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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
最終章『彼女達は何を見たのか』
58/60

#55 望まぬ邂逅、約束された邂逅


 なしろ達が階段の中腹辺りに差し掛かる頃、なにやら下の方から、


 「おのれしろぉぉぉぉぉっぉお!!!」


 という叫び声が聞こえてくる。

 何があったかは分からないが、恐らくはイマジナリー白がまた暴れたのだろう。

 長い階段を上り、身体が疲労している中では、少しだけ彼女の叫びが励みになった。


 (ただ、それでも大分きつい……)


 此処までかなりの無理をしてきたなしろは、適度に水分補給はしているものの、脱水症状に似た身体の倦怠感に襲われている。

 息も荒く、足取りも相当重い。身体は既に限界へと達している。

 でも、なしろ本人は無理してでも、のるんの元へ向かわねばならないと考えている。

 最早、気力だけで歩いている彼女を見かねた鈴は、それでも先へと進もうとするなしろの手を引く。


 「少し休みましょう。歩みを止めるなとは言いません。ペースを落とすべきです」

 「ダメ。今は休んでる場合じゃないの」


 鈴の提言にも耳を貸さずに、速度を緩めないなしろの脚がついに縺れ、階段を踏み外してしまう。

 このままだと、顔面を階段の角にぶつける……という直前で、鈴に抱き抱えられる。

 

 「もう少しで階段は上り切れますが……、恐らく、この先にはフルールさんが待ち受けていることでしょう。他の方は、なしろさんにも同情し、道を開けてくれましたが、彼女はきっとそんな事はしないはずです」 


 鈴の言葉は正しさで溢れていた。正確で間違いのない発言だ。

 のるんと共に去った人物で残っているのは、リア・ラ・フルールの一人。

 鈴の言うように、彼女はきっと、のるんのすぐ傍でなしろ達の行く手を阻むことだろう。


 (その時に戦闘になるから、体力は温存しろって言いたいんだね)


 「……分かった。少し温存する。でも、それで間に合わなかったら意味無いから」

 「分かってくれているだけで十分です。私もなんとかしてなしろさんに道を空けるつもりですから」


 そう言った鈴の表情は少しだけ、歪んでいるような気もした。

 焼鳥くんの中に入れていた水分を少し飲み、なしろは階段を一歩一歩進み続ける。

 やがて、頂点が見え、後数段で頂上といった所で、嫌な気配が周囲に立ち込める。

 

 「これは……恐らく、彼女でしょうね」

 「うん。機嫌の悪いリアさんが、たまに発してるオーラに似てる気がする」


 黒く禍々しいオーラが、黒い空と相まって、余計にどす黒く見える。

 ひび割れがほぼ空の全域にまで拡がっており、残された時間があと僅かだということが分かる。

 此処に来るまでで、大分体力は回復させた、と言ってもさっきよりかはマシ、程度だ。

 手を繋いでくれて、祭壇の最奥まで連れてきてくれた鈴には感謝してもしきれない。

 最上部まで到着する少し前に、鈴は立ち止まり、握っている手の力が少しだけ強くなる。


 「なしろさん。フルールさんは、こちらで何としても抑えます。だから、私のことなど気にせずに行って下さい。例え、私が命を落とそうとも、振り返ってはいけませんよ」

 「……分かった。もし死んじゃったら一緒に天国に行こうね」


 なしろの言葉に、目を丸くさせた鈴は、すぐにニコリと微笑む。


 「きっと私が行くのは地獄ですよ。マスター業の一つすらこなせずに死ぬようではね」

 「ふふ、じゃあ絶対生きて帰らなきゃだね」


 そんな、なんでもない様な話をしながら、最奥部へと辿り着くと、そこにはのるんが居た。

 空を見上げ、見慣れない白い儀式じみた格好で、胸に何かが突き刺さっているのが見える。

 少し遠くて良く見えないが、刺さっている何かの周辺から、衣服が真紅に染まっている。

 近くにリアは居ない。のるんの元に駆け寄るなら、今がチャンスだ。


 「のるんっ!!!」

 「ダメですっ!罠だっ!!」


 駆け寄ろうとしたなしろの手を無理やり引いて元いた場所へと投げ飛ばす。

 その反動で、鈴の身体はなしろが向かおうとしていた方向に飛ばされてしまう。


 「……!しまっ」

 

 鈴がのるんの近くへと飛ばされた刹那だった、何か壁のようなものに阻まれ、いきなり爆発した。

 轟音と爆風がなしろにも襲い掛かるが、距離が離れていたお陰で被害はほぼなかった。

 

 「いたた……、何するんですか……ぇ、鈴さん……?」


 何が起こったのか、良く分からなかったなしろは、鈴の元へ駆け寄ろうとすると、怒声が聞こえてきた。


 「チッ。違う奴が掛かったのね。本当、「野伏(レンジャー)」って厄介よね。弱体弾撃ったり、こういうのを容易に見破るんだもの。……忌々しい」


 声の主は、最後の一人。リア・ラ・フルールだった。

 ゴミを見るような目で、鈴が居た場所を見るその姿は、いつにも増して冷酷さが増していた。


 「貴方達、二人だけ?なら他の三人は足止めしてくれてるのね。上々だわ」

 「今、一体何が……」


 爆風と轟音が消えた跡には何も残っていない。では、鈴は何処に行ったのだろうか。

 どうやらリアも同じ事を思っていたらしく、鈴の身体がないこと気づくと、すぐに長杖を展開する。


 「居るんだろ!!玉兎鈴!!さっさと姿を現せ!!」

 「相変わらず、耳障りな声ですね。そんなに私が嫌いならさっさと転籍したら良いのに……」

 

