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第34話 真のクライマックス(3)

 どうしたものか?


 ビュシーに威厳のある言葉を放った手前、どうしたらこの霧状の魔物に打ち勝つことができるのか全く分からぬ……なんて、ぼやくわけにはいかなかった。


 ぬぬぬ……。


 しっかりと魔界にいる魔物について調査しておくべきだったか。


 ふと、なんとかしてくれるのではないか、とあってはならぬ思考で少し離れた場所に立つ勇者に目をやった。


 む……? 勇者、震えてないか?


 おかしな光景に固まっていると、勇者と目が合った。


「「あ」」


 なぜか声を合わせて、顔を逸らす。


 見せてはいけぬ顔を見せてしまった気がする。大丈夫だったか? 我は威圧感のある態度を取れていたか?


 いや、それよりも……。


 勇者から一切の敵意を感じなかった。間抜けにも見えた顔には、どこか親近感がわいた。


「負傷シタ魔王ト勇者デ何ガデキル?」


 魔物の声が我に緊張感を引き戻す。


 何を考えているのだ! 我は今、勇者に頼ろうとしていた。魔界のことで勇者に頼るなど言語道断。ここは魔界の長たる我の力でこの窮地を打開してみせなければ!


「魔物よ。その正体、はっきり見極めさせてもらうぞ!」


 ペンを握り、我は契約書に契約を書き込む。


「契約サセナイ」


 案の定、霧状の腕が迫る。


 魔物は我の契約魔法を執拗に警戒している。つまり、我の契約魔法は効果があるということなのではないか? しかし、怪我を負った我には魔物の攻撃に抗う手段が取れぬ。


 踏ん張るしかない!


 耐える覚悟でいた我の目の前で、フッと風が吹いた。


 閉じかけた目を見開くと、勇者が大剣で弧を描いて魔物の腕を霧散させていた。そして、我に背を向けて魔物に突っ込んでいく。


 助けてくれたのか……?


 ハッ、ボーッとしている場合ではあらぬ。急いで契約を……!


 相手は魔法を撃っても元通りの形となる厄介な魔物。だが、勝ち方が分からぬのなら、白状させてしまえば良いのだ。


 素早くペンを滑らせる。


 記名を終えると契約書に紋様を浮かべさせ、我は契約を行使した。


『大広間にいる者は、嘘、誤魔化しをしてはいけない』


 がむしゃらに大剣を振るう勇者の背を押すように、我はすぐさま告げた。


「魔物よ、お主の倒し方を教えよ!」


「ハハハ、ソンナコト教エルワケナイダロウ。頭ガオカシク……! 弱点ヲ突ケバ……。ク、口ガ勝手ニ…………、霧状ノ体ヲ攻撃シテモ、核ヲ攻撃シナケレバ意味ガ無イ」


 魔物は意識に反して発せられる言葉に動揺している。契約の効果は絶対なのだ。


「ならば、核はどこにあるのだ」


「ググ……、言ッテタマルカ…………。左足ノ一番下、少シ膨ランダ場所ダ」


 単純なことだったのだ。上体に向けた魔法が効かぬからと言って勝手に敵の脅威を己の中で増幅させてしまっていた。弱点が分かれば、もう憂う必要もあらぬ。


「許サナイゾ魔王! ヨクモ弱点ヲ暴イテクレタナ!」


「ぐあッ!」


 弱点は判明した。だが、我自身が既に満身創痍の状態では何もできぬのと同義。出し抜いたことで油断してしまったのだ。我は難なく魔物の右手に握りしめられた。


 すかさず勇者が左足を狙うが、魔物も必死に抵抗し、一進一退の攻防を繰り広げている。


 ここで我が魔物に攻撃することができれば……。なんとも歯がゆい。


「コレデドウダ!」


 度重なる霧状の腕で応戦していた魔物だが、不意に我を捕らえた右手で勇者を強襲。


「くうッ」


 魔物の連撃に対応しきれず、短い悲鳴を上げて勇者が吹き飛ぶ。


「サテ、今ノウチニ魔王ヲ殺シテオクカ」


 なぬ!


「サア魔王、命乞イデモ、スルカ?」


 不気味な抑揚をつけて魔物が問う。勝利を確信しているのだろう。


 思い通りにはさせぬぞ。こんなところで命乞いなどと不名誉なことは決してせぬ。


 我は魔王なのだ!


