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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
最終章『彼女達は何を見たのか』
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#52 無力故に



 「さて、戦う前に少しお話しても宜しいでしょうか」


 凪織と紫亜の前に立っているスーツ姿の女性、シルヴィアは涼しい顔でそう提案してきた。

 凪織達は互いの顔を見やって、どうしたものかといった表情を見せる。

 普通に考えれば二対一。人数のゴリ押しでシルヴィアを無力化して、なしろ達を追い掛けるべきだ。


 (でも、なんでだろう)


 なしろ達がシルヴィアを通り過ぎる中で、彼女は「御武運を」と言い残していたのだ。

 もしかしたら、敵対するつもりは更々無いのかも知れない。

 凪織がそう考えていた矢先に、隣に居た紫亜はどうやらそうは思っていなかったらしい。


 「時間が無い中で、貴方のお話に付き合ってる暇はありませんっ!お覚悟を!」

 「あっ、ちょっと!!」


 凪織の静止も虚しく、超高速で駆け抜けた紫亜は、あっという間にシルヴィアの目前に迫る。

 手には柄を握り、すぐにでも抜刀せんという中、シルヴィアは首を横に数度振り、小さく息を吐く。


 「愚かな。己の力量も相手の力量も見測れないようでは斥候失格ですよ」

 「えっ……あ」


 凄まじい速度で斬りかかろうとしていた紫亜を、シルヴィアは綺麗に躱し、横っ腹に蹴りを入れる。

 想定外の一撃を受けた紫亜は、進行方向を大きく曲げて近くの木へと勢い良く身体をぶつけた。

 紫亜が飛ばされた先には、土煙が舞い、激震が周囲を襲う。


 (ただの蹴りで……?人ってあんな吹っ飛ぶの?)


 紫亜の心配をし、駆け寄ろうにも、近くにはシルヴィアが居る。

 生きてるかどうかの確認すらできない。

 凪織が歯痒い思いをしていると、シルヴィアが徐ろに紫亜を掴み上げる。


 「大丈夫です。気絶させただけなので。頑丈な探索者(アークス)であれば、この程度では死にません」

 「でも、だからといって、あんな仕打ち……酷いと思いますっ」


 酷い?とシルヴィアは紫亜をその場に放り、凪織を冷ややかな目で見る。

 凍てつくような視線は普段の涼しい表情と相まって、より冷酷に見えた。


 「先に襲い掛かったのはそちらでしょう。反撃して何が悪いのでしょうか?」


 シルヴィアの言葉は最もだ。先に手を出したのはこちら側。反撃されて当然だ。

 分かってはいる。即席の仲間であっても、仲間は仲間である。

 仲間を攻撃されては、許せないという感情を抱いてしまっても、何一つおかしくはない。


 「で、でもっ!気絶させるほどの威力で攻撃する必要なんて、無いと思うンデスケド……」

 「彼女の先程の攻撃は、当たり所が悪ければ、命を落としていてもおかしくありませんでした」


 シルヴィアの言葉に、凪織はえ、と声を漏らす。


 「那雲様は、命を狙う相手を気絶させ、殺さなかったことを「酷い」と形容されるのですか?」

 「……、それでも。仲間を傷つけられて、「ありがとう」とは言えません……わふぅ」


 凪織の言葉に、シルヴィア何の反応も示さない。

 右と左で違う色の瞳で、ただ凪織を見つめているだけ。

 

