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クエンタ冒険者ギルド

 黒いシャツに黒いズボン黒いブーツというラフな黒ずくめの格好をした健司はどことも知れぬ沼地にて食料の入った袋を背負ったまま肩を落とした。


「いや、たしかに条件はあってるかもしれないけどなぁ」


 奴隷の首輪を破壊するための方法を得るために検索型転移魔法で転移して訪れたこの場所で、検索に引っ掛かった敵と相対した訳なのだが……………………。


 拾い上げた石を敵に向けて放つ。ひゅっ、と宙を駆けた石はなんの抵抗も無く敵の体内へと呑み込まれて、ジュッと音を立てて溶け尽くされた。


「たしかに条件はあってるけど微妙に違うんだよな」


 再びため息と共に呟き、その微妙に条件とは違う敵が周囲の沼の中や岩影から彼を取り囲むように姿を現したことに諦めたように空を見上げた。


「道具破壊は道具破壊でもこういう食事とか生理現象的な装具破壊はお呼びじゃないんだよ」


 言って視線を戻しながら敵を睨みつけた彼の手の中に真っ赤な炎が産み出される。手の中に生まれた炎はまるで一対の翼にように燃え上がりながら、その色を赤から白へと変えてゆき、健司がそれを頭上へと掲げると同時に大きく羽ばたいた。


「悪いがお前達に用はない。が、俺に襲いかかろうっていうんなら、魔法の練習の的にしてやるよ。

 炎舞・白炎鳳凰」


 その魔法の名を告げると同時に掲げた炎が放たれる。放たれた炎は炎の翼と化して宙で大きく羽ばたき、天高くへとその姿を白炎の猛禽へと変えて飛び上がって行く。


「降り注げ」


 命を下すと共に頭上に掲げていた腕を降り下ろし二本に揃えた指を敵へと突きつける。すると炎の猛禽が飛び上がっていった空から無数の炎の鳥が急降下してきて彼の周囲に降り注いだ。彼を取り囲もうとしていた敵、透き通ったゼリーのような身体を持つ敵、スライムへと。


 幾度も繰り返し巻き起こる爆音と衝撃が周囲を埋め尽くした。四方八方から届く衝撃に短い髪を揺らしながら健司は小さくため息を吐いた。


「いきなり目当てのものが引けるとは思ってなかったけど、まぁいい、次だ次」


 爆音が収まり周囲を見回せば大量のスライムの生息していた沼地は完全に干上がり、大量にできたクレーターの中へと元々沼地へと水が流れ込んでいた川から少しずつ改めて水が流れ込んできていた。


「元のままに、とまではいかなくとも、その内また沼地になるだろ」


 問題なし、と判断した健司は再度検索型転移魔法を発動してその場を後にした。


 因みに彼の放った魔法、天から降り注ぐ炎の鳥が離れた場所から人に見られており、すわ天変地異の前兆かと騒ぎになったりしていたがそれは健司の知るところではなかった。

















 健司が森を出発して4日が経過した。その間森では特に変わったこともなく平和な時が流れていた。


「おいしい」


 焼き魚を口にした桜姫が目を見開いて呟くと、彼女は甲斐甲斐しく世話を焼くリザードマンの女性にボイズの実を搾ってもらい、その汁を魚にかけて嬉しそうにかじりついた。


 彼女の世話を焼くリザードマンの女性、見た目は直立した蜥蜴である男性のリザードマンと違い女性は人間のそれに近い。額や四肢背中などは鱗に覆われているが髪も生えているし顔形も人間のそれだ。ただ尾てい骨の辺りから長い尻尾が映えており瞳は縦に長い蛇の物となっている。


 さて、そんなリザードマンの女性がなぜ桜姫のことを甲斐甲斐しく世話をしているかというと、リザードマンにとってドラゴニュートという種族はそれぞれの祖たる神が上下関係にあり、それを踏襲していているからだと言われているからだ。実際のところこの二種族の祖たる神は非常に古い神であり、逆神の台頭よりも前に滅んでおりその詳細は不明なのだが、リザードマンがドラゴニュート崇拝にも近い接し方をしていることに違いはない。


