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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
最終章『彼女達は何を見たのか』
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#53 覚悟には覚悟を


 フカ達は深酒を重ねに重ね、気がつけば夜が更けていた。

 昼から飲んでいたせいか、日が落ち、もう間もなく人々が眠る時間と言ったところだろうか。

 すっかり我を忘れ、あじゃや「AmA」と飲んでいたせいか、若干二日酔いのような症状が出ている。

 それもこれも、山崎を飲んだせいだ。あんないい酒は酒飲みで共有し、飲み切るに限る。

 客が何故か、誰も来ていなかったせいでもう店仕舞の時間だ。

 

 「んあ……アタシとしたことが、すっかり寝酒しちまった……、おい、メイド。今何時だ?」

 「誰がメイドですの!……わたくしメイドでしたわね。もう零時前ですわよ」


 時計を見れば、日付が変わりそうな頃合いだ。そういえば、店主はどうしたのだろうか。

 あじゃにお冷を渡し、回らない頭を必死に回転させていると、ふと思い出した。


 (そうでしたわ。バカ店主との約束……空が裂けた時、あそこに行けって……)


 窓越しに星が輝く空を覗き込むと、そこには空が罅割れ、裂け始めているのが見えた。

 不味い、山崎で交わした約束は絶対である。あのバカ店主が普段下げない頭まで下げたのだ。

 約束の場所まで、デバイスを用いればそう遠くはない。それに、丁度良く心強い仲間(酒カス達)も居る。


 (彼女達も、バカ店主に多少の恩はあるはず。……二人は)

 

 お冷を飲んで、多少は回復したあじゃは、逃げようとする「AmA」の頭を押さえつけていた。

 必死にジタバタしているものの、あじゃの力が相当強いのか、「AmA」は悲しそうな顔文字を表示する。

 機械の体に酒なんて流し込んでも大丈夫だろうかと、心配はしていたが、問題はなさそうだ。


 「ちょっとお二方。お時間、少し良いですの」

 「あぁ?まぁ、こいつが逃げなきゃ良いけどよ」


 フカは「AmA」に耳打ちをし、大人しくするようにお願いすると、「( * ॑˘ ॑* )⁾⁾ 」と肯定の意を示した。

 二人がカウンター席に座るのを確認すると、フカは勢いよく頭を下げる。


 「お願いですの。二人の力を貸して欲しいんですの」

 「なんだ?藪から棒に。これから気持ちよく寝るって時に、なんの頼みだ?」

 「(・・?」


 二人して、同じ様な反応を見せるが、フカは言葉を続ける。


 「少し、酔い覚ましに運動に付き合って欲しいんですの。ちょっとした依頼ですわ」

 「あぁ……?別にいいけどよ。何処に行くんだ?」


 あじゃの言葉に、フカは少し誇らしげに胸を張った。


 「バカ店主との約束を守りに、ちょっとスティア近くの……ですの」

 「Σ(゜ω゜ノ)ノ」


 困惑する「AmA」を引き摺りながら、フカはデバイスを用いて「星蝕の祭壇」付近へと向かう。




 _____________



 罅割れた空がどんどんと黒く染まり始め、ついに全ての空に罅が入り始める頃。

 のるんが指定した場所に辿り着いたフカは、何が始まるのかすら分からずに連れてこられたあじゃと「AmA」と雑談混じりに空を眺めていた。

 溶岩地帯の影響もあってか、夜なのに暑い。ドロドロとした溶岩があちこちから噴き出している。

 乾燥した暑さなだけマシなのだが、それでもメイド服がべとつく。

 手で風を生み出すべく、パタパタと仰ぐが、大した効果を得られないのか、あじゃは不機嫌そうに呟く。


 「この空、誰かが生贄に捧げられてんのか?発生源、多分祭壇だろこれ」

 「……じゃあやはり、バカ店主は……」


 あじゃの言葉で大体の状況は理解した。

 やはり、あのバカ店主は帰るつもりなど、更々無かったのだろう。

 死地に赴くのではない。死に場所として此処を選んだのだ。


 (少し前まで、生きてるか死んでるかすら、分からなかったあのバカ店主が……)

 