「た、頼む! 命だけは助けてくれ!」


 ぬぬぬ……! く、口が勝手に……!


 しまった! 契約で我の本音まで露出してしまうではないか!


「待った、待ってくれ! 死ぬのは怖いのだ! 早まるでない! 我にはまだやるべきことがあるのだ! 次期魔王候補として子孫を残さねばならぬし、その前に伴侶を決めねばならぬ! そうだ! すぐにビュシーと婚約を結ぶ覚悟を決めるから、殺すのだけは勘弁してくれ! もう婚約を先延ばしにしたりせぬから、ビュシーの言う通りにするから! 頼む! このまま死んでしまえば、あの世で父上に叱られてしまうのだ! 次期魔王がいないと知ればどれだけ恐ろしい雷が落ちることか! それに、まだ今日の職務は何一つ手を付けておらぬ! これではハバにも叱られてしまう!」


 わ、我はなんてありのままのことを……!


 後悔する暇もあらず、最後に我は魔王が一番言ってはならぬ言葉を放ってしまった。


「勇者よ、助けてくれ!」


   ■


 空耳……かな? 今、魔王がボクに助けてって言った?


 魔物に吹き飛ばされたボクは、受け身を取って反撃に出ようとした勢いを、魔王の信じられない言葉で削がれたのだった。


 あんなに凄まじく威圧感だらけの魔王が命乞いをしてボクに助けまで求めている。


 んんん???


 よ、よく分からないけど、魔物は倒さなければならない!


 そうだよ! 弱点は魔王が見つけてくれたんだ。きっと助けないといけない。


「てやッ!」


 ボクは全力で床を蹴って、魔物の左足にある核を目掛けて大剣を振る。


 しかし魔物の抵抗は激しく、霧状の手を払っても払ってもすぐに反撃の手が繰り出される。


 弱点が分かっているっていうのに、これじゃあいつまで経っても魔王を助けられない。裏のボクの力も魔王との一騎討ちで最大の一振りをしたきり、出てこなくなっちゃったし、いったいどうすれば……?


 つい本音が出そうになる。


「もう無理だよ! 魔王が捕まる相手に勝てるわけないじゃん!」


 あっ……。今の、無しにできないかな?


「理解シテイルナラ、オマエモ、マトメテ殺シテヤル」


「うわッ!」


 自分の素直すぎる発言に戸惑っていたら、あっさりと魔物の左手に捕まってしまった。


「間抜ケナ奴ラメ、コレデ魔王ト勇者ヲ殺セバ魔界ハ手ニ入ッタモ同然ダ」


 やばいやばいやばい。


 捕まっちゃったよ! ボクと魔王しかいないのに二人とも捕まったらダメじゃないか!


「サテ、ドウヤッテ殺シテシマオウカ。喰ッテヤルカ?」


 あわわわわわわわわ。


 やっぱり生贄は欲しいんだ。魔界で満足してよおおお!


「魔王ハ不味ソウダナ。勇者ダケ喰ッテシマオウ」


 おぞましい言葉を発する魔物にボクは最大限の抵抗をする。


「ボクは勇者だ! 卑劣な魔物なんかに喰われたりしないぞ! 絶対にこの窮地を脱してお前の核を斬ってやる! ……って思ったけど無理だよぉぉぉ! 言葉を操る魔物なんて相手したことないんだもん! それに核を斬らないと意味が無いんじゃ勝てるわけないよ!」


 な、なんで? 口が勝手に……!?


「待って待って待って! お願いだから生贄になんかしないで! 殺されるのも嫌だ! と、友達を守るって約束してるんだ! わ、分かってる! 初めて友達ができて調子にのってたのは自分でも分かってるから! もう自惚れたりしないから許して! いつかはボクも文通とか着せ替えとかやってみたいなんてもう望まないから! それでも足りないならパジャマパーティーも望まない! だから殺さないで! お願い、お願いだよ! イヤだイヤだイヤだ、死にたくない! お母さあぁぁぁぁぁぁんんん!」


 あああああああああ!


 もう口が止まんないよぉ!



ご来城ありがとうございました。

またのお越しをお待ちしております。

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