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襲撃

 アルカネデアス王国の南東に位置する国ゴワールド王国最大の商業都市パネンテルは今日も多くの人達で賑わっていた。ゴワールドの各地から訪れた人々とそれを相手に商売を行う多くの店舗。周辺の国からその地の特産品を運んできた馬車が大通りを行き交い、旅人達が次の都市への旅路のために必要なものを求めて店から店へと渡り歩く。


 そんなパネンテルの大通りを珍しげな視線で見回しながら歩いているのは、これまた近隣では見られない黒髪黒目、潰れたようにも見える平坦な顔立ちから注目を浴びる桜磨健司と、その後ろを顔を隠した旅装で追う応天宮桜歌の二人だった。


「これで一応大工道具は揃ったな」


 工具の入った袋を肩に担いだ健司はほくほくとした表情でそれを揺する。鋸に鐫、金槌、木槌、大量の釘。それぞれ複数購入したこれらの工具があればあの大量の木材を使って最低限皆が雨風を防げる小屋を作ることができるはずだ。


「後、アリアーネから頼まれた針と鋏も手に入ったし」


 それは転移魔法で出発する直前のことだった。桜歌を連れて魔法を発動させようとする彼の元に、預けた桜姫の手をひいて彼女が近づいて来たのだ。歩く旅にゆっさゆっさと揺れる二つの母性の暴力目が行く度に桜歌の蹴りに脚を打たれながら、見送りに来てくれたのか礼を述べると、彼女は彼と桜歌の様子に苦笑しながら用件を告げてきたのだ。






「裁縫道具と糸と布?」


 一瞬そんなものをどうするのかと問い返そうとする健司だったが、そんなもの裁縫以外にないと口を閉ざして首をかしげる。彼らは今から家を作るために必要な工具や衣服などすぐに必要な物を購入しに行くのであり、それ以外のものの購入は極力避けたいのが本音であった。


「ん~、お金に限りがあるし、服はすぐに必要だから作るのに時間のかかる物は出来れば後回しにしたいんだけど……………………」


「はい、それは分かっているのですが……………………、例え大きな都市でも手に入るのは人間用の服だけだと思います。ピュルマやエルフの方々のような身体が近しい方はそれでもよろしいかもしりませんが、リザードマンの方やバードマンの方々のように尻尾や翼のある方は人間用の衣服では着用できないと思います」


 そう言って彼女が視線を向けた先ではアリアーネと手を繋ぎ不思議そうに首を傾げる桜姫の姿があった。

 現在彼女は健司のコートを羽織っているのだが、サイズに違いから前を隠すことはできているものの、後ろは翼が邪魔で大きく捲れてしまっているのだ。これをちゃんと着れるようにするにはコートの背切り込みを入れるなど翼を出す穴を用意し仕立て直す必要があるのは間違いなかった。

 次いで周囲を見回せば複数人の襤褸を纏ったリザードマンやバードマンに姿もあり確かにそう言った道具が必要だな、健司は納得する


「私は鋏と糸さえあれば最低限着るものを作ったり仕立て直すことが出来ます。私以外でも何人かそう言った技術を持っている方もいらっしゃいますから」


 彼女の言葉に同意するように離れた場所から見守っていた何人かの女性陣同意するように頷いたのを見て、健司はふと桜歌の方に視線を向ける。


 彼女が着ているのは見事な絵柄の書かれた黒い着物だ。大事に着ていたのだろうが全体的に草臥れており、裾の方などは大分ぼろぼろになってきている。


(桜歌って裁縫とかできないのかな)


 などと思った瞬間それを読んだらしい彼女は顔を赤らめて、ふいっと視線を逸らせた。どうやらできないらしい。恥ずかしそうに無言で睨み付けてくる桜歌から視線を外した健司は再びアリアーネへと視線を戻した。


