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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
最終章『彼女達は何を見たのか』
59/60

#56 どれだけ焦がれても


 なしろは残された力を振り絞って、障壁の中で大声を出しながら、練り歩く。

 先程見たのるんは、変な白い服を着せられ、腹部を白銀の刀で貫かれていた。


 (あんな状態でずっと居たら、お腹にずっと刀が刺さりっぱなしで傷が治っちゃう……!)

 

 真っ直ぐ進めば見つかると思っていたのるんは、何処にも居ない。

 障壁内は暗さに加えて、黒い靄の様なものが掛かっており、尚の事、視認性が悪い。

 

 「のるん〜!!どこ〜〜!なしろだよ!のるんの奥さんがきたんだよ〜!」


 声の反響する感じだと、そんなに広いようには思えないのだが、どうしてか見つけられない。

 闇雲に彷徨う中で、ふと思い出した。そう言えば、前にのるんから貰ったものがあった筈だと。

 焼鳥くんの中に発動した炎属性テクニックを、ランプ代わりにするもの魔道具を鞄に入れていた。

 焼鳥くんの頭を開けて、適当に触りながら確かめていくと、奥底に眠っていたのを見つけた。

 

 「これか……、えっと……フォイエ!」


 小さい炎ではあるが、なしろが生み出した炎テクニックを魔道具に入れ、ランプ代わりにする。

 ようやく足元や、狭い範囲ではあるが、周囲を見ることが出来る。

 「星蝕の祭壇」に来るまでも、日は落ちても、月の光や溶岩の灯りがあったため、そこまで暗さを感じることはなかった。

 しかし、先程までは、そのどちらもない上に、黒い靄があったせいで、視認性は最悪だった。


 「やっと見える……。というか、この黒いモヤみたいなのはなんなの……」


 時間がないのに。こうしている間にも、のるんは苦しんでいるのに。

 そう思うと本当に胸が苦しくなる。どうしてだろう、分からない。


 (こういう時、どうしたら良いの……のるん)


 次第に寂しさや、その他の色々な感情が混ざってぐちゃぐちゃになってしまった。

 涙がポロポロと溢れ、泣くまいと、声は出すまいとするも、鼻を啜る音だけは出てしまう。


 「のるんぅ……何処に居るのぉ……」

 「本当に来たんだ。凄いね、なしろ。そのまま真っすぐ進んでおいで」


 聞き慣れた声、話し方、抑揚から声色まで。何から何まで全く同じ、のるんの声がした。

 どんなに似せられていても、絶対に見分ける自信のあるそれに、導かれてなしろは歩き出す。

 少し進んだ所で、仄かに明かりがついている場所に辿り着く。

 確かに、この場所は遠くから見えていたのるんが苦しんでいた場所と同じらしい。


 「なしろ、もぅ〜ダメじゃん。こんな所まで来ちゃ」

 「のるん!のるん!どうして!どうして、のるんが死ななきゃいけないの……」


 会えて嬉しい。まだ行きてて嬉しい。此処までこれて嬉しい。

 言葉にしたいこと、伝えたいことは沢山ある。此処まで来る間の出来事だって話したい。

 でも、のるんに抱きついて分かってしまった。()()()()()()()()()()()()()()()


 (まるで、無理矢理生かされている……みたいな感じなのかな)


 のるんを横から強く抱きしめながら、チラリとのるんの顔を見る。

 いつもの困ったような表情で、頭を撫ででくれている。とても温かい気持ちになる。


 (でも、お腹には……刀が……)


 現実を直視しても尚、幻想を夢見るなしろは、のるんのお腹の方をじぃっと見つめる。

 なしろの視線に気づいたのるんは、突き刺さっている刀を見る。

 

 「ん。お腹の刀が気になる?」

 「う、うん。痛くないのかなって……抜いた方が良いんじゃない?」


 正直に言ってしまったからなのか、のるんは更に眉を下げ、どうしたものかと困っている。

 自分の言ったことは、そんなに間違っていたのか。困らせるようなものだったのだろうか。

 

 「ん〜そうなんだけどねぇ。コレのお陰で、今こうしてなしろとお話できてるから……」


 どういう事なのだろう。刀が刺さっているから、自分と話が出来ている。

 困惑するなしろを抱き抱えながら、のるんはゆっくりと立ち上がる。


 「なしろは、今までの事、何処まで知ってるの?」

 「えと……、のるんが、生贄に捧げられて、死んじゃうってこと……」


 なしろがそう答えると、のるんの目が若干泳いでいる。

 じぃっと見つめているから分かる。こういう時ののるんは大体逃げようとする。

 