 現在拠点には男女合わせて10人のリザードマンがいるが、彼女は他のリザードマンとの争いを制して桜姫の世話役を勝ち取った一人だった。


「桜姫様、どうぞこちらも」


 そう言って差し出されるのは食糧の収集班が見つけてきた鳥の卵を茹でたものだ。綺麗に殻の剥かれた卵を差し出しながらボイズの実を絞っていたリザードマンの女性と静かに火花を散らす女性。彼女達の名前はボイズの実を絞っていた方がグイナ・グェナ、卵の殻を剥いていた方がレェッセ・コルツェという。


 静かに火花を散らす二人に気づきもせずに、桜姫は嬉しそうに静かに尻尾を揺らしながら差し出された茹で卵を受け取り、カプリ、とかぶり付き、口の中に広がる味に目を輝かした。


「これもおいしい」


 その言葉を聞いたレェッセが勝ち誇ったようにグイナを見ればグイナも負けじと焼き魚にボイズの絞り汁を足らして桜姫へと薦める。


 そんな食事の風景をアリアーナは困ったように苦笑しながら見守っていた。


「ん~、大丈夫でしょうか、あれは……………………」


 互いに互いを牽制しあいながらも足を引っ張るようなことはせず、しかし静かに火花を散らして甲斐甲斐しく世話を焼く二人の姿にやれやれと頬をおさえる。リザードマンとドラゴニュートの関係については知識として知っていたため、桜姫の世話をしたいと言われたときは自分の任されている仕事のこともあったためにありがたくその申し出を受けたのだが、それは少々不味かったかもしれないと思うアリアーナ。今は静かに火花を散らすだけですんでいるが、これがもしエスカレートするようなら……………………。


「健司様からお預かりしたのは私ですもの、しっかりと見守っていなければいけませんね」


 二人の世話のお陰で健司がいないことで表情のくもりがちだった桜姫も幾分元気を取り戻しているのだ。しばらくは注意しながら見守るべきであろうと食事を再開するアリアーナ。


「……………………ぱぱ、まだかえってこないの?」


 そんな中で聞こえてくる桜姫の寂しそうな言葉に慌てふためく二人、同じくその言葉を聞いたアリアーナもまた、今どこにいるとも知れぬ健司を思い、桜姫のためにも早く帰ってきてほしいと思うのだった。











 そのころ健司はというと、大陸西部にあるレセーレラ王国の商業都市クエンタの冒険者ギルドに来ていた。


 冒険者ギルドと言うのはその名の通り冒険者という職業の者達の組合であり、街の住人や商人、貴族時には国からの依頼を冒険者へと斡旋したり、冒険者が討伐した魔物の素材や薬草などの買い取り行いつつその管理を行う組織であり、その規模は下手な国家組織それを上回るこの世界最大の巨大組織だ。ただそれだけ巨大な組織であるがために一枚岩という訳ではなく、各都市、町の支部ごとにその気質が大きく違うことも珍しくはない。国や町と繋がりが強かったり、対立していたりと様々である。


 何故そんなところにいるかというと、資金の調達のためである。拠点を出て4日、出るときに持ち出した食料は尽きており、探していたものがものなだけに持ってきた剣も壊れてしまっている。健司曰く刀じゃなくて良かったと言うことだが、そんな剣とて拠点では貴重品である。そう何本も持ち出す訳にもいかないだろう。そうなると食料や武器を他で調達する必要が出てくるのだが、調達するにも資金がない。資金がなければ稼ぐしかないと言うわけで、拠点で元々冒険者だったと言う者から冒険者について聞いていたためにここにやって来たのだ。



「はぁ、溶岩地帯に住んでる訳だし嫌な予感はしてたんだよ。けどさ、道具破壊の仕方が攻撃を受けて傷口から超高温の体液を噴出することだなんて普通予想つかないっての」


 刀身の半ばで溶けて無くなってしまった剣をその場で捨ててきた健司は、宣告戦った敵についての愚痴を溢しながら手ぶらでギルド扉を潜った。


 溜め息を吐きながらギルドの中へと入ってきた健司に周囲から多くの視線が集中する。この町に初めて来た健司は彼らにとって見覚えのない人間だ。それゆえに彼が彼らにとって何者なのか見極めようとしているのだろう。別の町から来た同業か、依頼を持ち込みに来た者か、はたまたこれから冒険者になろうと考えている者か。

