12話 告白
マンションに来た僕は、緊張した指でインターホンを鳴らす。
少ししてからドアを開けた夕梨花と目が合った。
「いらっしゃい、せんせい」
「うん、お邪魔します」
彼女は微笑んだ。
「どうぞどうぞ~。私飲み物持ってくるから先部屋入ってて」
彼女の部屋に入ると、目柱が熱くなった。
花の様な香水の香り、白いレースカーテン。本棚に綺麗に並べられた少女漫画。勉強机に沢山貼られた、友人とのプリクラの写真。間違いなくここは、僕がかつて彼女に教えていた部屋だった。
「うっ……く……」
涙が溢れる。僕は慌てて目を拭う。
彼女との再会なんだ。楽しい夢なんだ。涙なんて、流してる時じゃないのに……。
「先生はいつものブラックコーヒーでいいよね……って、どうしたのせんせい!?」
コップを持ってきた彼女は驚きの表情を見せる。
僕は必死に取り繕う。
「な、なんでもないんだ。昨日見た映画が凄く感動して……それで今、急に思い出して……」
そう言いかけて急に暖かさを感じた。
夕梨花が僕を抱きしめたという事に、数秒遅れて気が付いた。
「せんせい、何か、辛い事があったんだね」その言葉を彼女の声で聞いた時、僕はもう限界だった。僕は泣き喚く様に吐き出す。
「うん、うん……とても辛くて、怖かったんだ、ずっと一人で心細くて、それなのに周りのスピードは恐ろしく速くて、僕は置いてけぼりにされて……それからーー」
「いいよ。思いっきり泣いていいよ。せんせいはいつも大人っぽいけど、我慢してたんだね」
夕梨花は僕の頭を優しく撫でる。人の手が温かいと思ったのは、いつ以来だろうか。
僕は泣き続けた。まるで20年間の涙を一度に放出する様に。
どれくらい時間が経っただろうか。夕梨花はずっと、僕を抱きしめてくれていた。
「あはは、今日は、もう勉強出来ないね」
夕梨花は暗くなった窓の景色を眺めた。
「――夕梨花、君に言いたい事がある」
「――えっ?」
「君が好きだ」
遂に言えた。長い間言えなかった、言いそびれた言葉を。
「……ありがとう、凄く嬉しい」
「本当!?」
嬉しくて少し声が浮ついた。
「でもごめんね。せんせい」
時間が、凍り付いた様な気がした。




