蹂躙劇
クエンタ冒険者ギルドを出た健司は金髪のイケメン(お山の大将)達に連れられて路地裏を歩いていた。
彼にとっては正直さっさと終わらせたいところではあったが、彼らを片付けたとしても今日は既に複数箇所を転移で巡った後、休めば後一回ぐらいは転移可能だろうが行きだけでその後の転移が出来ない。今日はもう大人しくしている以外にない。そうなると時間はたっぷりあるがやることがない状態なためもう少し付き合ってやってもいいかと軽い気持ちでいた。
一応休んだ後に拠点に戻るという選択肢もあったりするが
、しばらくは戻らぬと格好つけて出てきた手前、なんの収穫もなくちょっと帰ってきましたなどと、格好悪くて出来ない等と考えていたりする。
(それにしても冒険者同士ならなんのおとがめもないんだし、なんであの場からわざわざ移動するんだ?今さら外聞でも気にしてるのかね、あの態度とか見てたら今さらのような気もするけど)
連れていかれた先はクエンタの街の内壁周辺に開けた空間である。今さらながらクエンタは城塞都市であり、城壁内がいっぱいになり町周辺にスラムができるようになり始めた頃に新しい外壁を新たに作ることで大きくなっていった都市である。それゆえ内壁外側周辺はその頃のスラムの名残で建物と建物の間などに死角が出来やすくこの空地もその頃の名残でできてしまったものだろう。
この空地は彼らの溜まり場にでもなっているのか周囲にはいくらかごみが散らばっており、さらにはそれに混じって血の痕と思われる染みまで存在する。溜まり場であり健司のような相手を連れ込む場所としても使われているということなのだろう。
冷静に分析しながら自身をここに連れてきた男達を見回すが、健司の見立てではここに先日襲撃した馬車の護衛やあの騎士達ほど強いものはいないようだった。そうなれば健司が彼らに遅れを取ることはない。自分に振り返りながら怒りと嗜虐に満ちた目を向けてくるお山の大将を眺めながら、健司は背後に向けて小さな火の粉を放った。
辺りの空気に動きに翻弄されながら宙を舞うその火の粉は、これから起こるだろうと思っていることに期待したあ笑みを浮かべながら鉄の棒を振り上げていた男の胸元に触れた。
直後巻き起こるのは離れていても肌が火傷しそうになるほどの熱気を放つ炎の柱。健司に襲いかかろうとしていた男は瞬く間にその天を突かんと巻き上がる炎の柱に呑み込まれ、巻き上がるときと同様に唐突に炎の柱が消え去れば、そこには僅かな灰すらも残さずにその男はこの地上から永遠に姿を消すこととなった。
何が起きたのか全く理解できずにお山の大将達は直前に浮かべていた表情のまま固まっていた。表情はそのままに眼が飛び出さんばかりに目を見開かれたその姿に思わず吹き出す健司。まさか元の世界で漫画にでも出てきそうな醜態を晒す姿は、まさかこんなところで見られると思ってもおらず、完全に不意打ちだった。
「っ、んだょ、なんなんだよ今のは……………………」
絞り出すように呟かれたのはいったい誰の言葉か。健司にとってはどうでもいいが相手にとってはその場にいる全員の心中を代弁する言葉だったことだろう。
だが健司にはそれに答える気など毛頭無い。逃げられては面倒だと出入り口になる場所に視線を巡らせると、その場所に即座に氷の壁を作り出し、空地は圧倒的強者の手による処刑場へと変貌した。
「どうせこの後は休むだけだし、派手にやろうか」
宣言して放たれる風刃が取り巻きの一人を真っ二つにする。途端に悲鳴が上がるが健司からしてみればなんとも見苦しいだけである。この場所に残る血痕を見れば今までこの場所で何が起きたのかは簡単に想像することができる。お山の大将の取り巻きならばそういうときは加害者の側に混じっていたことは想像に固くない。ならば此度のことはついに本人が被害者の側に回された、ただそれだけことだ。
