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娯楽の国のアリス〜記憶喪失の少女は危険な世界の住人に執着される〜  作者: 烏間


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3/4

事後処理(レンドルミン、ビル、カバリー、ジャバウォック)

「くそっ……」


 男は悪態をついていた。

 アリスの暗殺は、多額の報酬を約束されて、男の弟と受けた仕事だった。


 依頼主の手引きで潜入し、アリスが間近にやってくるパレードを狙って銃殺するはずだった。


 しかし、いざ最終の打ち合わせをしている時に、アイツらに囲まれた。

 まるでアリスを真似たような金髪に、瞳や肌の色。それに顔まで似せている不気味な少女達の集団だった。


 ヒラヒラとした服装に反して、軍隊の様な統率の取れた動きで、男達を襲ってきた。

 そして、男の弟は、あっという間に拘束されて、気絶させられた。


 一方、男を追ってきた方の少女達は、1人は銃で動きを止めたが、もう1人はまだ追ってきてる。


 こうなったら、ここからなんとかするしかない。

 そう思った男はこんな状況ではあったが、まだ天に見放されたわけではなかった。


 もう見えるところまでアリスが迫っていたのだ。

 長い金色の髪に青い瞳、真っ白な肌の少女が、動くオブジェの高いところからあっちへこっちへ手を振っている。

 彼女が向く方向では大きな歓声が上がり、熱狂的なファンからのラブコールに嫌な顔せず次々と応えていく。


 彼女に会うため、ここにいる人々は抽選所に何度も通い、決して安くはないチケット代を払って来ている。


 しかも、平民だろうが、貴族だろうが、王族だろうがそれは変わらないらしい。


 しかし……

 アリスを切望している者がいれば、消えてもらった方が都合がいい者もいるのだ。


 男は懐の拳銃に手をかけた。

 これだけ大きな音楽の中では、銃声も然程響かないだろう。

 現に先程の銃声を気にしている者も誰もいない。


「悪いな、アリス……」


 男がそう言って、引き金に手をかけた時だった。


 不意に視界が大きく揺れて、そのまま立っていられず男は倒れた。

 時間の流れがやけにゆっくりに感じられる。

 なんだ……。

 まさか。


「まさか、俺の方が……」


 撃たれた?

 どこ、から?