「了解、そう言うことならこっちからお願いするよ」


「はい、それではよろしくお願いします」


「ぱぱ、いてらっしゃい」


「おう、行ってくるな。桜姫」


 つい先程違い、元気な声で見送りの挨拶をくれる桜歌に、健司は安心したように頭を撫でて改めて転移魔法を発動させた。






「後は布地と糸、衣類かな残りの金を全部それにつぎ込むか」


「多少は残しておいた方が良いのではないか?」


 すれ違う人を避けながら桜歌と言葉を交わしていた健司は、視界に入ったある建物を見て脚を止めた。


「いや、今は金を残しておく心配をして余裕はないな。それより今は大量の衣類を用意しておくべきだ。すぐに必要になるからな」


 脚を止め表情を険しくしながら視線を向けるのは見覚えのある紋章の描かれた看板を掲げた一軒の店舗。

 それは今朝襲撃した商隊の主、ゴランデル・タクラマの経営する商館だった。


 主人であったゴランデルがすでにこの世の人ではなくなったことを知らないのであろう。街の他の店と変わらぬ様子で営業を行っているその商館を見ていた健司は、ある程度観察が終わったのか、静かに歩みを再開させた。


「その内連中も商隊に異変があったことに気づくだろうが、それには時間がかかるはずだ」


「どうするつもりじゃ?」


「今はなにもしないさ。今はな」


「今は、か。今は必要なもにを買い集める時間じゃからな」


「あぁ、買い物が終わって荷物を持って帰ったら、あそこに集められた奴隷を全員助け出す。ついでに彼らを使って集めた金は全て頂戴するとしようさ。衣類もそうだけど必要なものはまだまだたくさんあるからな」


「物騒な話じゃな」


「反対か?」


「反対などせぬよ」


「それじゃ今夜だな」


「……………………さすがにそれは早くないかの?」


 前を歩く健司の背中から感じられるやる気満々な雰囲気を感じて何となく商館の人達に同情してしまう桜歌だったが、それも自業自得かとため息を吐くのだった。











 昼間は多くに人達で賑わっているパネンテルの街だが、さすがに夜となれば昼間の喧騒も無くなり、一部を除いて街の外同じ静寂に包まれる。この時間も賑わう歓楽街に比較的近い位置にあるタクラマ商会の商館もそこのところは例外ではなく、奴隷として檻に入れられた者たちと必要最低限の警備員を除いて人気は全くといって良いほど無くなっていた。


「はぁ、暇だ」


 警備員の詰め所で欠伸をこらえていた男は、テーブルの上に置かれた大皿に自分の皿にあったチーズを一欠移した


「アップだ」


 手にしたカードをテーブルの上に伏して同じくテーブルについた同じ警備員達を見回した。


「おいおい、強気だな?

 いいのかベッドなんかしちまってよ」


 同じようにカードを手にしていた男が、彼よりチーズの乗った自分の皿から一欠片チーズを大皿に放り込む。


「お前さっきもそうやって負けてたじゃねぇか。俺もアップだ」


「……………………僕は降りるよ。どうも手が良くない」


 諦めた様子の一人がため息とともにカードを公開して椅子に寄りかかる。


「レノン降りるのか。まぁ確かにあまり良くない手だが役はあるんだし賭けても良かったんじゃないのか?」


 カードを持った最後の一人が不思議そうに首をかしげながら自分の皿に手を伸ばすが、皿の上で手をさ迷わせて悩むように卯なり声を上げる。


「勘だよ勘。誰かは分かんないけどこれなんか要ーよりそうとういい役作ってる筈だ。だから僕は降りる」


「そうか、ふむ……………………。アップだ」


 そう言って大ざらに投げ込まれたチーズの欠片は3つ。先の二人よりも多くのチーズが乗せられて二人の顔色が変わる。


「おいおい、さらに吊り上げるのかよ。アップだ」


 強気には強気とばかりに最初の男がさらに3つのチーズを投げ込み、残る一人が一気に眉を潜めた。


「そう言いながらお前も吊り上げんな。くそ俺は降りる」


 そう言って公開されたては、先に降りた男と同じ役だった。


「そうすると、いい役を作ったのはラックとトワリパのどちらかか」


「そんなの俺に決まってるじゃん、アップ」


 不適に笑って2つのチーズが投げ込まれた。これで残る二人が賭けたチーズの数はそれぞれ4と5。どこまでも自信満々に掛け金を吊り上げていくトワリパに対するラックも眉を潜める。