「次はこれいってみるか」
パニックに陥る一人に指先を向けて、そっと上へと指を向ける。動作にしてみればたったのこと。だがそれによって巻き起こされる現象はけしてそれだけと言い切れるものではなかった。数本の岩でできた針が地面から飛び出してきたのだ。
「おぐぅおっ!?」
股関節から東部に至るまでを貫かれてその男は絶命する。
飛び出してきた針が傷つけた相手はその男だけではなく、周囲にいた他の男にも針は襲いかかり数人の怪我人が現れる
「な、なにやってるんだ!?さっさとそいつを片付けろ!!」
及び腰になって取り巻き連中に声を張り上げるお山の大将。その声に取り巻き達は我を取り戻して武器を構えるが、誰も今起こったことに恐怖を感じているようだった。
「それも当然のことかもな」
「うぁぁぁぁぁあああああああああああつ」
やけくそになって武器を振りかぶり突撃してくる男を皮切りに、恐怖を払拭せんと次々と取り巻き達が動き出す。だがその程度は健司にとっては脅威でもなんでもない。
手の中に水を産み出し、手酌で水巻きでもするかのように振り撒かれたその水は幾つもの水弾と、散弾となって複数の男を蜂の巣へと変えてしまう。
「残り10人で何秒もつかな?」
男たちにとってその言葉は死刑宣告にも等しく聞こえ、目の前の男を倒す以外に生き延びる術が無いことを悟らせるが、つい先ほどまでは哀れな獲物でしかなかったはずの男がドラゴンか何かのように感じさせていた。
男達が全滅するまでに10秒もかからなかった。
健司が再びギルドの扉を潜ったのは、ここを出てから10分ほど経った頃だった。先ほど訪れた時と同じように視線を抜けられるが、そこに込められた意味はまるで違う。先ほどは探るような目で見られていたのに対し今度のそれはどれも驚きにまみれ、誰もが言葉を失っているようだった。誰もが彼の死を予想していたのだろうことを考えればその驚きも当然のことだっただろう。傷一つ血の痕一つ無く現れた健司のことを誰もが信じられないとばかりに凝視するのだった。
そんな視線に晒された当の本人はやはりそれを気にした風もなく受付の前までいくと、背負っていた袋をカウンターの上に置いた。
「この街に来る前に狩ってきた魔物だ。換金頼む」
「あ、あぁ」
夢幻でも見ているかのような様子のエレティックは、呆然としたまま目の前の袋に視線を落とすだけでそれに手を伸ばそうとはしない。まだまだ目の前の現実を頭が理解できないといった様子だ。
「査定にはどれくらいかかる」
「う、あ、さてい?
あ、査定か。あ、あぁ少し時間がかかるが明確にどれくらいかかるかは分からん」
健司に問われてようやく我に返ったエレティックは、改めて目の前の袋に目を向けた。クエンタの町周辺に出没する魔物に種類とその討伐部位を脳裏に浮かべて目の前の袋の大きさを比較しつつそう答える。
その答えを聞いた健司はどうするか思案したあと、適当に時間を潰そうと頷いて改めて査定を頼んで受付に背を向けた。
「お、おい、バンク達は……………………」
「ばんく?」
去ろうとする健司に背にエレティックの疑問が投げ掛けられる。それはこのギルドにいる全員の共通した疑問だろう。周囲から向けられる視線が今度は彼の答えをものへと変化する。そこで一ついたずらを思い付いた健司は、その答えを口にする前にニヤリと笑って抑え隠していた気配を少しだけ解放した。
「っ!?」
「なっ……………………!?」
「ひっ!?」
三者三様の反応。健司が一瞬だけ解放した気配に当てられて一部の人間が腰を抜かし、それに耐えられた者は思わず自分の獲物の柄に手を伸ばしていた。
「あいつらなら旅だったよ。もう帰ってくることはないだろうさ」
