは根本的に構造が異なる建造物だった。
第五拡張都市――『物流と空間移送』の要塞。
地上に根を張る巨大なリング状の構造物から、遥か天上の王都へと向けて、光の粒子で編まれた巨大な「軌道エレベーター」のごとき光柱が垂直に伸びている。物質やデータを瞬時に量子化し、天空の箱庭へと汲み上げる巨大な転送ゲートそのものだ。
「あれが第五都市……あんな光の柱を登っていくなんて、想像もつかないわね」
シエナが目を細め、天を衝く光条を見上げる。
「物理的な登攀じゃないわ」
エリスがコンソールを乱打しながら画面を指差した。
「あれは王都へあらゆるリソースを吸い上げるための『一方通行の物流ライン』よ。本来なら下層からの侵入なんて論理的に弾かれる。だけど、今の私たちなら話は別よ。第一から第四までの特権コードを束ねれば、あの光のラインを無理やり『逆走』できるわ!」
『――警告。特異点の接近を検知』
都市の防衛機構が突入を阻むべく、空間そのものを歪め始めた。
第五都市の周囲に幾重にも重なる無色透明の『転送歪曲フィールド』。触れた対象をランダムな座標の虚空へと強制的にテレポートさせ、物質をバラバラに引き裂く絶対不可侵の結界だ。
「正面突破の道は、俺たちが自分で敷く」
レイがハッチを蹴り開け、装甲重機の天板へと躍り出た。
左手首のリストホルダーが青、赤、緑、白の四色のノイズを激しく明滅させる。第一都市の重力支配、第二都市の兵装複製、第三都市の通信掌握、そして第四都市の気象制御。四つの都市から奪い取った星の権限が、漆黒の棍【黒樹の邏卒】へと奔流のように流れ込んだ。
「空間を歪めるルールなら、その座標ごと『空白』に上書きしてやる」
【バグ拡張:事象切除】
レイが棍を横一文字に薙ぎ払うと、不可視の転送フィールドがガラスのように粉々に砕け散った。
歪曲する虚空そのものを削り取られた第五都市の外郭に、巨大な亀裂が走る。
「エリス、ビークルごと光の柱へ突っ込め!」
「無茶ばかり言うんだから! 舌噛まないでよ、みんな!」
エリスがアクセルを限界まで踏み抜いた。
装甲重機は粉砕されたゲートの防壁を突き破り、天へと昇る光の奔流の中へと真っ向から飛び込んだ。
周囲の景色が一瞬で光の濁流へと溶け去る。重力が反転し、機体全体が強烈なGと量子化の負荷に軋みを上げる中、レイは剥き出しになった天蓋を見据えていた。
「待ってろよ、王都。……泥の靴のまま、お前らの綺麗な部屋に踏み込んでやる」
光の回廊を駆け上がる反逆者たち。地上の支配をすべて覆したバグたちの牙が、いよいよ星の支配者が座す天空の玉座へと届こうとしていた。




