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第23話 魔王城撹乱記(5)

 ――魔王を、倒す。


 ボクはラームの部屋にあった地図を広げて、道筋を確認した。迷路みたいな魔王城でかなり複雑な場所にある、魔王の寝室までの道筋を。


 時間がかかったけど、なんとか解けた迷路の地図を片手に部屋を飛び出す。


「…………んッ」


 しばらくして緩やかな曲線を描く階段を上り切ろうとしたら、魔族の声が聞こえた。ここで見つかるわけにはいかない。階段の陰に隠れて声が去っていくまで静かに待とう。


「この前、序列会議に行ったんだって?」


「あぁ、伝令でな。急に報告しに行けって言われたからビビったよ」


「たしかに伝声管での情報は遅かったしな。で、どうだった? 序列会議ってのは」


「すごかったぜ。真っ暗な部屋で序列の方々が並んでてさ、ただならぬ圧力を感じたよ。僕もいつかは序列に……なんて考えてたけど、あれは無理。次元が違うよ」


「そりゃそうさ。俺たち下っ端は序列になんて到底入れっこないさ」


 序列……。


 そういえば習ったことがある。魔王城には十人のとてつもなく強い魔族がいて、実力の順に序列がついている、と。歴代勇者が魔王を打倒できずにいる最大の壁だ。


 裏のボクが序列二位と名乗っていた魔族を倒せたから、なんとかなる可能性は高いけど序列が二体相手だと勝てるかどうか。とにかく遭遇せずに脱出したい。


「伝令した後は序列会議に残ってたのか?」


「残れるわけないだろ。映像設備を置いてすぐに出ていったよ。ただ、報告し終えてしばらくは気になって扉越しに聞いてたんだ」


「どんな話をしてたんだ?」


「聞こえづらかったけど、勇者がどうのこうのって言ってたな」


「それって昨日決まって城外に漏らすなって言われている『勇者特例』のことか?」


「あぁ、きっとそうだぜ。勇者には攻撃するなっていう特例を会議で決めたんだ」


「魔王様も変わったことをするよな。勇者を自由に……制裁を……つもりかな?」


「どうなんだろうな……もうすぐ……マシュー……来る……関係が…………」


 遠ざかっていく魔族の声。


 ボクはとても重要なことを聞いてしまった。


 ――マシューが来る。


 勇者特例っていうのは、契約で互いに攻撃できない今の状況のことだろう。そしてそれはマシューが来ることと関係がある……みたいな話だった。


 つまり、マシューというのは――――生贄を欲する魔物なんじゃないか?


 生贄がなかなか来ないから、自分から生贄を貰いに来たんじゃないか?


 どうしようどうしようどうしよう。


 恐ろしい魔物マシューはもう魔王城まで向かっている。生贄にされる前に早く逃げないと……じゃなくて! ボクは魔王を倒すんだ。


 気を引き締め直して、魔法で存在感を消して複雑な城内を突き進む。


 そして、見張りの目を盗んで、とうとう魔王の寝室……その扉へ手を掛けた瞬間――


「オレに任せろ」


 裏のオレに意識が変わった。


 寝室の中は静かで、寝息を立てる音が一つあるだけ。奇襲には打ってつけだ。


 すぐさま大剣を引き抜き、広いベッドに狙いをつける。


 寝返りを打って横たわる魔王を捉えると、全力で跳び上がった。


 大剣に魔力を流し込み、首を目掛けて大剣の軌道を目でなぞった。


「その首もらったあああ!」


「……ん、むむ? ぬ……ぬおおおおおおおおおおッ!」


 数ミリの差だった。


 オレの大剣が、とっさに首を傾けた魔王の首筋の真横を通り抜ける。


 チッ、仕留め損ねたか。


「ゆ、勇者……!」


 ベッドの脇に転がり込んだ魔王がオレを見て仰天している。寝起きで頭も体も満足に働かないはずだ。


 足場の悪いシーツの上から飛び降り、着地と同時に剣筋を魔王の首に差し向ける。


 この一撃で殺――


『止まって!』


「んぅ!」


 表のオレの警鐘で、オレは魔王の首を斬る寸前で動きを止めた。


『なぜ止める?』


『契約の制裁を忘れたの?』


 尋ねると、慌てた声が返ってきた。


『今、魔王を斬ったらボクは死んじゃうんだよ?』


『そういえば、そんなのがあったな。だが、身体強化していれば死ぬことはないだろ』


『死ぬことはなくても、しばらく動けないくらいの負傷はしちゃうでしょ? そしたらこの後来る魔物に為す術なくボクは食べられちゃうんだよ!』


『それは……まずいな』


 魔王討伐の名誉と引き換えに魔物の生贄になるなんて御免だ。


 だが、魔王を前にしたこの状況…………どうする?