 現在健司は荷物の入った袋を担いだだけでその他に装備らしい物は一切身に付けていない。剣はおろかナイフや鎧の類いも無いのだ。着ているものも黒いシャツに黒いズボン、黒いブーツと黒一色、黒が好きなのだろうなと思う人もいるかもしれないが、冒険者にとっては普通の服を着たただの一般人でしかないだろう、まさか同業のはずがない、と言うのが彼らの共通の認識だった。

 ならば依頼を持ち込みに着たのだろうと予想した彼らじゃ受付に向かう健司に意識を集中させ、健司と受付の会話を聞き取ろうとする。割りのいい仕事ならば是非とも受けたいとアンテナを張っているのだ。


 自分に向けられている視線を気にすることなく受付に向かった健司は、開口一番こう言った。


「冒険者登録したい」


 ギルドのロビーにざわめきが走った。











・eretic


 エレティック・シュタル、それが俺の名だ。人間とオリクト族のハーフだ。オリクト族と言うのは身体の表面や髪などが金属のように硬化させることのできる種族で、過去にはその性質から人間達から魔物と扱われていあ過去があり、今でもそのような扱いをする連中が少なからず残っている。

 自分がオリクト族とのハーフであることは親しいって友人にも秘密にしている。オリクト族のこともそうだが、混血と聞くとそれだけで嫌悪持つ者も少なくないからだ。そういう奴は人間限らずどの種族にも少なからずいると言われている。


 混血の俺は見た目は人間そのものだが、純血のオリクト族と同じように体表を硬化することができるが、硬化時間はさほど長く続かない。昔は冒険者として活動していたがこの短い硬化のお陰で生き延びれた。


 まぁ、冒険者として活動してたのも、もう10年も前の話なんだがな。今では引退してクエンタ冒険者ギルドの受付だ。現役時はAランクなんて少々不相応な地位まで登り詰めることができちまったせいか、ただの受付であっても慕ってくれる奴や頼りにしてくれる奴が多く、この仕事も大分やりがいがある。まぁ中には合わない奴ってのもいるわけだがな。


 そういえば冒険者として活動していたからか身に付いたことがあった。身に付いた、というより気づけるようになったと言うべきか?それはなんと言うべきか気配?ん、口で言い表そうとすると上手く言葉にできないのだが、それは何となく直感的に感じ取れるものなのだが、この業界で活躍している奴ってのはこう、直感的に察することができる。こいつは強い、とか何かを持ってるなというような感じでだ。そういうのを感じ取れる奴って言うのは大抵高い実力を持っていたり、相当な幸運に恵まれていたりする奴だ。それらを持っている奴は大体が冒険者として成功している奴だ。ドラゴンのような、いや流石にドラゴンは早々ないがそれに準じるような高位の魔物を討伐していたり、未発掘の遺跡を見つけて大量財宝を見つけ出していたりだ。

 他にも新人でもこれを強く感じる場合、そいつは新人らしからぬ実力を備えていたり、相当な才能を秘めている場合だ。こういう連中も気付けば頭角表すようになり、気付けば大成しているもんだ。

 これについて誰かに話したことはないが、俺にとってこの感覚はギルドを訪れる奴らの未来を占う大切な規準になってきている。あまりにもなんにも感じない場合そいつのために冒険者になることを諦めさせようと説得する場合もある。俺がここでは元高位冒険者かつベテランギルド員だからか、俺の説得に応じる奴結構いるが聞く耳を持たない奴も多い。出来る限りやっていけるように協力はしているが、そういう奴は大体低位の冒険者として燻るか、二度と戻ってくることのできない旅路についてしまっている。