「ちっ……………………、乗るか否か」


 カードからトワリパに視線を移し頭を掻きむしりながら唸り悩むと、ついに観念してカードを公開した。


「ちっ、降参だ、降りる」


「ておい、お前のその役……………………」


「あぁ俺もこんなのが揃ったのは初めてだけどよ……………………」


 そう言って隣の席に座る男を見て、その自信に溢れた雰囲気いため息を吐く。


「あぁ、うん。確かにこれでも心もとなく感じるよな」


 最後に降りたラックに同意の声を溢すと、最後まで残ったトワリパはニヤニヤと笑いながら大皿に乗ったチーズを回収してカードを公開した。


「それじゃごちになりますか」


「はぁ!?」


「お前それ」


「ブタですか」


 思わず立ち上がって驚愕の声を上げる二人と、最初に降りた男は苦笑して役が一つも出来上がっていないトワリパのカードを見た。


「馬鹿いえ、豚じゃなくてハッタリ勝ちだ」


「んな役ないだろうが、あぁ騙された!」


 悔しそうに項垂れる同僚を同じく騙された二人が慰める。


「にしてもヘグセンはよくラックがあんなにいい役を揃えてるのが分かったな」


「言ったろ勘だ勘。明確な根拠があっての判断じゃない」


「そういえば、俺お前が大負けしてるところ見たことねぇわ」


「あ、俺もだ」


「僕もここの仕事を初めてから大負けしたことはないですね」


 ニヤリと笑うヘグセンにもう誘わねぇ、などと呟きながら一人が棚の上に置かれた水時計を見上げる。


「はぁ、そろそろ巡回の時間だ」


「あいよ」


 テーブルの上を片付けてそれぞれが装備を整えて、彼らは宿直室を後にしようとして……………………、扉のノブを掴もうとしたヘグセンの動きが止まる。


「あ、どうしたんだヘグセン?」


「い、いや、どうしてかな……………………、なんかここから出てはいけない気が……………………」


 ヘグセンの様子を訝しげに眺めた男たちは、先頭にいる同僚の様子に息を呑んだ。つい先程まで悪戯っぽく笑って見せたりしていた同僚の顔色がいつの間にか真っ青になり、身体もガタガタ震えていたのだ。


「お、おいヘグセン大丈夫か?」


「わ、分かんないんだ、こんなこと今まで感じたこともない。なにがなんだか分からないけど、ものすごく怖いんだ……………………。ここを出てはいけない、いや、ここに、商館に居てはいけないような、そんな気がしてならないんだ……………………」


 同僚にあまりにも異常な姿に、つい先程見せた勘の良さが思い出される。


「だが仕事を放棄して逃げ出すわけにいも行かないだろ。全員気を引き閉めろ、何があっても対応できるようにしろ。それと今日の巡回は二人一組じゃなく四人一組でいく。巡回に時間はかかってしまうが、何かがあったらまずい。いいな?」


 全員を見回してにトワリパの言葉にヘグセンも含めて全員が頷いた。


「よし、行くぞ」


 普段であれば有事の際にだけ抜くことを許されている剣を抜いて、彼らは周囲の気配を探りながら巡回を開始した。

 先頭を行くトワリパが魔術を使って光の玉を生み出してそれで視界を確保しながら廊下を進んで行く。誰も何も発っさなかった。誰もが無言で周囲を見回し、耳を凝らし、気配を探った。異常は無いか?可笑しな物音は?変な臭いは?何者かの気配は感じないかと集中して廊下を進んでゆく。