「わ、我は魔王だぞ。剣を収めよ」


『どうしよう、逃げないと。でも、こんなチャンス二度とないだろうし……』

「うるせえな」


「うぬッ? なぜだ? 我の威圧感に臆していないだと? 話が違うではないか……」


 魔王が何やらブツブツ言っているが、どうでもいい。


「オマエは黙ってオレに従え。今、主導権はオレにあるんだ」


「落ち着くのだ、勇者。分かった。今はお主に従ってやろう。だから大剣をしまってくれ」


「要するに制裁を受けなきゃ良いんだろ? それなら簡単だ」


「そうだ! 我を攻撃すれば制裁を受けるのだぞ? 良いか、攻撃するでないぞ?」


 言うことを聞かせようと、何やらうるさい丸腰の魔王をオレは見下ろした。


『『…………あれ、なんか弱そう』』


 表のオレと思考が被った。


 だが、誰が見ても今の魔王を見たらそう思うだろう。何せ、オレの目の前でベッドから転がり落ちたままの魔王は、膝をガタガタ震わせているのだから。


「おい、魔王」


 よって、脅すことにした。


「オレと結んだ契約を今すぐ解約しろ。できなきゃ首を刎ねる」


 制裁を受ける契約さえなければ、魔王を斬っても問題ない。ならば、ビュシーを人質に取った時のように解約させればいい。


「そんな脅しに我が応じるとでも……」


「死にたいらしいな」


「待て! 待つのだ! 制裁を忘れてはおらぬか?」


「オマエの首がオレの目的だ。その後は知らん」


 もちろん嘘だが、不意に魔王が固まった。


「…………」


「おい、返事はどうした? ん……?」


 本気で斬ってやろうかとも思ったが、ある異変に気付いた。


「コイツ、気絶してやがる」


 こんなのが魔王? ふざけているのか? 表のオレでも倒せそうだぞ。


   ■


 ボクは地図を片手に、魔王をもう片方の腕で引きずり、城内を走っていた。


 意識を失った魔王の寝室を調べたが解約書は見つからず、解約書のありそうな魔王の執務室へ向かっているのだ。何なら契約書を見つけて破いても良い。


「あれ、行き止まり? あ、さっきの曲がり角を左だったのか」


 複雑な造りをした魔王城で、魔王も抱えながら地図を睨んで目的地へ行くのは大変だ。


 でも、悠長にしている暇はない。


 さっき伝声管からの報告で、


「「緊急報告! 緊急報告! 勇者が就寝中の魔王様を捕らえ逃走中! 城内にいる者は勇者を見つけ次第、すぐに捕らえるように! 生死は問わない! 制裁を気にすることもない! これは魔王様の残した命令である!」」


 と、ボクが魔王を連れ出したことがバレた。さらに罰としてボクを殺そうとしていることも。早く解約して魔王を斬らないと。


 裏のボクは『オレの出番じゃない』とのことで、引っ込んでしまった。でも、それくらい魔王は変だった。勇者のボク相手にあんなに腰が引けていたなんて。


 もしかして、魔王って実はボクなんかよりも――


「魔王様ぁあああああ!」


「……ッ!」


 気分が高揚しかけていたところ、一体の魔族が下の階から跳び上がってきた。


「おのれ勇者め! 魔王様を返してもらうぞ!」


 なんだか規律に厳しそうな魔族だ。


 その気迫だけで分かる。目の前にいる魔族は……序列に入っている強敵。


「就寝中の魔王様を捕らえるとは、卑劣な勇者め!」


 なんか、魔族から卑劣って言われると傷付くな……って、感傷的になっている場合じゃない! 制裁がある以上、ボクは攻撃できない。振り切るしかないんだ。


 でも、魔族側は制裁を気にするなと命令があったみたいで……。


「ここで息絶えてもらうぞ」


 厳しそうな魔族は、闇のような黒々とした魔力を手に込めている。


「眠っている魔王様を起こしてしまうのは憚られるが、致し方ない」


 いや、魔王は気絶していて…………あれ、あれ……あれ?


 ボクはある真実に打ちのめされた。


 目の前にいる魔族は序列に入っており、おそらく魔王とも関わりが多い。そんな魔族が今の魔王を見て「眠っている」と言ったのだ。数回しか見たことがないボクが「気絶している」と判断したのは、思い込みなんじゃないか?


 いや、きっとそうだ!


 あの威圧感たっぷりの魔王がボク相手に弱腰になるわけないじゃないか!


 きっと裏のボクが奇襲した時も、ただ寝ぼけていただけ。眠った状態でも危機感知をして攻撃を避けていたんだ。なんて恐ろしい生命力……!


 真実に気付くと、腕に抱える魔王からおぞましい威圧が溢れてくるような気がした。


 冷や汗が腕から体中へ伝染していく。


 もし、抱えている状態で本当に魔王が目覚めてしまったら、ボクはどうなるの?


 答えはシンプルだ。


 嫌だ嫌だ嫌だ、死にたくない!


「勇者、覚悟ぉ!」


 事の真相に恐れおののいていたボクに容赦なく魔族が襲い掛かってくる。


 ボクはとっさに……「ブヘェッ!」……魔王を盾にしてしまった。


「ハッ! ま、魔王様! 申し訳ありません!」


 魔王の顎に一撃入れてしまった魔族は、さっきまでの威勢が嘘のように慌てふためく。


「勇者を殴ろうとしたのであって、決して魔王様に反逆する意志などないのです! ど、どうかこの通りです! お許し下さい!」


 そう言って地面にくっ付きそうなほど頭を下げて魔王(盾)に平伏した魔族。


 これは…………チャンスだ。


「そのまま反省していろ」


 できるだけ低音を出して言ってみた。似てなさすぎてさすがにバレるかと思ったけど、「御意に!」と立派な返事が。


 すぐさまボクは威圧感を放つ魔王を抱えながら、存在感を消してその場を後にした。


ご来城ありがとうございました。

またのお越しをお待ちしております。

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