再び気配を隠し笑みを浮かべた健司の答えは、彼らがどうなったのか嫌でも理解させていた。
もう質問は無いなと問いかけられ表情を青冷めさせながら頷くエレティック。そんな彼に改めて背を向けた健司がギルドを後にすると、そこかしこで人が崩れ落ちる音が量産される。
「化け物……………………」
それはいったい誰の言葉だったのだろうか……………………。言葉はむなしく宙へと消えていった。
ギルドを後にした健司は適当に時間を潰して三度ギルドを訪れて持ち込んだ素材の代金を受け取った。
実は素材の買い取りは冒険者にならなくとも行うことができる。しかしその場合は査定額から手数料が引かれ、冒険者ではその手数料がかからないため健司は冒険者ギルドに登録することを決めた。
売った素材は結構な価格で売れたため健司に懐は一気に暖かくなった。後は武器屋で適当な剣を見繕って宿屋で休むだけだ。しかし時刻はまだ夕暮れまでもそれなりに間のある時間だ。武器屋では時間をかけるつもりは無いので今から向かっても時間が相当余る。
(さて、どうやって時間を潰したもんかね)
町の中をぶらぶらしていると、人間の街では珍しい物が目に入った。それは狐の耳と尾を持った幼い少女だった。
(狐の獣人、妖狐族だっけ。桜歌と同じ南の方に住む種族だったはずだけど)
少女の首にはあの忌々しい首輪は無く、嬉しそうに焼菓子らしきものを食べながら歩く姿はけして奴隷には見えない。
(この街に住んでるのか、それとも旅人か。少なくとも仲間なり家族なりと一緒なんだろうな)
焼菓子にかぶりつく子供らしい姿に自然と笑みを浮かべ、健司は彼女が奴隷でもなんでもないのならここで何をする理由もないかと、とりあえず用事である武器屋に向かおうと視線を外す。いつまでも幼い少女に視線を向けてニヤついていたらただの変質者でしかない。
(今のことは桜歌達に内緒にしておこう。桜歌に知られれば幼い子に欲情する変態扱いされかねないな。まぁまるっきり外れてるわけでもないけど)
「きゃぁっ!」
「何しやがんだ、ガキぃ!」
苦笑して武器屋を探そうと辺りを見回したところで背後から悲鳴と怒鳴り声が聞こえ、健司は嫌な予感を覚えつつ振り返った。そこにいたのは今視線を外したばかりの少女と、がらのわるい、冒険者風の男達だった。
「あ、おやつ……………………」
スキンヘッドの男に怒鳴り付けられながらも、地面に落としてしまった焼菓子に視線が釘付けになっており、それに手を伸ばそうとしたところでスキンヘッドの男がそれを踏み潰した。
「あ……………………」
その行為に少女の瞳に涙が滲む。
「くそ、獣人のガキが人間様の街で好き勝手しやがって……………………、てめぇのせいで服が汚れたじゃねぇか!」
そう言ってスキンヘッドの男が指差すのは、彼の腿の辺り。どうやら少女食べていた焼菓子の中にはクリームが入っていたらしく、そこにはベットリとクリームが付着していた。
「あぁあ、それたしか結構いいとこのだよね。クリーニングだけでどれだけかかるのかね?」
スキンヘッドの男の後ろで見る者を不愉快にさせるような笑みを浮かべた男が馬鹿げたことを言い始める。何せスキンヘッドの男が穿いているズボンはそれこそ元はその言葉の通りなのかも知れないが、今までずっと穿きつづけてきたのだろう、所々が解れたうえに最後に洗濯したのが何時なのかすら分からないほど汚れている。
(ふざけた"いいわけ"だ)
人間の街における亜人の扱いは酷い。とくに逆神を強く信仰する場所ほどそれは顕著であるが、クエンタのように亜人種に対する差別を法で抑制された街でもけして良いとは言えない。流石に問答無用で害したりすれば法の裁きを受けることとなるが、健司の目の前で冒険者達に戯れ言にも等しい理由をつけられてしまえば……………………。
