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がーるずとーく

「ちょっと待て、最後の力?」


 それは健司にとって完全に不意打ちだった。『異世界行ってチート貰ってハーレムほしい』などというアホらしい願いを半ば本気で叶えてくれた、自分の世界に召喚し、チートと言える能力を得る機会を与えてくれた(ハーレムは完全にセルフらしい)あのアーサ・ヌァザ様が、最後の力を、そう"最後"の力を使って召喚した?

 そんな事実はあの父祖神からは一言も聞いていなかった。


「それってどういうことだ、俺はそんな話全然聞いてないぞ。最後の力ってアーサ・ヌァザ様はどうなったんだ!?」


「申し訳ありません、少々言い方が悪かったようです」


 健司が焦ったようすで詰め寄ろうとするのを泪は慌てて宥めながらことの説明を始める。

 最後の力というのは言葉の綾で、正確には父祖神が自由に行使できる最後の力というのが正しいとのこと。


「つまり、アーサ・ヌァザ様は無事なんだよな?俺を召喚して力を使い果たしましたので滅びました、何てことは無いんだよな?


「大丈夫です元より逆神に力を奪われてより現世に影響を与えることができなくなっていた力の残し、健司様を召喚するのに使われたのはこれをかき集めたものですので、父祖神様が滅びたりということはございません」


「そ、そうか。でそんな力を俺なんかのために……………………」


 そう説明を受けて安堵する健司。それと同時にまさかあんな願いのために、アーサ・ヌァザとの約束を、逆神の台頭により追われる人達を助けるという約束を守ろうと動いてはいるが、あんな願いを宣うような人間にそんな大事な力を使ったのかとショックを覚える。


「そのように思うのでしたら、与えられた力をなんのために使うのか良くお考えになってお振るいください。私が知るのは貴方がこの世界に父祖神様のお力で召喚されたことのみ。この世界召喚される前に何を思い、召喚されてからどのように過ごしてきたかは分かりませんが、もしも私が告げた事が健司様の心にどのような影響を与えたのか、それが善ものであればと願います」


 健司は健司なりに真面目に考えて行動していた。桜歌を助けたのも、ナグアナ達移送中だった奴隷達を助けたのも全てアーサ・ヌァザとの約束を果すためだった。

 だがそれと同時に強い力を得て、その力を振るい敵対した相手を容易く片付けてきたことに軽い全能感を覚えていたのもまた事実。

 彼女達を助けることに優越を感じ浮わついていた。この世界に召還されるのに支払われた力の意味も知らずに。


 その事実は軽い気持ちで力を振るってきた健司に強い衝撃与えていた。











 開け放たれた窓から入り込む月明かりの中で、健司は購入したばかりの剣を眺めていた。


 戦うための得物、簡単に人を殺すことのできる道具。それは彼に与えられた力と何ら変わらぬ"力"としてあるものだ。


 凛と泪とはあのまま別れた。彼女達はあのまま街を出て次の街へと向かうらしい。

 拠点に来ないかと誘いはしたものの、凛を一度西方仙域へと連れて行くことが目的らしくその申し出は断られたが、また会うことを約束して二人と別れたのだ。凛は健司と別れることを寂しがりはしたが、泪に言い含められて渋々といった様子で掴んでいたズボンの裾を離しまた会うことをしつこく約束させて健司に苦笑いさせていた。


 そんな彼女達と別れた健司はその足で武器屋へとむかい適当な剣を購入して宿へと入った。そのとき空はまだ明るく街を散策する時間はたっぷりとあったが、自分の召喚についてあのようことを知った後で気楽に街へと繰り出す気にはなれず、入った宿の一室で"力"の縮図とも言える剣を眺めながら考え事をしていた。


(……………………真面目に考えてなかった訳じゃないんだよ。奴隷を解放して彼らと最終的には国を作るっていうのも逆神の徒から身を守るためには団結する必要があるって考えてのことだ。

 桜歌にいった慎重にって言葉だって嘘じゃない。俺たちの存在がばれないように慎重に動くのは当然のことだと思ってるけど、慎重になりすぎて動けなくなっても駄目だから動くからには大胆に何て考えてたわけだけど……………………。考えてたのはそれだけ。一歩先のことは考えてても二手三手先のことまでは考えて行動してなかった。真面目でも浅慮だった。もっと真剣に考えて行動するべきだったんだよな)


