第99話:狂鋼の防人
燃え盛る爆炎と鉄の雨を抜け、レイはサブフレーム・コアが鎮座する巨大高炉へと歩みを進める。
だが、コアへあと数歩というところで、工場の狂騒が不自然なほどピタリと鳴り止んだ。
「……なにか、嫌な予感がするわ。レイ、止まって!」
エリスの警告と同時、周囲に散乱していた無数の兵器の残骸や鉄屑が、凄まじい磁力に引かれるように高炉の前へと密集し始めた。
『――最終防衛フェーズ、起動。都市リソースの90パーセントを単一物理構築へ転用します』
無機質なシステム音声が響くと共に、大量の兵器群がグチャグチャと不気味な音を立てて融合し、巨大な鋼の異形を形成していく。
無数の砲身を束ねた腕、多脚戦車の分厚い複合装甲を繋ぎ合わせた胴体。それは王都の洗練されたフォルムとは対極にある、ただ殺戮と破壊の機能だけを暴力的に継ぎ接ぎした「狂鋼の巨人」だった。
「あれって……第一拡張都市みたいに、人間の管理者はいないの!?」
「ここは兵器の生産拠点よ! 人間の思考速度じゃこのラインの処理は追いつかない。つまり、あいつ自体がこの都市を統括する『最高管理AI』ってわけ!」
シエナの叫びにエリスが答える間にも、巨人は全身に備えられた数百の砲門をレイ一人に向け、一切の溜めも警告もなく一斉掃射を放った。
視界を完全に埋め尽くす、極太のレーザーと質量弾の暴風。
だが、レイは一切の減速すら見せず、白銀の模様が明滅する【黒樹の邏卒】を無造作に振り抜く。
「弾幕が厚けりゃ、空間ごと削るまでだ」
バチィィンッ!!
【事象切除】の斬撃が、迫り来る圧倒的な火力を空間のキャンバスごと『空白』へと切り取った。
しかし、巨人は自らの右半身を空間ごと抉り取られながらも、一切怯むことがない。損傷した部位を瞬時にパージすると、背後で稼働し続けるコンベアから新たな重砲塔をもぎ取り、瞬きする間に新たな腕として強制接続してのけたのだ。
「嘘でしょ……工場全体の生産ラインと直結してるから、文字通り『無限』にパーツを補充してくるわ!」
エリスが端末の恐ろしいリソース供給量を見て悲鳴を上げる。
「無限の兵器庫と、俺のバグ。どっちの底が浅いか、削り合いと行こうぜ」
レイの左手首で、地下深くで泥の汚染獣から奪い取った『捕食者のコア』が呼応するように赤黒く脈打った。
生産される端からすべての兵器を喰らい尽くすため、最弱の反逆者は狂鋼の巨人へ向けて獰猛な笑みを浮かべ、灼熱の床を強く蹴り飛ばした。