 やがて奴隷達を閉じ込めた牢屋へと辿り着く。何か異変があった場合可能性がもっとも高いのがこの場所だ。


 トワリパの手が牢屋へと続く扉のノブに触れる。そこで背後の同僚に振り返り……………………、最後部にて周囲を警戒していたラック首が、落ちた。


「は?」


 トワリパの生み出した光の玉に照らされている中でラックの首から鮮血が噴水にように吹き出した。


「うぁあああああああっ!?」


 トワリパの悲鳴と起きたことに気付いてもいない残りに二人にラックかえあ吹き出した鮮血が降りかかるのはほぼ同時だった。


「え、うわぁぁぁあああああああっ!?」


「なんだこれ、なんなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 トワリパの光の玉の明かりの下、降りかかる血の鮮明さを直視しした二人が半狂乱になって叫ぶ。鮮血を噴き出しながら膝が崩れ落ちるラックの身体。そしてトワリパは吹き出る鮮血の中を突っ切って飛び出してきたものがあることに気づく。始めそれが何かは分からなかったが、すぐにその正体が判明する。それは先端に重りだろう金属片を結びつけた縄だった。それが半狂乱になって叫ぶヘグセンの首に絡み付いた。


 いったい何が起きているのか?目まぐるしく動く状況に理解が追い付いてこない。故に本来ならば剣で縄を切り飛ばすだけで良かったのが、それは、縄を引かれたことで一発で首の骨のを砕き、ヘグセンは悲鳴を上げる暇すらなくラックの流した血の海に沈んだ。


「くそ、そっちか!?」


 だがそれで何が起きているのかは分かった。自分達は攻撃されているのだとトワリパは光の玉を縄の飛んでい来た方向へと放つ。自身の周囲は暗くなるが、これで相手を見つけられると、そう思ったが。


「いない!?」


 廊下の突き当たりの壁にぶつかるまでに襲撃者の姿は見当たらなかった。ヘグセンを殺した縄が床に落ちているが肝心の担い手がそこにはいない。もう訳がわからなくて気が変になりそうだった。


「何がどうなってるんだ!?」


 トワリパが悲鳴を上げるのと同時に光の玉を飛ばしたことで周囲を包んだ闇の中から再び何かが飛び散る音がして、彼に何かしらの液体がぶちまけられた。


「か、カロッソ?」


 それが飛んできたのは最後の同僚がいるはずの場所からだった。生き残っていたはずの同僚の名前を呼ぶも返事は無く、闇の中に月光のように何かが煌めいた。


 それがトワリパが見た最後の光景だった。






 足元に転がってきた生首を反対側へと蹴り転がして、床に投げ捨てた縄を回収する。縄の先端に結わえた鉄片は今朝戦った騎士達の鎧の欠片だ。縄を纏めて腰に掛けて、相手に姿を見せること無くすべてを終わらせて見せた健司は腕を回して肩を解しながら警備員達が入ろうとしていた部屋へと足を踏み入れた。


「桜歌、こっちは終わったけどそっちはどうだ?」


「ようやく半分といったところじゃ」


「ここにいるのは奴隷狩りにあってここに連れてこられた奴が殆どだ。まだ傷の癒えていない者も多く一ヶ所に集めるにしても時間がかかる」


 桜歌の返事に続いたのは襤褸を纏った褐色の肌に尖った耳を持つ、ダークエルフという種族の男だった。健司に説明する彼自信も右目を失っており、左腕には乱暴に巻かれた包帯が血に滲んでいた。


「いや、それはわかったけどおまえは何をしてるのかな?お前だって怪我人なんだからおとなしくしてろっての」


「あ、いや、だが……………………」


「聞く耳持たん!」


 男の持っていた拘束具の鍵をひったくり、背中を押して一ヶ所に集められていて奴隷達のもとに連れていくと、近づいてくる健司に気がついた奴隷達の一部が怯えた様子を見せる。当然健司もそれに気づいているがあえて気付かぬ振りをして奴隷達を見渡して目的の人物を探しだした。


「ちょいと奥さん、自分に旦那くらい無理しないように見張っておいてくれ」


「ちょ、奥さんって、私たちはまだ結婚なんて……………………」


 健司の半分おどけた言葉に慌てるのは、男と同じダークエルフの女性だった。同じ集落にいたところを奴隷狩りに会い、それまでは恋人同士として甘い生活を送っていたそうだ。


「どうせ時間の問題だったんだろ。おい、そこの、この状況でこの二人がいちゃついたりしないよう見張っておいてくれ」


 周囲から堪えるような笑いが起こり、馬鹿らしい指示を受けたダークエルフは何故か真面目腐った表情でそれを了承し、また周囲の笑いを誘った。












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