 自分の世話した奴が帰らぬ人となることは悲しいことだが、こっちにもできることには限りがある。それを半ば無視する形で冒険者になった以上、こちらが責任を取ったりする理由もない。第一冒険者と言うのは何をするにも自己責任だしな。


 さて、その直感でもって冒険者や新入りを観るのが半ば趣味になってきている訳なのだが、俺はその日、悪夢ような奴に出会った。






 冒険者ギルドの扉には人が入ってきたことが分かるようにベルが取り付けられており、今日も元気にそのベルが誰かの来訪を告げてギルド内にそこ音を響かせた。冒険者の中には煩いと不満を漏らす者もいるが、防犯など諸々の理由からこれが外されたことはない。


 ギルド内にベルの音が響けば当然のように視線がそこに集中する。それが冒険に出ていた同業の帰還か、別の町から移ってきた新顔かもしれないし依頼の持ち込みかもしれなければギルドに登録しに来たルーキーかもしれない。どんな相手であれ確認しその情報を得ておくことは冒険者として当然のことだ。

 だが若い連中てのはそこのところがわかっていない奴が多い。こういうときに簡単に手に入る情報を無視して失敗したり儲けを不意にする奴ってのは後を絶たない。そういう奴は手痛い勉強になったと思ってもらう他無いだろう。


 さて、そんなギルドに新しく入ってきた情報の正体は、黒いシャツに黒いズボン、黒いブーツと全身黒ずくめ、武器は持たずに大きな袋を担いだ若い男だった。顔立ちは少年と青年と間くらいだろうか?近隣では見ない鼻の低い潰れたような顔黒い髪を短くまとめ、こちらに向けられる瞳の色は黒。なんとも珍しい奴だ。身長もそこまで高くはなく低いわけでもない。手足はそこらの一般人と比べれば多少太い気もしなくはないが、まぁ農民とかならあり得なくもない体格か。

 俺のお得意の感覚で見れば……………………、特になにも感じない、もし冒険者になればそう遠くない未来にはそこらで燻ってる連中の仲間入りをしていることだろう。まぁ武器らしい武器も持たないどころか防具の類いも身に付けていないのだ、冒険者でも冒険者になろうというルーキーでもないだろう。なら依頼を持ち込みにきた一般人か。


 周囲でその青年に視線を向けていた連中もそう判断したらしく向けられている視線の質が変化するのを感じる。


「ようこそクエンタ冒険者ギルドへ。今回はどのようなご用件で?」


 まぁ答はほぼ決まっているようなものだが、これも規則だしな。そう思っての台詞だったのだが、返ってきた答は想像していたのもにとは大分かけ離れていた。


「冒険者登録したい」


 一瞬自分の表情が強ばるのを抑えることができなかった。それも直ぐに元に戻したため気付かれてはいないだろうが。

 はぁしかし、依頼の持ち込みだと思っていたら、まさかこの成りで冒険者になろうっていう無謀な輩か。


 冒険者登録したいという青年改めて注視するがやはりなにも感じない。力や魔力、運と言ったものから、最近区別のついてきた資質的なものまで含めて特に気を引くものを感じることはできなかった。冒険者になるのは個々の自由ではあるが、好んで死ぬ可能性に高い奴を登録させたりする訳じゃない。なんと説得して最悪な未来は回避しなければ、俺の寝覚めが悪すぎる。


「あぁ、俺は大成した奴からそうでない奴まで多くの冒険者を見てきたが、それなりにやっている奴ってのは相応のものを持ってる。悪いがお前さんからそれを感じることはできん、悪いことは言わんから冒険者になるのは諦めとけ」


 こういうときに俺は遠回しになにかを言ったりせず、直球で突きつける。この時威圧とは違うが視線と言葉にに力を込めると、相手は萎縮してこちらの言葉受け入れやすくなる。まぁ、ある種の脅しに近いのだが、この程度で萎縮してしまう奴に冒険者としての未来がないのは言うべきもないだろう。これを堪えてまだ冒険者になろうと思えるなら、それはそれで最低限の骨があると言うものだ。


