第52話
魔法世界に冒険者として生きる孤児であり主人公スタンリー・ケンプ。
そこに生きる人々の様々な些細な行動がまるでバタフライ・イフェクトのように世界を変えていく。
この物語のテーマとなる『ストレンジアトラクター』とは、難しくいうと・・・
カオス理論の研究の中で発見された奇妙な挙動を示す微分方程式の状態の総称のこと。
つまり動的システムが時間とともに発展する際に、予測不可能 で複雑なパターンを形成する現象を指すのです。
そんな泡沫の世界で生きるスタンリー・ケンプ
彼の目を通してその冒険譚を進めていきたいと思います。
また本編である『光と陰ー織りなす夢の形』のスピン・オフとして、本編シーズン4の最後と繋がる物語となりますのでお楽しみに!
そして、その下町エリアには燦然と輝く新正教会がまるで庶民の救世主の如く聳えているのだ。
対するブリンデンブルク国教会は城の近くに構え貴族や有力商人達の礼拝が主流であり、例えて言うならば、国教会が聖書を拠り所としたプロテスタントであり、一方神聖教会の方は聖母リディアを祀ったカトリックのような位置付けとなっておりアレクサンデル教皇がその頂点に君臨していた。
長い年月をかけて信者を囲ってきたアレクサンデル教皇には、そもそもそのお布施や寄付金による財源を拠り所としてこの国の頂点に立ちたいという野望があった。特に国外バハマート帝国との商流を独自に整えた教皇は一部の贔屓の豪商を使い通商の既得権を獲得して富を蓄えてきたのであった。それを資金に反国王派の貴族と商人を取り込み一大勢力を構成し始めているのだ。
「教皇と魔族の接点を押さえられれば取り潰しに動けるんだけど・・・」
魔族の襲撃があってからは、アデリナ姫の希望からスタンとフリーダが護衛を務めるようになっていった。
「姫、俺が神聖教会に侵入して証拠を掴みましょうか?」とスタンが提案した。
「私の方でもシャルロッテにこちらの息がかかったメイドを付けてはいるんだけど、なかなか動きがなくて・・・」
「シャルロッテ姫が関与しているのであれば、スタンが潜入したところで顔が割れてしまうでしょう!」とフリーダは意味がないといったようだ。
「私に一つ考えがあるんだけど・・・」とアデリナが言った。
「それはどんなものですか?」
「この前、レオン王国に行った時に諸国連合の商人を紹介してもらったのです。エミディオという30歳前後のかつて冒険者としても経験がある男性でブリンデンブルクとの通商を希望しているのです。彼に事情を説明して神聖教会側に通商目的で接点を持って探りを入れてもらうってのはどうかしら?」
「いいとは思いますが・・・そのエミディオとかいう商人は信用できるのでしょうか?」
「私の目には信用できように写りましたが、呼んでみますので隣であなた方も観察してみて下さい。」
そして、早速エミディオが王宮に呼ばれることになった。
商人との商談に使用する豪華な商務室に彼は座っていた。
『いきなり呼ばれたが・・・通商ができるのだろうか?』とレオン王国との絢爛さレベルの違いに圧倒されているような表情であった。
「ようこそお越し頂きました。今回お呼びだてしましたのは、エミディオさんにお尋ねしたいことがございまして。」
「はあ、お初にお目にかかります。以後お見知り置きを! アデリナ姫。一体どんなことでしょうか?」
「この国には国教会とは違って、神聖教会という宗派が存在するのをご存知ですか?」
「はい、確か、アレクサンデル教皇が仕切っているかと。」
「では、ご存知ですね。実は、あなたを信頼して今からお話し致します。他言無用でお願い致します。よろしいでしょうか?」
「はい、承知致しました。」
「この前、この国で魔族が暴れて被害が出たのをご存知ですか?」
「はい、レオンでも結界で守られているはずが不可解という事件になっております。」
「それなら話が早いですね。実は、こちらの見立てでは、教皇側がバハマート帝国と組んで魔族を導き入れたと踏んでいます。その見解に至った見解です。 それは神聖魔法であれば彼らの魔法で結界を無効化できるのです。」
「なるほど!それは興味深いですね!」
「あの者たちは反王族派を引き込んで、第3王女のシャルロッテを擁護しこの国を転覆しようと企んでいるのです。」
「ははー なるほど・・・」謎が解けたという表情であった。
「シャルロッテが関与していなければ簡単なのですが、証拠を握ってから取り潰さないと色々な抜け道が残されてしまうのです。」
「確かにそうでしょうな!」
「そこで、折言って貴方にお願いがあるのです。」
「はい。なんなりと!」と言いながらチャンスが舞い込んできたと感じた。
「先方に通商目的で取り入っていただけないでしょうか?」
「えっ…」と一瞬反応したのだが、
「なるほど、それで私がその証拠を掴むといったことでしょうか?」と姫の意図を理解した。
「さすが、ご理解が早いですね。もちろん、貴方を擁護致しますし、証拠を掴んで頂いた暁にはブリンデンブルク公認マーチャントとしての称号を授けようと思っています。」
彼は暫く考え込んでいるような様子であったが、
「わかりました。そのご依頼をお受け致しましょう! その代わりに成功した後 貴国のお抱え商人としての証として王宮隣りに商館をもってもよろしいでしょうか?」
「なるほど! まあいいでしょう。では、話はまとまりましたね!?」
「この後 担当のフリーダと詳細を詰めてもらいたいと思います。」と言い、アデリナはスタンと一緒に退出したのだった。
「スタン、どう感じましたか? あの男は?」
「ええ、信頼できると思います。」
「わかりました、では、エミディオと連絡を密に取って、彼の身に危険が迫った場合は救済してあげてください。」
「わかりました。」
一方 フリーダの方もエミディオに作戦の詳細を説明しながら彼の観察していたのだが、信頼に値するという判断になったようだ。よって教皇側のバハムート帝国との結び付きとその内容、そして魔族侵入に関する証拠を押さえるのがエミディオのミッションとなった。彼の動きとしてはレオンを代表して通商目的で訪問したという名目でアプローチすることになったのであった。