 声は上からだった。なしろが見上げると、そこには鈴が五体満足に生存していた。

 祭壇にあった柱の一つの上で、あちこちが傷つきながらも、鈴は長銃の照準をリアへと向けていた。


 「なしろさん!そこのバカは私が引き受けますから!貴方は姫宮さんの元へ!壁もぶち抜いておきます!」

 「わ、わかった!鈴さんもちゃんと帰ってきてね!」


 鈴は言葉にはしなかったが、首を一つ縦に振ると、手榴弾のピンを口で外し、壁へと投げる。

 手榴弾が着地する直前付近で、大砲へと持ち替え、渾身の一撃を障壁へとぶっ放す。


 「フィアー・イレイザー!!」


 超高出力で限界まで濃縮したフォトンを大砲から射出し、障壁の一部を破壊する。

 フィアー・イレイザーを解除すると、みるみる内に障壁が再生されていく。

 それを遠距離から視認できていた鈴は、なしろにも聞こえる声量で叫ぶ。


 「なしろさん!壊れている内に早く入って!入ってしまえば、フルールさんも邪魔は出来ません!」

 「う、うん。わかった!」


 なしろは全速力で走り、障壁の穴へと滑り込む。

 なんとか穴を抜け、後ろを振り返ると、障壁は塞がっており、触ってもビクともしない。


 (ありがとね、鈴さん)


 なしろは心で鈴に感謝を述べ、奥にいるであろうのるんの元へと足早に駆けていく。




 ________________________


 なしろを見送った鈴は、改めてリアを見据える。

 最後に会った時より、より自分のことを嫌っているらしい。

 前までは表面上でも仲は悪くない体を装っていたのに、今では全力でこちらを嫌っている。


 「さてさて。ここからが本番って奴ですかね?そうは思いません?」

 「もう、どうでもいいわ。どうせ、ウルは死に、あいつが生き残るだけなんだから」


 リアの言葉は随分と投げやりだ。まるで、なしろが何をしても結末は変わらないと言わんばかり。

 虚ろな目で、激情を孕んだ表情をしている。何もかも矛盾している彼女は見ていて滑稽だ。


 (コレが所謂、壊れた人。と言うものでしょうか。見ていて面白いですが……)


 正直な所、無事が確認できたのであれば、仕事自体は終わりだ。

 どうせ、彼女を連れて帰っても、トラブルの火種でしか無い。

 今までも散々煮え湯を飲まされてきたが、腐っても同じチームに所属している以上、最低限の責務を果たさねばならない。


 (本当、気に食わないなら自分が想う理想のチームにでも、行けば良いんですけどね)

 

 死んだ際には死亡届や、離団する際には離団承認届など。

 事務的な作業や面倒な手続きが本当に多いのだ、探索者のチームマスターという役職は。


 「それで?仮に儀式とやらが成功して、姫宮さんが亡くなったら、貴方はどうするんです?」

 「さぁね。甦らせるために黒魔術でも研究しようかしら。それとも、降霊術?」


 本当にこの人は変わらないんだな、と鈴はため息を付く。

 結局の所、自分がどうしたいかしか考えていない。相手の事は二の次なのだろう。

 のるんと話したことはないが、他の人の話を聞いている感じ、降霊術等は望まないだろう。


 (本当にそういう事を望むなら、赤の他人の為に、命なんて投げ出しませんから)


 可能であれば、一度、のるんに会ってみたかった。

 なしろがあそこまで目を輝かせて話す彼女と話してみたかった。

 此処に来るまでの間、彼女がした話の大半は、のるんとの想い出だった。


 (そんなに大切にしているものが出来れば、私も変わるのでしょうか)


 いや、無いだろう。少なくとも、今は自分だけが大事だ。


 「これが姫宮さんとフルールさんの差なんでしょうね」


 鈴の何気ない一言が、リアの逆鱗に触れたらしく、ヒステリックな金切り声を上げる。

 長杖から様々な属性のテクニックを発動し、辺りを無作為に攻撃し始めた。


 「お前に!お前に何が分かる!!」


 髪を掻き毟り、錯乱気味になっているリアのテクニックによって、鈴の立っていた柱もへし折られる。

 直ぐ様、飛び退いて、鈴は地面と着地すると、リアは満足げな表情でこちらを見ている。


 「ようやく同じ目線に立ったわね。前から鬱陶しかったのよ。上から目線で……忌々しい」

 「そんな風に思ってたんですね。知りませんでした。じゃあ、確かめましょうか」


 長銃を持ち替え、その場一体を全て破壊できる程の火力を兼ね備えた大砲を構える。

 現代的な性能を携えた、昔ながらの見た目にスマートさを兼ね備えた逸品。

 鈴の愛用する大砲──「コルボ・フェニックス」を携え、リアに照準を向ける。


 「どちらの方が強いのか、口だけの腰巾着風情が。二度とデカい口叩け無いようにしてやります」



 












 

 

 

 

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