「そちらこそ悪いけど、こっちにもこっちなりの事情があるんだ。諦めろと言われて諦めるわけがない。それに人に聞いてるが冒険者になるのに資格もなにもいらない。なる意思さえあれば誰でも冒険者にはなれるんだろう。大成するかどうかは別としてな」


 驚いた。俺の視線を受けながらそれでもなろうとする奴はいくらでもいたが、こうもなんでもないように平然としている奴は初めて見た。ただそれでもなんにも感じないことに違いはないんだが。


「あぁ確かにその通りだ。だがな、お前みたいな奴は大抵ろくなことにならないんだ……………………」


 そこらで屍を晒すにしろ、上手くいかずに腐ってゆくにしろろくな未来でないことに変わりはない。


「それを決めるのはお前じゃなくて俺だ。今言ったよな、こっちにはこっちなりの事情があるんだ。つべこべ言わないで冒険者登録させろ」


 な、生意気な口の聞き方だな。他の受付にならともかく、非常に不本意ながら強面で有名な俺にこうまで生意気な口の聞き方をする奴は初めてだ。


「お前にどんな事情があるかは分からないが、いっぺん自分の身形を見直してみろ。得物も持たず防具もない、そんな成りで何をしようってんだ」


 冒険者が大なり小なり危険と隣り合わせの職業であることはガキでも知っていることだ。だからたとえルーキーとは言え最低限の装備は整えてから登録に来ることが普通だ。それすらもしていない身で何を言っているんだか。金がなくて準備ができないと言うんなら、それこそ準備もなしにできる職業じゃないんだ。登録して以後一度もその姿を見かけない何て可能性も多いにあり得うるのになんで登録何てさせると思っているのだろうか。


「ちっ、武器はついさっき折れたんで捨ててきた。それに俺の目指すところはバ○ンさんなんでな武器がなくても十分にやれるだよ。それに防具だってよっぽどいいものでもない限り邪魔になるだけだ」


 バ○ンって誰だ?訳のわからんことを。

 それに武器が壊れたって、ついさっき?ここ周辺で戦う可能性があるのはゴブリンやウルフと言った低級の亜人や魔物だ。そんなやつらを相手にしたとして武器が壊れるなど早々あるものじゃない。それでも武器が壊れたと言うのなら、それはよっぽど見る目がなくてぼろい武器を使っていたか、整備すらまともに出来ていなかったかのどちらかだ。そんな奴尚更冒険者になんかさせるわけにいかないだろうが。


「おいお前、何を舐めた口聞いてやがるんだ」


 これは説得に力を入れるしかないと判断したところで横槍が入った。それは今ギルド内にいる中でも頭一つ飛び抜けた実力をもつ男だった。実力にしろ資質にしろ高いものを持っているが、そこらのごろつき同然の同業者を率いてお山の大将を気取っているバンク・スィッカーという男だ。


 手入れは欠かさないという黄金のごときブロンドの髪を長く伸ばしたその男は、獲物を見つけたウルフのような目で青年を見ながら近づいてきている。その後ろでは取り巻き連中がニヤニヤとこちらに気分が悪くなるような笑みを浮かべながらついてきており、青年取り囲むように移動していた。


「冒険者ってのは実力もなにもない奴がなるようなものじゃねぇんだ、せっかくおやっさんが止めてくれてるのにそれを無下にするなんざ、失礼にもほどがあるんじゃないのか?」


 心にもないことを……………………。お前たちからは一度だって敬意らしきものも向けられたことはないのだが。

 青年の方も取り囲まれたことに気づいていながら平然とした様子で取り巻きの動きを眺め、目の前に立ったバンクの顔を見るなりため息を吐いた。


「猿山の大将が横からしゃしゃり出てくんな。お山の大将はお山の大将らしくちやほやしてくれる連中と雌猿の尻でも追いかけてろ」


 まるで詰まらなそうに吐き出された言葉に失笑と驚きの声が聞こえてくる。失笑はあまりにも的を得た表現に対するもので、驚きは青年の胆力に対するものだろう。俺としてはその青年の説得に集中したいところなのに、その青年が油壺に火種を放り込むような行いをしたことに頭が痛いのだが。