 理由なんてだいたい分かる。今まで誰かのために、何かをしていた記憶なんて無かったのに。

 無気力でやる気のない、ただの喫茶店のものぐさ店主だったのに。

 いつだって死にたそうに、生きてることが苦痛そうな顔をしていたあの彼女が。


 「なし姫の為に、命を賭けてますのね……。其の為にわたくしに頭まで下げて……」


 今、この場に立って、ようやく彼女の想いが伝わった気がする。

 あそこまで邪険にしていた自分に、彼女の将来を託したのも、それが最善だと信じたからだ。

 フカ・ネコザメであれば無碍にはしない。いや、きっと自分よりも幸せにしてくれるのだと。


 「なぁるほどなぁ。盞華が嫌に深刻そうな顔して出て行ったのは、姫宮娘のせいか」

 「( 'ω ' *))」


 各々が納得したことを確認すると、二人に隠していた内容を話すべく、二人の方を向く。

 それらを全て伝えた上で、フカも頭を下げる。少しずつ酔いも冷め、頭がクリアになる。


 「バカ店主の話によれば、此処に邪魔者が来るかも知れないって言ってましたの。だから、もし、その邪魔者というものが来たら、一緒に足止めをしてくださいませんか?」

 「普段なら、だるいし、アタシにはかんけーねー。で一蹴してるトコだが……、あいつには恩もある。手向けの花代わりに、付き合ってやんよ。ネコザメ」

 「(。'-')(。,_,)」


 「AmA」も言葉はなくとも、同意してくれた。

 これも、彼女の人脈の賜物なのだろう。普通ならば、こんな事に付き合ってくれる人など居ないものだ。

 年甲斐も無く、胸の内が熱くなるのを感じ、目頭を押さえていると、聞き慣れない声がする。


 「あれ〜?キミ達、なんでこんな場所で談笑してるの?空が黒くなって、罅割れてるのにさ〜」


 フカが振り返ると、見覚えのない顔の少女が立っていた。

 くすんだ白髮に、黒のメッシュが多目に入っているショートヘアー。

 毛先はくるんとしており、髪型にこだわっているのもよく分かる。 


 (きっと……この方が、あのバカ店主が言っていた……)

 

 のるんと同じ色の瞳を持つ少女は、どことなく、のるんを彷彿とさせる雰囲気を漂わせている。

 おっとりと、聞く者を安心させる声を発し、微笑みかけているのに、何故か恐怖心が身体を支配する。

 振るえる身体を、理性で無理矢理、言うことを聞かせ、フカは見知らぬ少女に尋ねた。


 「そういう貴方こそ、こんな時間に此処に何しに来たんですの?そもそもどちら様ですの?」


 怪訝な表情で放ったフカの問いに、見知らぬ少女は、三日月状に口角を歪ませた。 


 「え〜?そんな事聞いちゃう〜?愚問じゃない?フカ・ネコザメ。あじゃ、「AmA」」

 「へぇ?アタシの名前まで知ってんのか。アタシまで知ってるたぁ。お前、何者だ?」


 名前を呼ばれ、フカを含め、三人の脳に警鐘が鳴り響く。こいつは危険だ。逃げるべきだと。

 少女は、こちらのことを知っている。どうやら、互いに持っている情報量に差があるらしい。

 フカは警戒心を最大限まで引き上げ、二人にいつでも戦えるように準備するように目配せする。


 (時間と情報を稼がなきゃ。三対一でも勝てない可能性すらあるかもしれませんもの)


 少女からは、のるんと初めて会った時に感じたものと同じモノを感じる。

 底知れない何かを抱え、それを隠そうともしない。悍ましい何かが身体に纏わり付いている。

 そんな感覚だ。言語化することすら、難しい。


 「わたくし達を知っていますのね。商人や情報屋などをしている手前、人の顔を覚えたりするのは得意分野ですけれど、貴方は見たことありませんわ。改めてお聞きしますが、どちら様ですの?」

 「ん〜。確かに、キミ達の前に顕れたことはないねっ。じゃあ、自己紹介だけしとこうかなっ?」


 見知らぬ少女は、その場でくるくると回りながら、満面の笑みで三人を視界に捉える。


 「改めましてっ!ボクはニュクス。さて、ボクは急いでるから、先に行くね?」

 

 ニュクスと名乗る少女が先に行こうとするのを、フカは手を広げて制止する。

 その刹那に、彼女の顔が一瞬だけ曇るのを、フカは見逃さなかった。


 「ニュクスさんには申し訳ないんですけれど、此処は通行止めですの。行かせませんわ」

 「へぇ。キミ達のその行動が、どんな結末になるのか。知っててやってるんだよね〜?」


 あじゃは不敵に笑い、「AmA」は何も言わずに、長銃の照準をニュクスに合わせる。


 「勿論、わーってるに決まってんだろ?全部が終わったら、あいつに酒を浴びせんだよ」

 「貴方が何と言おうと、此処を通すことは出来ませんの。お引き取り願いましょうか」 


 フカの言葉に、ニュクスは舌打ちをし、何処からか双小剣(ツインダガー)を取り出す。


 「乱暴なのは、ボク好みじゃないんだけどさ。邪魔するなら、無理矢理押し通るよ。いいの?」

 「はっ!上等だ。酔い醒ましに丁度良いじゃねぇか。三対一だからって、負け惜しみは無しだぞ」

 「( ー̀ ー́)⁾⁾」


 「AmA」も頷き、あじゃに肯定の意志を示す。

 対するニュクスは、苛立ちを隠そうともせず、項垂れるように身体の力を抜き始める。


 「そっか、分かった。じゃあ最初から本気で行くねっ。後悔しても知らないよ」

 

 ニュクスは啖呵を切ると、右手を天に掲げ、叫び声を上げる。

 周囲の空気がどんよりとし始め、フカ達はたちまち身体の具合が悪くなり始める。


 「おいで!『Notos(ノトス)』!!」



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