第50話
魔法世界に冒険者として生きる孤児であり主人公スタンリー・ケンプ。
そこに生きる人々の様々な些細な行動がまるでバタフライ・イフェクトのように世界を変えていく。
この物語のテーマとなる『ストレンジアトラクター』とは、難しくいうと・・・
カオス理論の研究の中で発見された奇妙な挙動を示す微分方程式の状態の総称のこと。
つまり動的システムが時間とともに発展する際に、予測不可能 で複雑なパターンを形成する現象を指すのです。
そんな泡沫の世界で生きるスタンリー・ケンプ
彼の目を通してその冒険譚を進めていきたいと思います。
また本編である『光と陰ー織りなす夢の形』のスピン・オフとして、本編シーズン4の最後と繋がる物語となりますのでお楽しみに!
その頃、王都のレザーレ地区という豪奢な邸宅が並ぶ自宅にヘンドリックの姿はあった。
両親に姉のリリカのフィアンセであるベッカーが婚約挨拶のために訪問しているのである。
ベッカーも商人の家系の息子であり、姉のリリカが嫁ぐことになるのか?それとも婿としてこの家に入るのか?が今日の様子で決まることになっているのだ。弟のヘンドリックもオブザーバー役として同席していた。
ヘンドリックとしては卒業後に王立軍に入隊するのか?はたまた家業を継ぐのか?を決めかねている状況であり、姉の婚約者を見てから進路を決定しようと思っているのであった。
「そうですか!ヘンドリックくんは王立魔法科学院大学で学んでいるんですね!?素晴らしい!それでは将来は保証されているんですね!僕は魔法の才は全くなく家の家業を継ぐしかないんです。ただ商いは好きなことなので商売に理解が深いリリカと一緒に家庭を持てることがいちばんの幸せなんです。」
「実は僕はまだ将来を決めかねているんです。学生生活はあと1年以上あるので卒業までには決めたいとは思っています。」
「弟は子供の時から弓が得意なんです。今は大学も戦時下のカリキュラムになっているんで、よく戦闘にも駆り出されているのよ。ね、そうでしょ?危険とは隣り合わせなんだけどやり甲斐があるらしくて…」
「そうなんですよ。僕が所属しているパーティーはアデリナ姫のパーティーなんです。」
「へえー 姫とご一緒なんですか? それは凄いことですね!」
ヘンドリックはやはり姉が選んだフィアンセだけあって温厚で紳士的な男性だと感じた。
するとこの応接室に泣き叫びながら若いメイドが走って入ってきた。
「執事のアルノーさんがいきなり来た男に刺し殺されてしまいました!止めたのですがこっちに向かってきています!」と叫んだのであった。
そこにいた人達はそのメイドの半狂乱の様相に驚き動揺した。
「不審者か?ヘンドリックどうにか対応できるか?」と父が言った。
「わかりました、お父様、僕が対処しますので、皆さんはすぐセフルームへお逃げください!」と言うと隣の部屋に走って行った。
「では、リリカとベッカーくん、早くこっちへ! こう言う時のためにセイフルームがあるんだ。」と言うと、メイドも一緒に走って地下に下りていった。
弓を手にしたヘンドリックは廊下からこちらにゆっくり向かって来る男を確認した。その男は貴族のような黒づくめの服装ではあるが、ボザムが付いた白いシャツブラウスが血で真っ赤に染まっていた。
「おい、おまえ!これ以上近づくと命の保障はないぞ!!」と宣言し、
『あの血はアルノーのだな!ひどいやつだ!!僕が敵を取ってやるぞ!!』と弓を構えて男に狙いを付けた。
そして男が更に近づき射程圏内に入ったのを確認すると矢を放った。
命中制度に関しては定評があるヘンドリックであるが、当たらずに軌道がずれて壁面に刺さってしまった。
その男は魔法障壁を張ったようである。
『なんだ、魔導師なのか?部が悪いな!』
アーチャーである彼は弓の他には火魔法しか使えないのである。
彼は再度ビームアローを使いマシンガン攻撃を発したのだが、その攻撃もかわされてしまった。
男との距離はどんどん縮まってきてしまっていた。