 そしてそんな暴言を吐かれたバンク達の方は言えば、案の定怒り心頭と言った様子で目元をひくつかせ、バンクに至っては怒りで顔を真っ赤に染めていやがる。


「貴様、誰に向かってそんな口聞いてやがるんだ……………………」


 おいおい、バンクの奴、剣の柄に手を置きやがった。冒険者の言葉には「死に損」何て言葉があるが、これは冒険者は死んだところで家族などになんの保証もなく、例え冒険者同士で刃傷沙汰になったとして、しかもそれで死人が出ても加害者は罪に問われないというものがあるからだ。まぁだからといって簡単に武器を抜いていたら冒険者としての信用を失っていくことになるので、そういう奴は早々いないのだが、青年の言葉はバンクのプライドにこれでもかというぐらい泥を塗る行為になったようだ。


「はぁ、そんなことも言われなくちゃ分からないのか。お前以外にいないだろうが」


 そして平然と燃え盛らせた炎に更なる油を注ぐ青年。バンクは元々沸点の低い奴ではあったが、その言葉は奴の怒りを沸騰させるに十分すぎるものだった。バンクは腰に差していた剣を素早く引き抜き、その切っ先をぴったりと青年の喉元に突きつけて見せた。お山の大将をやってはいてもその実力は本物であるとわかる動きだが、青年はまだ冒険者ギルドに登録もしていない一般人だ。このまま問題を起こせばさすがにおとがめ無しとはいかないのだが分かっているのだろうか?


「おいおやっさん、さっさと冒険者登録してやれよ。こいつ、ふざけた口利きやがったこと後悔させてやる……………………!」


 一応最後の分別ぐらいはあったようだ。だがそのようなことを言われて登録すると思っているのだろうか?


「おっさん、こいつもこう言ってるしさっさと登録してくれ。何度も言ってるけどこっちにも事情があるんだ。あんたが何を言おうが登録を諦める気はない」


 くそ、こっちの気も知らないで……………………!


「あぁくそっ!分かったよ、分かりましたよ!だが冒険者は死に損だ。冒険者同士いさかいが起こってどうなろうと当事者同士の責任だ。冒険者になった時点であらゆる方もお前を守ってくれなくなる、その事は理解してるんだな!?」


 この状況で、本気で冒険者登録すると言うのなら、その胆力だけは認めてやるさ。だがそこから先どうなろうとも自業自得。これ以上俺からしてやれることはない。苛立たしい気持ちを隠しもせずに一枚の鉄製のカードを取り出すと、それを叩きつけるようにしてカウンターに置く。これは冒険者ギルド登録した冒険者であることを証明するためのもので、冒険者としてのランクや依頼の成功や失敗などの記録を記録しておくことのできるマジックアイテムだ。冒険者ギルドの専属魔導師や錬金術師が共同で研究して作り上げた特別な品だ偽造も改竄もできないようあらゆる対策とられている。それらやこれの使い方などを説明しようとしたが、青年は知人に聞いているとそれを拒否。仕方なく登録作業に移った。


 とは言え登録作業もそう時間のかかることではない。カードの端にある穴に専用の針を通して、その針の先端にから少量の血を流させるだけだ。青年は肩を竦めながらその針に指先を指させ、針からカードへと血を流れさせた。


「これで、完了だ。記録の閲覧はそいつにお前の魔力を流せばできる」


 それだけ、最後に説明をしたところでバンクが彼の肩をつかみ、取り巻きが逃げ出せないようにその周囲を取り囲んだ。


「は、馬鹿が。これで貴様に逃げ場はねぇ、こっちに来い!」


「へいへい、それじゃさっさと終わらせるか」


 いくらおとがめがないとは言え、こんなところでことを起こすつもりはなかったらしいバンクたちだったが、連中に青年が振り返った瞬間、あおの青年から最大級の警戒心を呼び起こす何かを感じた。


 いったい何が起きたというのか。その気配はごく一瞬のことだったが、俺は確かにそれをかんじた。


 今のは一体なんだったのだろうか?


 ギルドを去っていく青年に視線を向け、俺は額を流れる嫌な汗を拭うことができなかった。


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