 「そっかぁ。半分当たってるけど、半分間違ってる」

 「え……?」


 いつもなら逃げるはずなのに、のるんは逃げなかった。

 おいで、となしろを促して黒い靄の中を、気にせずに進んでいく。


 「ボク、生贄に捧げられた訳じゃないんだ。犠牲者って奴ではあるけどね」

 「じゃ、じゃあ……残り半分の正しい部分って……」


 嫌だ、聞きたくない。信じたくない。嘘だと言って欲しい。

 刀が刺さっていることも、これから聞くであろうことも、全部ぜんぶ、何もかも。

 けれど、残酷な事実はなしろを襲い掛かる。それも、最愛ののるんの口から。


 「うん、ボクは死ぬ。そこだけは正しいよ。さっき言ってた刀が刺さってるおかげで、なんとか今こうしてお話しできてるけど、抜けちゃったらそのまま死んじゃうと思う」

 「な、なら!刀が刺さったまま!このままおうちに帰ろう?それなら良いんだよね?ね?」


 なしろの言葉に、のるんは表情を曇らせ、首を横に振る。

 やめてよ、どうしてそんな表情するの。一緒に帰ろうって言ってよ。

 分かったって頷いて。いいよって、頭を撫でながら笑ってよ。

 今は何とか繋がっている手も、そう遠くない内に離れてしまう。

 

 「ううん、それは出来ないんだ。それに、今は無理言って、時間貰ってるだけなんだ」

 「誰に!!誰が……、わたしの、のるんの時間を独占してるの!!」


 分かってる。こんなこと言ったってどうにもなんないって。

 それでも、嫌だ。現実なんて見たくない。のるんと一緒なら、虚構でも偽りでも良い。

 哀しみは怒りへと、その怒りは段々と激情となって、終いにはのるんに当たり始める。


 「ごめんね、それは言えない」

 「なんで!!なんでなの!のるんはわたしの事、嫌いなの!?」

 

 のるんは首を横に振る。少しずつ緩慢になってきたのも、気づいてる。

 見えないはずの砂時計が視界にチラチラと映っているような気すらしてきた。

 

 「ううん、大好きだよ。今も、これからもずっとね」

 「じゃあ行かないでよ!!大好きな子置いて、先に死なないでよ!!ねぇ、のるん!」


 折角おしゃれしてきたのに、髪も服もぐしゃぐしゃ。

 挙句の果てにこんな暗い場所じゃ、なんにも見えない。


 「ごめんね。先に置いて行っちゃって。子不孝者だね、ボク」

 「子供じゃない!およめさんなの!人生のはんりょなの!」


 何処かでしたようなやりとりに、ようやくのるんがくすりと笑った。

 久々に見た本当に笑っている顔。やっぱり、のるんには笑っていて欲しい。

 ふふん、と胸を張り自信満々といった表情を見せると、強めに頭を撫でられる。


 「そうだね、確かにボクに旦那はいないし、なしろにもお父さん居ないもんね」

 「別に……そういう意味で、言ったんじゃないんだけど……」

 

 二人で笑い合っている中、突如、結婚式で鳴らされるような鐘の音が鳴り響く。

 まるで、誰かの門出を祝うような、そんな祝福の鐘の音だ。

 のるんは鐘の音が聞こえると、なしろの手を離して、立ち上がる。


 「そろそろ行かなきゃ。……ねぇ、なしろ。“最期”のお願い、してもいい?」

 「……中身による」


 嘘だ、本当はなんでもしてあげたい。でも最期なんて言わないで。

 これからもずっと、わがままを言わせてよ。ずっと傍に居てよ。

 精一杯の強がりだって、のるんの前ではただの駄々っ子にしか見えないんだろうな。

 のるんは、なしろの前で膝立ちになり、お腹を少しだけ上に向ける。


 「なしろにこの刀、抜いて欲しいの。お願い、出来ないかな?」

 「……どうして。だって、その刀を抜いちゃったら、のるん、死んじゃうんだよね」


 のるんは、ゆっくりと首を縦に振る。


 「本当はボクが自分で抜けたら良いんだけどね。もう腕が半分透けちゃっててさ」

 「じゃ、じゃあこのままにしてたら……」


 のるんは首を横に数度振った。

 明確な拒絶されたのは、コレが初めてかも知れない。


 「ダメ。それだけはダメなの。このままじゃ……。お願い、なしろ。ボクを殺して?」


 分かってる。のるんがそうお願いすることに、意味が絶対にあることくらい。

 それでも、涙が止まらない。ボロボロと溢れ出す涙が頬を伝って、地面にポタポタと垂れる。

 よりにもよって、最愛の人を自分の手で終わらせないと行けないなんて。

 なしろが躊躇っていると、のるんはゆっくりとなしろに声を掛ける。


 「なしろ、ボクを忘れて、早く幸せになって。キミの幸せ、願ってるから」


 弱く笑うのるんを見てられなくて、なしろはのるんのお腹に刺さっている刀の柄を握る。

 息が荒くなる。もう話せなくなる。でも、自分がやらなきゃいけない。

 のるんの命を奪うのは自分なんだと思うと、怖くて仕方ない。

 

 (でも、のるんにお願いされた……しなきゃ……)

 

 「バイバイ……のるん」

 「うん、バイバイ。ありがとう、なしろ……大好きだよ」


 なしろは白銀の刀を、のるんの身体からゆっくりと引き抜いた。

 本来であれば、血が吹き出る筈なのに、一滴も出ずに、そのままのるんは消え去ってしまった。


 「のるん……どうして……うああああああああああああああ」


 残された白銀の刀を握り締めて、なしろはその場で泣き叫んだ。

 障壁は消え去り、黒い靄はいつの間にか払われ、満天の星空がなしろを見下ろしていた。

 ひび割れた空はいつの間にか元に戻り、黒い光も、嘘のように無くなっていた。

 


 


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