 「直接、貴方とは話したことはありませんでしたが、那雲様は、随分と視野が狭いんですね」

 「なっ、なんでいきなり罵られなきゃいけないんですか!ボク、何もしてないのに……」


 シルヴィアは、目を瞑ると、収納していた飛翔剣(デュアルブレード)を取り出す。

 黒く、酷く歪な二振りの刃。傭兵(バウンサー)が愛用する空を駆ける武器、飛翔剣。

 動きにくそうなスーツの胸元を全開にし、動きやすく着崩している彼女は、既に臨戦態勢だ。


 「私は貴方達の身を案じて、対話を要望したのですが、必要でないのなら、貴方も下します」

 「……どうして、戦う必要があるんですか。どうして、ラスフォルトさんは姫宮のるんの味方をするんですか!!」


 凪織は、声を荒らげながらも、武器は取り出さない。戦うつもりなど、元々無い。

 紫亜が無力化され、敵の前で倒れている以上、人質に取られているも同然なのだ。

 出来ることは一つ。この場で彼女を拘束し、先に行ったなしろ達の妨害に加えさせない事。


 (フルールさんの事を探せないのは残念だけど、ボクはボクにしか出来ないことをするだけっ)


 それが、星空の旅人の番犬、那雲凪織が、凪織にしか出来ない事なのだから。


 「貴方は対話に応じるのですね。無駄な殺生をせずに済みます。ありがとうございます」

 「……それで、ボクに話ってなんです?それとも、さっきの質問に答えてくれるんですか?」


 警戒心を解くこと無く、凪織はシルヴィアの近くを素通りし、紫亜に駆け寄る。

 お互い、武器を構えていないのなら、戦う意志がないのなら。

 見逃してくれるだろうという読みだ。


 「私が姫宮様の味方をする理由、ですか。簡単です。彼女に雇用されたからですよ」

 

 凪織は紫亜がまだ生きていることを確認すると、ほっと胸を撫で下ろす。

 すると、何故だろうか。シルヴィアの淡々とした口調には怒りが湧き上がる。

 雇われれば、簡単に人の命を脅かしても良いのか。そんな感情が爆発しそうになる。


 「……雇われたからって、人を傷つけていい理由にはなりません。許せません」

 

 ぐっと怒りを堪えた凪織の言葉に、シルヴィアは不思議そうな表情で首を傾げる。


 「はぁ。那雲様、貴方様も探索者とお見受けして、お伺いいたします」

 「……?なんですか」


 紫亜に膝を貸し、凪織は酷く冷たい声色でシルヴィアの言葉に反応する。


 「貴方は自分の依頼を破棄してでも、敵の命を奪わないことを是だと言うのですか?」

 「え……?」


 凪織は目を丸くする。彼女の言葉が飲み込めなかった。何を言ったんだろうか。

 理解出来ない。頭が言葉を理解することを拒んでいる。そんな感覚に陥っている。


 「我々、探索者は依頼を受注し、達成した暁には、報酬を頂きます。その際に生じた障害は排除し、自分や味方の身を守る。相手が人なのか、魔物なのか、はたまた未確認生命体なのか。例え、誰であろうとも倒す。違いますか?」

 「……違わないけども。違いませんよ!あってます!ラスフォルトさんの言う通り。でも、それでも仲間がやられて、ボクはいい気分、しないのです」


 胸の内をぽつぽつと漏らす。その言葉達に矛盾が生じていることにも気づけずに。

 シルヴィアは、手を頭に置き、どうしたものかと困ったような仕草を見せる。


 「誰かと争うということは……、時に、負傷や死といった事象を内包する事でしょう。そんなに仲間を傷つけられたくないのなら、覚悟を決めた仲間を隣に立たせる資格など、貴方にはありません。ましてや、戦場で敵に情けをかけ、自分や仲間の命を脅かすことこそ、愚行でしかありません」

 「……じゃあ。何故、ラスフォルトさんは夜刀神さんを殺さなかったんですか。また起き上がってあなた達の邪魔をするかも知れないじゃないですか」


 シルヴィアは凪織の膝で眠る紫亜を一瞥すると、再び視線を凪織に移す。


 「残念ながら、有り得ません。実力差が歴然です。はっきり言いましょうか。貴方達が万全の状態で同時に掛かってきても、勝ち目はありません。それに、私の役割は時間稼ぎでしかありません。ですので、殺す必要もなく、そもそも貴方達を害する必要すら無いのですから」