 この世界に召喚されてから半月ほど経つが、これまでの行動を思い出して深く反省する健司。アーサ・ヌァザは健司にとってあんな冗談半分の願いに対し、チート呼べるだけの力を得る機会を与えてくれてこの世界に召喚してハーレムを作るも自由にしていいとほぼその願いを叶えてくれている。それに対し自分はどこまで真剣に彼の頼みに向き合っていたのだろうかと唇を噛む。


「早いうちに泪さんからこの話を聞けてよかったよ。

 もっと真剣に考えるべきなんだ、俺は」


 明日からやるべきことは変わらない。けれどもっと真剣に取り組むべきなのだと、健司は心に誓った。

















 用途の分からぬ金属の箱の置かれた小屋の中で、筆を手に文机の上に置かれた紙片に符術に必要な『術文』書き込んでいた桜歌は小屋の扉を叩く音に顔を上げ、術文が書き上がっていることを確認してから硯に筆を置いて入り口へと向かった。


 コツコツと再び鳴る音に急ぎながら草履突っ掛けて扉へと手を伸ばす。


「あ、桜歌様。少しよろしいでしょうか?」


 扉を開けた先に立っていたのは河の妖精族とも呼ばれるウィーネ族の女性アリアーネだった。

 桜歌の肩越しに筆記用具の置かれた文机に気づいた彼女は邪魔をしてしまったかと心配そうな表情をするが、桜歌は苦笑しながら頭を振ってそれを否定する。


「なに、問題はない。暫くは書いた墨が乾くのを待たねばならぬ。邪魔でも何でもないぞ」


「そうですか、ありがとうございます」


「気にするでない。こんなところで立ち話もなんじゃし中に入れ、とは言うもののこの小屋の主はこの場におらんのじゃがな」


 肩を竦めて入るように促されたアリアーネは素直にその言葉に従って小屋に中へと足を踏み入れた。

 この小屋は健司がこの世界に召還された際にアーサ・ヌァザによってなけなしの世界干渉で与えられたもので、現在健司が拠点と呼んでいるこの場所で唯一衝立ではなく壁のある建物であり、現在は健司の提案により女性陣の着替えなどに使用されている。因みに野郎は別に外で構わないよなとの言葉により、ここを使えるのは女性に限られている。


 当然と言うかなんと言うか健司を始めとして幾人かの男が覗きを行おうとして桜歌やキーラに撃退されたりしているがそれはどうでもいいことである。


「それで、どうしたんじゃ?」


 筆記用具を片付けた文机を脇に避けて囲炉裏を挟んで互いに席についた桜歌は、目の前に座ったアリアーネに単刀直入にそう訪ねた。


「はい、健司様がいつ頃お戻りになられるか、桜歌様はご存じ無いでしょうか?」


 いきなり本題問われたアリアーネは、少々を困ったような表情でそう尋ねた。尋ねられた桜歌は苦虫を噛み潰したような表情で天井を仰ぎ、次いで大きな溜め息を吐いて頭を振った。


「分からぬ。ここを出てより連絡ひとつ無いのでな。どこでどうしているのか、生きてるのか死んでいるのかも分からん」


 まぁ、殺しても死なないような気もするし生きてはいるじゃろうがと続けて苦笑すると、自分が着替えを覗かれた際に桜歌キーラ、次いでにディアラに撃退されながらもピンピンしていた健司の姿を思いだして顔を赤らめながらも同意するように苦笑するアリアーネ。


「しかし、奴の帰りを気にするとは、惚れたか?」


 そう言えば最近そわそわしてるようなと不思議そうに首をかしげる桜歌に、アリアーネは慌てた様子で、しかし頬をわずかに赤く染めながら頭を振った。


「いえ、そういうわけではないんです。桜姫ちゃんが寂しそうにしているので。やはり健司様がいないと……………………」


「む、たしかにそうじゃな」


 頬を赤らめている様子に誤魔化しを感じながらも、アリアーネ言うことも確かにその通りであることに桜歌も眉を潜める。桜姫に関してはアリアーネが任せられているが、彼女は裁縫をしている女性陣の纏め役にもついているため、仕事中はリザードマンの女性達と交代しながら世話をしており、ここにいる人達の中でも特になつかれている方なのだが、それでも日に日に彼女の元気がなくなっており、気付けば健司の姿を探すように周囲を探している姿を見かけるようになった。