「このガキにそんな金があるように見えないけどな」
「けど結構器量は良さそうだし売れば金になりそうだ。それで責任とってもらうとしようぜ」
白昼堂々と拐おうとしても許されてしまうほどだった。
男の手が少女へと伸び、その手に恐怖を覚えた彼女はその身を強張らせる。
少女が男他とに捕まれば逃げ出すことはほぼ不可能だろう。そして男達が口にした通りその扱いがどうなるかは誰の目から見ても明らかだ。
怯え硬直する少女に嗜虐心を募らせる男の手が彼女を捕らえる直前に、健司は横からその腕を掴んだ。
「あ?」
「歯、食い縛りな」
自分に腕を掴む手に間の抜けた声を上げる男に健司の苛つき混じりの言葉が向けられる。驚きと共に自分を見上げる男の顔面に、健司は遠慮無く、ただし死なない程度の加減をしつつ拳を振り抜いた。
「ぶぅぉいっ!?」
「んなぁっ」
顔面をぶん殴られ吹き飛んだ男がその背後にいた仲間と激突し仲良く転倒するのを見届けながら、健司は少女を庇って男達との間に立つ。最初は突然の出来事に理解が追い付かなかったのか唖然としている男達だったが、顔面をぶん殴られ何本もの歯が折れて散乱させてしまっている男の呻き声にようやく我に返って身構えた。
「たく、この街にはろくでなししかいないのかよ」
呟きながら男達を睨み付け視線に殺気を乗せる。ギルドで抑えていた気配を解放したときほどではないが、それでもこの程度の男達を脅すには十分な殺気のはずだ。
「な、なんなだお前は!?」
健司の殺気に当てられて誰何の声を震わせるスキンヘッドの男。健司は仲間が殺気受けて腰を抜かさんばかりの状態になっているなかで声をあげられることに軽く感心するが、その男もまた膝は震え腰が引けていることを理解してただ一歩前に進み出る。
健司はただ前に進み出ただけだがそれだけで男達は二歩も後退り、その様子に嘲笑を浮かべる。
「失せろ」
一言、口から出たのはただその一言だった。無駄な装飾もないその一言は男達にとってこれ以上ない重圧を与えたことだろう。殺気を似せた言葉を後押しするように右手に魔力を集中させる。
お山の大将達との戦い(一方的な蹂躙)で結構な量の魔力を消費しているが、それでも健司の魔力は一般的な魔術師の三倍近い魔力を残している。まぁそれだけの魔力を残しながらも検索型転移魔法の発動には足りないと言うのだからあの魔法も大概おかしな代物だと言うことがわかる。
され、そんな彼の残りの魔力の半分をも一ヶ所に集中させればその密度は相当な物となる。それこそ戦いに身を置いている者ならば魔力を察知する能力に疎くても顔色を変えてしまう程には高い魔力密度だろう。これを魔法に変換されて放たれれば男達は骨はおろか塵一つ残さずに消し飛ばされる未来しか思い浮かべることができなかった。
(とはいえこんな少女にそんなスプラッタな光景を見せるわけにもいかないんだけどな)
などと内心では考えていたのだが、その魔力を感じたスキンヘッドの表情がみるみるうちに青冷めてゆき……………………、さらに一歩後退りその背後にいた仲間と接触する。
「ひぃぃぃいぃいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
それをなにと勘違いしたのか悲鳴を上げてスキンヘッドが逃げ出した。
「ま、待ってくれぇ!」
「置いていくなぁ!」
そのスキンヘッドを追いかけ逃げ出していく仲間達。後に残されたのは少女と健司、そして健司殴られて気を失ってしまった男だけ。遠巻きに事態を見守っていた(ただの野次馬)を掻き分け逃げていく男達を見送って、ようやく健司は幼い少女と向き直った。
「大丈夫か、怪我はない?」
気配をけしてなるべく優しく見えるように微笑みながら手を差し出す健司に、少女は顔を赤らめてコクりと頷いた。




