第30話
魔法世界に冒険者として生きる孤児であり主人公スタンリー・ケンプ。
そこに生きる人々の様々な些細な行動がまるでバタフライ・イフェクトのように世界を変えていく。
この物語のテーマとなる『ストレンジアトラクター』とは、難しくいうと・・・
カオス理論の研究の中で発見された奇妙な挙動を示す微分方程式の状態の総称のこと。
つまり動的システムが時間とともに発展する際に、予測不可能 で複雑なパターンを形成する現象を指すのです。
そんな泡沫の世界で生きるスタンリー・ケンプ
彼の目を通してその冒険譚を進めていきたいと思います。
また本編である『光と陰ー織りなす夢の形』のスピン・オフとして、本編シーズン4の最後と繋がる物語となりますのでお楽しみに!
スタンは姫の後ろにピッタリと付いて護衛をしているつもりのようだ。
一方ヘンドリックチームはどんどんワイルドボアの群れに進んでいっている。
「スタン、聞こえる?このまま進んでいってね、ついでに聞いて欲しいの。」
「はい、なんでしょうか?」
「今は戦時下だけど私たちまだ学生じゃない!?」
「はい・・・」一体何を言い出すんだろうか・・・・という表情だ。
「他に誰もいないので、あなたにお願いがあるんだけど・・・」
「なんでしょうか?」
「卒業したら私の護衛になって欲しいの。配属的には私の部隊になるわ。」
「はい?? アデリナ姫の直属部隊ですか??」
「そうよ!いやかしら??」
「いや、嫌では無いんですが・・・実は俺、フリーダと使い魔契約を交わしているんです。」
「使い魔?? なんで??」
「最初は俺は学院に入学する資格がなかったのです。でも魔法を学びたくって・・・」
「それでフリーダの使い魔として学ぼうと思ったわけね??」
「でも、王都に来たばかりの日にケレブリン教授にスカウトされて特待生枠ももらったんです。」
「なるほど〜 そういうことだったのね!
卒業時に使い魔契約を解消してもらうこともできると思うけど、それが大変そうであればいっそフリーダと一緒でもいいわよ!いずれにしてもフリーダも誘うつもりだったから。」
「なるほど、わかりました。それであれば何も問題ありません。ありがとうございます!!」
「あっ いたわよ!!チャンスよ!!」と言いながら狙いをつけて大きく弓を引いて射った。
するとワイルドボアを見事射抜き獲物獲得となったのだった。
ヘンドリックチームも獲物を持ち帰ってきたため大きさでの判定となった。
「やっぱり私達の勝ちね!!」と姫は子供のようにご機嫌であった。
「まあ、それはどうでもいいとして、この獲物を捌いてバーベキューにしましょう!!みんな、焚き火ができる枝を拾ってきて!」
夜の帳がいつの間にか降りて気温も下がってきていた。
魔動機を背に自称ベテランキャンパーのアデリナは火打石で焚き火を起こし捌いた肉を焼いているところだ。
それを見ながら「姫、ワイルドボアの肉ってうまそうですね!!」とダミアンがヨダレを垂らしている。
「こうして仲間とバーベキューしながら焚き火をすると楽しいわよね!?」
「いいですね!!」とフリーダもなんとなく姫の気持ちがわかったようだ。
そして、フリーダは直感で『この方いい人だわ!これが姫の徳なのね!』と感じ取れたのだった。
何故ならわざわざこのような演出をしてまで姫はパーティー仲間の結束を固くしようとしているのがそれとなくわかったからだった。
「うまっ!! 姫、これ病み付きになりそうですよ!」とスタンもご機嫌でかぶりついている。
実は彼にとって今日は記念すべき日になったのだ。姫から直々に直属部隊へ所属できるオファーをもらったと同時に、姫の護衛にも抜擢してもらえることになりそうだからだ。
『やっぱり、人って不思議だな!気の持ちようでこんなにも楽しく感じられるんだな。』
「へえー、こんなワイルドな料理、スタンも好きなのね!?」とフリーダが少々驚いているようだ。
「えっ、フリーダはダメなの?」
「いえ、美味しいわよ! ただ、あなたがこんなに無邪気に喜んでいる姿を初めて見るような気がしたの。」
『やばい、姫の言葉で舞い上がっているのだろうか、俺? バレたのかな??』とフリーダに無駄な詮索をされないように気を沈めることにした。
ダミアンもヘンドリックと一緒に無言でかぶりついている姿が見えた。
「ダミアン、これうまいよな!」と誤魔化しに声を掛けた。
「もちだぜ!! 俺もキャンプでこんなベーベキュー初めてだからな!ハマりそうだぜ!」
「僕も、うまいと思いますよ! やっぱり星空の下でみんなで焚き火を囲んで食べるのがいいんですね!?」とヘンドリックは、こんな場でも冷静に分析しているようだ。
ここは丁度隣国であるバハマート帝国との隣接地であり、この先からは広大な砂漠が広がるのである。
月明かりだけが照らすサバンナの地で時たま動物の鳴き声がするもののあたりは静まり返っており、その静けさの中で5人の陽気な話し声だけが聞こえていた。
そして満月の月が高く上った頃、お開きとなり焚き火だけを残しシュラフの中で眠りについた。
夜が更けてから静まり返った暗闇で枝が折れる鈍い音がした。
その音で目を覚ましたスタンはゆっくりと双剣に手を伸ばしいつでも抜けるような状態にし、目の動きだけで音がした方向へ追ってみた。
すると、暗闇の中の月明かりで人がゆっくりと動くような輪郭が見えたのだった。
スタンの両脇にはフリーダとアデリナが寝ているのだが、どちらが寝起きがいいんだろう?と考えた。
スタンはアデリナの手を握り「静かに目を覚ましてください」と耳元で囁いた。
するとアデリナは目を覚ましスタンを見た。
「後ろ方向に人がいます。シールドを持てますか?」
アデリナはスタンが言う状況を理解しうなづくと隣に置いてあったシールドに手を伸ばした。
「俺が行きますので、同時に防御魔法をかけてください。」
スタンがスッと立ち上がると、物音が聞こえた方向に双剣を抜いて飛んでいった。そしてアデリナもシールドを構えて他3人を守れるように防御魔法をかけたのであった。
「カンカン、キーン!!」
スタンが飛んでいった方向から剣がぶつかる音がした。
アサシンが2人スタンと戦っているようだ。
何事かと目を覚ましたダミアンも状況を理解しアックスを持って援軍に走った。
2対に2の戦いとなり、まずはスタンがアサシンの1人を斬った。そして、ダミアンはもう1人と戦っているのだが動きが素早いアサシンに彼のアックスが当らないでいる。スタンは背後から挟み後ろから剣を首にあてた。
すると『捉えられる!』と思ったアサシンは歯の間に備えていた青酸カリを割って飲んだのだった。
倒れたところで、スタンが「誰に雇われた?」と顔を持ち揺らしながら聞いたのだが、すでに遅し口から泡を吐き絶命していたのだった。
アデリナが、「私たちの行き先は王族しかしらないはずなんだけど、一体誰が??」と思案しているようだ。
「いったい刺客を送る相手って誰なんですか?」スタンはまだ興奮やまない状態であった。