「わがままを言っても私達を困らせるだけだということが分かっているのでしょうか?健司様の尋ねてくることは無いのですが……………………」


「こればかりは奴が帰ってくるのを待つしかないのぉ。

 まったく、あやつはどこで何をしとるのじゃ。さっさと帰ってこんか」


 不機嫌な様子を全く隠そうともせずに吐き捨てるようにそう言うと、桜歌は思案するように顎にてを添えて天井を扇いだ。


「戻ってきたら縛り付けてでも暫くはここに居させるべきじゃろうな。桜姫を張り付けておけばあの娘の機嫌も良くなるじゃろ」


「そうですね。

 そう言えば話しが変わるのですが、もうすぐ女性用の小屋が完成するそうですよ」


 表情を一転、嬉しそうに胸元で手を組ながらバルダダから聞いたという情報を教えられ、桜歌もおぉ、嬉しそうに声を上げた。


「屋根に衝立だけの寝床というのも我慢こそ出きれど不安じゃったのだが、これで安心できるのぉ」


「そうですね、寝込みを襲ってくるようなことはないだろうと信用はしていますが、やはりちゃんとしたしきりが無い状態というのは身構えてしまって……………………」


「そうじゃな、お主ならなおさらじゃろうな」


 桜歌の言葉に首をかしげるが彼女の視線が自分の胸に向けられていることに気づいたアリアーネは、顔を真っ赤にして腕で抱き抱えるようにして胸を隠すが、その暴力的なまでの母性の塊がその程度で隠せる筈がなく、逆に押し上げられ形を変えながら強調させる結果となり、己の草原と見比べた桜歌の刺すような視線を向けられることとなる。


「ちょっ、どこを見ているのですか!?お止めください桜歌様」


「いったい何を食べたらそんな風に育つのじゃ。理不尽じゃ」


「きゃぁーーーっ!?」


 囲炉裏を挟んで座っていた桜歌が素早くアリアーネの横へと移動し、その溢れる果実を憎たらしいとしかし優しくむんずと掴み悲鳴が上がった。


「少しは儂に分けてもらっても罸は当たらんと思うのじゃが?」


「こ、このようなもの大きくても良いことは無いですよ!重いし肩凝るし男性の方の視線を集めるし、分けられるのであれば私の方から配りたいほどです!」


 自分の草原と見比べて冗談半分いじけ半分といった様子でアリアーネの母性を掴む桜歌だったが、それに対する悲鳴混じりでありながら持つ者の発言をする彼女に一瞬だが額に本気の青筋が浮かぶ。


「ほぉ~、やはり持つ者の言葉は違うのぉ」


 必死に上半身を捻って逃げようとするアリアーネと巧みにそれを追いかけて果実を揉桜歌。アリアーネ必死に逃げるがそこは戦闘の経験者と非経験者、逃げようとすれども追い付かれ追い込まれされるがままに恵みを揉まれ続けることとなる。


「や、やめ、止めてください~~~っ」


「お主らはいったい何をしとるんじゃ?」


 がそこに入り口の方から呆れたような声が投げ掛けられる。二人の動きが同時にピタリと止まり、まるでそう仕組まれた機械仕掛けの人形のように同じ動きで小屋の入り口へと視線が向けられた。

 そこにいたのは現在この拠点でもっとも人数の多い種族であるダークエルフの纏め役である姫巫女ディアラその背後に控えて呆れつつも頭が痛いとばかりに額を押さえるキーラの姿があった。


 この時桜歌とアリアーネの表情はまるで対照的だった。いきなりの乱入者に少々人様に言えないような行為をしているところを見られてわ図かにか顔青冷めさせる桜歌と、羞恥に顔を真っ赤に染めながらも助けが来たと安堵に表情を綻ばせる涙目のアリアーネ。


 だがそこでそれぞの視線が交錯してしまった。


 たわわに実った果実に手を伸ばす桜歌とその持ち主であるアリアーネ。二人の視線が向けられたのはこの拠点においてアリアーネに次ぐ二つの恵み持つキーラと、桜歌ほどではないにしろアリアーネやキーラと比べるべくもない小さな二つの丘の持ち主であるディアラ。