 

 酷く冷たく、それでいて現実的な彼女の言葉は、己の胸を杭で貫いたような気分にさせられる。

 何一つ言っていることに矛盾や間違いがない。

 それ即ち、間違っているのは自分だと、理解させられる。


 (ボクが間違っていたのかな。確かにラスフォルトさんは圧倒的に強い……)


 今、自分が戦って、負けてしまえば。紫亜の安全すら確保できない。 

 これ程までに自分が無力だと感じたのは、いつぶりだろうか。

 握り拳を思いっきり地面に殴りつけたい気持ちをぐっと堪え、シルヴィアを睨みつける。


 「怖い顔をなさらない下さい。お気を悪くしたのであれば、謝罪いたします」

 「謝罪は、ダイジョウブ……なのです。えと、……お話は、もう終わり……ですか?」

 

 「いえ。ついでにお聞きしたいことが、一つ。那雲様はどうして此処に?姫宮のるん様とは、直接の面識は無いという認識でしたが」

 「ボクは……、えと、フルールさんが失踪したと聞いて、マスターと、一緒に探しに……というのが、本題ではありますが、同じ目的で動かれているなしろさんに同行した……という形、デス」


 話し始めて数刻が経つが、シルヴィアは姿勢を一切崩さずに、お腹付近で手を組んだままだ。

 真っ直ぐこちらを見る目は、感情こそ感じられないが、それでもずっと目を見て話してくれる。

 それが何故だか、心地よい気がしているのだ。催眠術でも掛けられただろうか。


 「では、姫宮のるん様がこれから、何をされようとしているのかも、ご存知無いのですか」

 「このままだと、災禍を鎮めるために生贄に捧げられるとは聞いてますが……、そういえば、具体的に何災禍が何か、とか、どうしてのるんさんが選ばれたとか……聞いてナイ、アレ、おかしいナ……わふぅ。」


 指をこねながら、自分もクネクネさせながら、よくよくなしろ達の言葉を思い返す。

 

 『恐らくは、姫宮殿が自ら、生贄に捧げられようとしているのでしょう……。災禍の為に』

 『のるんの命が必要な災いってなんなの!どうして、のるんが死ななきゃいけないの!!』


 あの時は、そういった疑問を抱くことを許さないような状況だった。

 でも、今いま思えば、気になる。彼女達の言う『災禍』って何なのだろうと。

 リアを取り戻し、そのついでに姫宮のるんを助けることができれば、程度にしか考えていなかった。

 

 「姫宮様は、なしろ様の身代わりになって死ぬのですよ。厳密には命を賭した封印を施す、といった感じでしょうか。其の為に、命を投げ出す場として、『星蝕の祭壇』を斎場にした。ここでなら、人を生贄に捧げても、疑問を抱く者が少ないですから。今の貴方のように」

 「もしかして……、さっきから、空がどんどん、黒く染まっていっているのは……、罅割れたような模様が空のあちこちに産まれ始めているのは……」


 シルヴィアが首を縦に振り、肯定の意を示す。


 「えぇ。着々と儀式は恙無く進み続け、もう間もなく、姫宮のるんが命を落とす証拠です」

 「それで良いんですか!ラスフォルトさんは、姫宮のるんが死んだって良いんですか!」


 凪織の叫びに負けず劣らずの声量で、シルヴィアも言葉を返した。

 悲痛な表情で、今にも泣きそうな声色で声を荒らげる。


 「良い訳など無いだろう!ただ、他に選択肢を提示出来なかった私達が出来る事は一つだけ」


 凪織は何も言わずに、シルヴィアの言葉の続きを待つ。

 言葉を挟むことすら、憚られると感じたからだ。


 「姫宮様の最期を、なしろ様に見届けて貰う事だ。彼女の選択をその目で見て貰う必要がある」

 

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