続いて魔法攻撃に変えファイアーボールを連発した。
それも反射させれてしまったのだった。
『まずい!これ以上うつ手がない!』と焦った。
そしてその男はすでに3m手前に立っていた。
「お前がヘンドリックか? 悪いが命は貰った。」と言うと、いきなり黒い触手のような物体が背中から4本現れヘンドリックが魔法障壁を張り切る間もなく、長く伸びた鋭い先がヘンドリックの身体を貫いたのだった。
胸部と腹部に突起が4本刺さったまま、
「お前は誰だ?」と苦しそうな小さな声で聞いた。
「俺はエグモントだ。以後お見知り置きを! まあ、と言ってもお前とはこれで会うこともないがな。」と言いながら高笑いをしている。
「お前、魔族か??」
「ほー 鋭い分析だな! 悪気はないんだが魔王からの命令でな。では、あの世へいい旅をしなよ!」と言って、
ヘンドリックに突き刺さっている4本の触手を抜くと同時に血が吹き出したのだった。
その男はそこから去り、ヘンドリックは血に染まった床に倒れていた。
彼は何故か必死に右手を床に動かしている。
そして、何かを書き終えたように見えたがそのまま息絶えてしまったのだった。
少し経って、ヘンドリックの訃報が学園に伝わった。
そして、食事が終わり雑談中のスタン達にもそれが伝わったのだった。
「えー ヘンドリックが襲われて死んだって?? まじか?? 信じられねえ〜!!」と言ってダミアンがいきなり半狂乱になって泣き出したのである。
他のメンバーはまるで狐に摘まれたかのようにポカっと口を開けて思考停止状態になっているようだ。
「ほんとうなのか?それ? なんで??あいつが・・・」スタンも信じられないようである。
全員が下を向き泣き始めてしまった。
そこへアデリナ姫が現れた。
「みんさん、ここにいたんですね! ヘンドリックの急死の報告は聞きましたね? これはパニックになるので伏せておいてほしいのですが、ヘンドリックが無くなる前に自分の血で床に書いたワードがあって『魔族だ!』という走り書きが残っていたそうです。 一緒に戦ったパーティーメンバーが亡くなったなんて・・・」言いながら姫も泣き始めてしまった。
「しかし、仮にそのヘンドリックを殺した奴が魔族だとしたら、何故魔族がこの国に入れたんでしょうか?」とアルベルトがもっともらしい問いを投げかけたのだった。
「確かにそうだよな! だってここは魔族の侵入を許さない結界で守られてるんだよな!?」
「そうなのです! それが不可解なのです・・・一体どうやって?」
するとフリーダが「外部から魔族を引き入れることができるとしたら、一時的に結界をキャンセルする事ができる神聖教会しかあり得ませんね!」と言った。
それで閃いたかの如く「なるほど!そう言う事ですか!」とアデリナが言った。
「姫は何か心当たりがあるんですか?」
「心当たりではないのですが、神聖教会は裏で王族統治を転覆させて自分たちが国を牛耳ろうとしているとの噂を聞きます。それで魔族を導き入れたと考えると腑に落ちますね。」
「なるほど! それはあり得る話ですね!!」
「しかし、何故ヘンドリックが狙われたのでしょうか?それも彼が実家に帰った無防備な時に・・・」とアデリナはまだそれが解せないようであった。
「確かに! 大学の状況を知ってるやつじゃないとわからないよな!?」
「姫、そういえば・・・以前聞いたことがあるんですが、第3王女のシャルロッテ姫が神聖教会と親しいとか・・・もしそうであれば、学生なのでヘンドリックの帰省予定は入手できるかと…」
「そうですね・・・まさか、あの子がそこまでするんでしょうか?」と姫の表情が変わった。
すると、スタンが、「アデリナ姫、それはあり得ますよ! 魔族を意図的にこの機に国内に入れて被害を拡大し、その非を現王族に問う。そして神聖教会が頂点に立つと言うシナリオが浮かんできます。 それに仮にそうだとすると、この前の砂漠での賊の襲撃の理由にも繋がります!我々も狙われているんです。」と珍しく訴えたのだった。