 男にそれ以上考える時間はなかった。


 しかし、もし時間があったとしても、通常の狙撃用ライフルの射程圏外いる狙撃手を見つけるのは、困難だっただろう。

 男は側頭部から血を流し、その場に倒れ、あっけなく絶命した。


 辺りはパレードに夢中で男の様子に気づいたものは1人だけ。

 男を追跡していた金髪の赤と黒のメイド服の少女だけだった。







「あー、間に合った、間に合ったー」


 そうして間も無く、キャスター付きの黄色のゴミ箱を連れた小柄な清掃員がやってくる。


 青い作業着にオレンジのキャップと側頭部から出ている丸い大きな耳は、間違いなくレンドルミン・ナイトメアである。

 彼は慣れた動作で男をゴミ箱に放り込み、その場を片付ける。


 もちろん、全てが終わったタイミングでこちらを見た大好きなアリスに両手で手を振るのも忘れない。

 アリスはレンドルミンが何をしていたかなど知るわけもなく、ウインクをして微笑んでみせた。


「わぁ!ウインクしてくれた!やっぱりアリスって最高!!」


 レンドルミンは、ご機嫌でまた黄色のゴミ箱をゴロゴロと押しながら移動を始めた。

 流れるような動きで、彼がゴミ箱を押す音に気づいた者がいた時には、既にそこには何も残っていなかった。


 やがて、パレードの喧騒から離れたところで、レンドルミンは通信機を使用して話し始める。


「ビルさん、回収おわったよ!」


 レンドルミンがそういうと、通信機の向こうから別の声が応えた。


『さすがだな。助かったぞ、レンドルミン。こっちも撤収する』


 ビルと呼ばれた男の低音の落ち着いた声は、それでも爽やかに感謝を告げた。

 その話の間には、小さな金属が擦れるような音が混ざっており、手元で何かを手入れしているようだった。


 しかし、レンドルミンはそんなことは気にしない。


「まぁ、掃除だけは得意だから、いつでも言ってよ」


 レンドルミンはビルと話しながらも、花壇に捨てられたゴミ達を拾い上げて、自分のゴミ箱にポンポンと投げ入れていく。


 その手際の良さは目を見張る者ものがあるが、清掃員は人知れず動くので、その仕事ぶりを知るものはごく僅かだ。


『そうか?あの人混みであれだけ大胆にバレずに動けるのは才能だと思うが?』


「才能?ないない!僕はただの清掃員だもん。それよりさ……」


『ん?』


「ビルさん、約束通り今度飲みに連れてってよね!うまいワインとチーズを出す店!」


 レンドルミンは話しながらでも器用に人の間を縫ってキャスター付きの黄色のゴミ箱を押して進んでいく。


 ゴミ箱はよく見ると数えきれないほど貼られた遊園地のステッカーで飾られており、いつでも取り出せる場所にマジックハンドや箒、モップなどが刺さってる。彼にとってはその全てが愛用の仕事道具なのだろう。


 少なくとも。

 とても死体が入ってるようには見えない。


 見つけたゴミを立ち止まることもなく、器用にゴミ箱に放り込んでいく様は、あくまで普通の遊園地の清掃員である。


『分かった分かった。次の給料が出たらな』


 ビルと呼ばれた低い声の男は仕方なさそうにそう言った。


「やった!……あと、『これ』はもらっていいよね?」


 レンドルミンはついでとばかりに聞いた。


 目の合った小さな子供に笑顔で手を振りながら、遊園地を楽しむことに夢中なカップルにぶつからぬように軽やかにゴミ箱を避けるのを忘れない。


『……ジャバウォックがいいならお前に任せる』


 ビルは、少し間を空けてそう言った。


「ラッキー。良いお小遣い稼ぎになりそう!」


 レンドルミンは上機嫌にそう言うと、食事に連れてってもらうことと同じように喜んだ。


 そしてそんな話をしながらも、アイスを落として泣いている子供を視界の端にとらえる。


 レンドルミンは近づいていくと、トントンと少女の肩を叩く。


『お前、間違っても嬢ちゃんにそう言う話するなよ』


「アリスに??するわけないじゃん!」


 少女がレンドルミンを見ると、彼は手品のようにどこからともなく大きな棒付きのカラフルなキャンディを取り出した。

 そしてキャンディを手渡して、優しく頭を撫でれば、少女はすっかり笑顔になっていた。 


 少女の笑い声にようやく少女の親が彼女の持っていたアイスがキャンディに変わっているのに気づいたが、そこには落ちたアイスもレンドルミンの姿ももうどこにもなかった。







「ジャバウォック様、ベル・クインハートとビル・リザードマンからそれぞれ、暗殺者を無力化したとのことです」


「……」


「あと、またレンドルミン・ナイトメアからリザードマンの射殺した死体を引き取りたいと希望が出ています」


 卵形の秘書カバリー・エッグマンは、彼の主人であるジャバウォック・スナッチにありのままを伝えた。

 ジャバウォックは相変わらず色のない飾り気のない部屋で仕事をしていたが、その手を止めず、話し出す。


「ならば、女王とトカゲにはそれ相応の報酬を。……ネズミの希望は、自由にさせて構わない」


 ジャバウォックは、レンドルミンの話をする時だけ一瞬瞳孔を縦に細めて嫌悪を露わにした。


「承知いたしました」


 しかし、カバリーはその様子には気付かぬふりをして主人の指示を受け付けた。


「……それで、今回の侵入経路は?」


「厨房からでした。一部街から通いで来ているスタッフがいるのですが、その中に紛れて侵入したようです」


「今後は、身分証明を徹底しろ。確認を躊躇する者は辞めさせて構わない」


「承知いたしました」


 そこまでの話をして、ようやくジャバウォックは、顔を上げる。


「全く、光に群がる蛾が後を絶たないな」


 そして、黒い手袋をした手を、机の上で組んで溜息をつく。


「……光を誰にも見せず、自分だけのものにする手もあったのでは?」


 カバリーは、ジャバウォックの言葉に思わずそんな言葉を漏らしてしまう。


「まさか。私はこの遊園地のオーナーだ。光を利用しない選択肢などないさ」


「左様ですか」


「あぁ、どんなに扱いにくかろうとな」


 ジャバウォックは、そう言って不敵な笑みを浮かべた。




レンドルミン・ナイトメア

遊園地の清掃員。

スマイルと仲が悪い。

自分は掃除ぐらいしかできないと言うが、埃から死体まで人に気づかれず綺麗に片付ける有能なところもある。

気配を消すのが得意で、善悪の区別が曖昧。

アリスのことは、壊したくない大切な綺麗なものとして好き。

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