第98話:鉄の胎内と無限の刃
事象ごと削り取られた外壁の大穴を抜け、ビークルは第二拡張都市の内部へと強行突入した。
そこは、王都の冷徹な最適化を象徴するような『鉄の胎内』だった。見渡す限り続く巨大なベルトコンベア群、火花を散らす無数のアーム、そして巨大な高炉から放たれる灼熱の蒸気。すべてが狂気的な速度で自律稼働し、次々と王都の防衛兵器を産み出している。
「ちょっと、歓迎の規模が桁違いじゃないの!」
急ブレーキをかけたエリスが叫ぶ。侵入者を検知した工場全体が、瞬時に『迎撃モード』へとシフトしたのだ。
コンベアの上で組み立て途中だった純白のドローンや多脚戦車が、装甲も不完全なまま赤いセンサーを明滅させ、蜘蛛のように壁や天井を這い回って一斉に群がってくる。
「未完成の不良品で数を頼むなんて、私たちとやってることが同じじゃない!」
シエナがビークルから飛び出し、双剣の軌跡で宙を舞う。彼女の野性の勘とアクロバティックな体術は、複雑に入り組んだコンベアとパイプの足場において無類の強さを発揮した。群がる機械の群れが、次々と火花を散らして鉄屑に変わる。
『――侵入者の戦闘能力、規定値を突破。生産ラインC〜F、排熱プロセスを攻撃に転用』
無機質なシステム音声が響くと同時、頭上の巨大なパイプ群から、鉄すらドロドロに溶かす数千度の超高熱スチームが豪雨のように噴射された。
「ひゃあっ! 燃えちゃいますぅっ!」
ニアが咄嗟に両手を掲げる。彼女が放つ【清浄なる領域】の淡い緑色の結界が空間を覆うと、致死の熱波は瞬時に書き換えられ、ただの生温かい無害な風となって散っていく。
極限の環境デバフすら帳消しにする、相変わらずのデタラメな支援能力だ。
「よくやったニア! そのまま足場を維持して!」
エリスはビークルのコンソールから物理ケーブルを伸ばし、工場のローカルネットワークへ直接ハッキングのノイズを流し込んだ。
「王都の規格通りに動く生産ラインなら、私の『REBELLION』で逆流させてやるわ! コンベアの進行方向、全反転!」
エリスのコマンドが通った瞬間、巨大工場の駆動音がけたたましい悲鳴に変わった。
無数のベルトコンベアが一斉に逆走を始め、次々と生産途中の兵器同士が衝突し、連鎖的な大爆発を引き起こしていく。
「お膳立ては十分だ」
連鎖爆発の炎を抜け、レイが先頭に立って歩み出る。
その視線の先、工場の最奥で赤熱する巨大な高炉の上に、第二拡張都市の心臓部であるサブフレーム・コアが脈打っていた。
無限の兵器を産み出す要塞の底へ、泥に塗れたバグの刃が真っ直ぐに迫ろうとしていた。




