第100話:無限を喰らう暴食の理
ガガァァァァンッ!!
レイの漆黒の棍と、狂鋼の巨人が振り下ろした数千トンに及ぶ複合装甲の腕が激突し、高炉の分厚い床が大きくひび割れる。
だが、巨人は衝突でへし折れた自らの腕を一切の躊躇なくパージすると、背後のコンベアから真新しいミサイルポッド群を引きちぎり、瞬時に新たな腕として接続した。
『――再構築完了。ゼロ距離面制圧、実行』
「ラインが無限なら、胃袋がはち切れるまで喰らい尽くしてやるだけだ」
至近距離で無数のミサイルが火を噴こうとしたその刹那、レイの左手首で赤黒いデータコアが爆発的に明滅する。かつて地下の深淵で、旧世界の兵器すらドロドロに溶かして飲み込んでいた『泥の汚染獣』の理。
【質量同化:暴食の泥】
漆黒の棍から泥のような赤黒いノイズが間欠泉のごとく噴き出し、巨人の新たな腕へ津波のように絡みつく。
『――エラー。未知の腐食コード。装甲の再構築、不可……ガガッ!?』
巨人のAIが初めて致命的な処理落ちを起こした。ミサイルポッドも、分厚い複合装甲も、触れた端から凄まじい勢いで溶かされ、レイの放つ『泥』の一部へと同化していく。
「いけぇっ、レイ!」
シエナとニアが後方から歓声を上げ、エリスがコンソールを乱打しながら悪魔的な笑みを浮かべる。
「馬鹿なシステムね! 兵器を無限に直接供給するってことは、その『接続ライン(へその緒)』を伝って、泥のバグが工場全体に逆流するってことよ!」
エリスの言葉通り、巨人の腕を溶かし尽くした赤黒い泥のノイズは、パーツを供給し続けるコンベアや巨大アームの接続部へ侵入し、第二都市の生産ラインそのものを『捕食』し始めた。
『警告。生産システムに致死性のバグが蔓延。メインフレームへの侵食率、80パーセント……90……』
無限を誇った鋼の要塞が、自らの供給ラインに流し込まれた泥によって内側からドロドロに崩壊し、巨人は新たなパーツを引き出すことすらできず完全に沈黙する。
「これで、ただの的だ」
すべての武装を剥がされ、機能不全に陥った巨人の胸部。無防備に露出した第二都市のサブフレーム・コアへ向け、レイは白銀の光を纏った棍を上段から振り下ろした。
【事象切除】
バチィィンッ!!
空間ごと巨人の胴体が真っ二つに削り取られ、周囲の業火すらも絶対的な『空白』へと呑み込まれる。
崩れ落ちる狂鋼の残骸の中心で、レイは第二都市の命脈たるデータコアを静かにわし掴みにした。兵器のゆりかごが、反逆者たちの前に完全に陥落した瞬間だった。