 ディアラとキーラは二人の恥態に呆れたような表情をするものの、内ディアラ表情は直ぐ様怒り笑いとも言えるような物へと変化し、桜歌と視線を交わして大きく頷いた。


「ディアラ様、アリアーネなんじゃが分けられるくらいなら自分から配りたいほどらしい」


「ほぉ、それは聞き捨てならぬの」


 共通の想いのもと通じ会う二人に、アリアーネは一瞬前の自分の発言を悔やむ。一縷の望みを込めてキーラに視線を向けると、目が合った彼女は深い溜め息を吐いて己に主の後頭部を平手でひっぱたいた。


「何をバカなことを言ってるのですか」


「あたっ、何をするキーラ!毎度毎度人の頭をひっぱたきおって、バカになったらどうするつもりだ!」


「これ以上お馬鹿になる余地はないから問題ないでしょう。桜歌殿もアリアーネ殿で遊ぶのは止めて上げてください。彼女が何を言ってそうなったのかは予想はつきますが、そんなことをしても"お二人"の胸が大きくなる訳じゃないですから」


 桜歌と主の二人に視線を向けながら断言するキーラ。その言葉を向けられた二人は思いの外ダメージ受けたらしく、キーラの呟くように言った「アリアーネ殿の胸は大きくなるかもしれませんが」という台詞にグフッ、わざとらしい悲鳴を上げて突っ伏した。


「全くこの二人は……………………」


 あきれてものが言えないと頭痛がするかのように額を押さえるキーラ。そんな彼女が頭を振る度に質素な服の下では二つの果実が揺さぶられており、それが目に入ったディアラの額に青筋が浮かぶ。


「この、牛乳女め……………………」


 ぼそりと、しかし確実に相手の耳に届くように呟かれた言葉にキーラの動きが止まる。


「ディアラ姫様、今なんと?」


「さて、なんのことかの」


 一触即発の気配で睨みあう主従。その気配に当てられ自然と身を寄せあうような形で動き止める桜歌とアリアーネ。


 主従の間に火花が散っているような光景を幻視したくなるような空気の中で、誰か、桜歌とアリアーネのどちらかの唾を飲み込む音が響く。


「「!?」」


 二人が何かを言おうと口を開いた直後、小屋の外で大きな魔力の動きが生まれアリアーネ以外の視線が魔力の動きがある方向、小屋の前に描かれた魔法陣のある方向へと向けられた。


「ふむ、健司殿が帰ってきたようだな」


「本当ですか?」


 ディアラの確信満ちた言葉にアリアーネの声が弾む。


「魔法陣の方に魔力の流れが生まれておる。間違いなく健司じゃろうな」


「まったく、ようやくの帰還か」


 四者四様の反応だった。入り口付近にいたキーラが小屋の外へと視線を向けて、ようやく解放されたアリアーネがそそくさ立ち上がり逃げるように入り口へと向かう。


「これでようやくこの首輪ともおさらばできるといいんだがな」


 どう思う?と視線を向けられた桜歌は肩を竦めて立ち上がった。


「なんだかんだと今まで言ったことは違えておらん。今まで戻ってこなかったのもどうせ自分に任せろといった手前、成果も上げられずに戻ってくるのを嫌ったからじゃろう」


「戻ってきたからにはそれなりに成果はあったということか」


「そう思っていいじゃろうな、おそらくはじゃが」


「健司様!?」


 外から聞こえてくるアリアーネの悲鳴。すわ健司が戻って早々にアリアーネに不埒な行いをしたのかと、彼女の乱れた服装を思いだしてそんな失礼なことを想像する桜歌とディアラ。ここで健司が傷ついていたりしての悲鳴と思わぬのは、二人が彼の強さを認めているからか、それともそういう人だと思われているからか。それまたその両方か判断は付かなかった。


「かふっ!?」


 直後聞こえてきたのは肺に中から無理矢理空気を吐き出させられたかのような悲鳴と重たい物のぶつかる音。そして、壁を突き破り腹部に飛び付いて来たのだろう桜姫を張り付けた半裸の健司が小屋の中へと飛び込んできた。


「……………………こいつはいったい何をして来たんじゃろうな?」


「さて、藁には皆目見当がつかんなぁ」


 後頭部を強かに打ち付け悶絶する彼を前に桜歌は額に青筋を浮かべ、ディアラは呆れたように呟くのだった。





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