11話 ラムネ
先生が去ってから、私達は現在、公園の木陰のベンチに座り、休憩中です。
ルシルさんは私にラムネを買ってくれました。口の中の炭酸が冷たくはじけて、美味しい。
「どう? いちごちゃん。夢がどんな物か、分かったかい?」
ルシルさんはポケットから煙草を取り出し、火を付けます。バニラの様な、甘い香りが漂います。
「……少しだけ」
瓶の中のビー玉は太陽に透かすとキラキラと煌めき、まるで宝石の様ですが、それは偽物の輝きということを私は知っています。
「それは結構な事だ。さっきはどうしてあんな事を言ったの?」
ルシルさんはどこか楽しそうに呟きます。
「ごめんなさい。でも、私にはずっと疑問なのです。誠先生は今の世の中の方が嘘と言っていましたが、本当に、そうなのでしょうか?」
少し昔の、羊だった頃の私も。このビー玉と同じだったのでしょう。偽物の少女。偽物の輝き。昔は偽物でも良いと思っていましたが、今は違います。
私は、世界中に沢山いるごく普通の少女の様に、夢を見たい。
飼われていた私にも、未来に希望があるのです。だから誠先生にだって、日常を生きる理由がきっと一つはあるはずなのです。
ルシルさんは私の瞳を見て微笑みました。
「別に怒ってはいないよ。すでに僕らは仕事を終えているからね。彼が現在に生きたい理由は、本人にしか分からない事だ。ただ……」
ルシルさんは煙草を咥える口元を手で覆い青空を見上げます。
「彼は出来なかった告白をする。するとこの夢は思い出の世界では無くなるんだ。この夢は少し、形を変えてしまうのかもしれないね」
「夢が、変わる……?」
それはどういう意味なのでしょう? 今の彼の言葉は、言葉以外の響きがしました。
ルシルさんは答えずに、口から煙を吐き出します。 少しの間が空いて、ふと私はある事に気がつきました。
「あの、ルシルさん。今の貴方は未成年に思われるのでは?」
「ん、そうだった」そう言って彼は苦笑し、煙草の火をすぐに消してしまいました。
「――まったく、子供は辛いね」




