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洞窟の戦い(後編)



「スピカ。10秒あれば良い。俺が魔法を使うまでの間、奴の注意を引き付けていられるか?」


「……わ、分かりました!」



 悠斗の作戦は無謀なようでいて最低限の安全が保障されていたものであった。



 身代わりの指輪@レア度 ☆☆☆☆

(死に至るようなダメージを一度だけ肩代わりしてくれる指輪。効果の発動後は指輪が破壊される)



 万が一の事態に備えてスピカには《身代わりの指輪》を装備させている。

 スピカがピンチに陥った場合は、作戦は即刻中止をして、武術によってサラマンダーを突破する。


 その場合は、まず、間違いなく正体がバレてしまうことになるが贅沢を言っていられる状況ではなかった。



「たぁ!」


「えい!」


「はあああぁぁぁぁぁ!」



 悠斗の命令を受けてからのスピカは見違えるように冴えた動きを見せていた。

 

 優れたリーダーに行動を指示してもらうことで、自分の中のポテンシャルを120パーセント引き出すことができる――。


 それが持って生まれたスピカの素質だったのである。



「――よし。準備完了!」



 悠斗は以前にウォータと比べて3倍の威力を持ったウォーターストームを《魔力圧縮》のスキルによって強化した《15倍ウォーター》の開発に成功していた。


 だがしかし。

 この《15倍ウォーター》には致命的な欠点があった。


 威力が高すぎるあまりに制御が難しく、一度使うと魔力が空っぽになるため、『絶対に外すことができない』のである。



 魂創造@レア度 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

(器に魂を込めるスキル)



 この欠点を克服するために悠斗が目に着けたのは《魂創造》のスキルであった。


 悠斗は《15倍ウォーター》に魂を与えることによって、命中力を向上させるアイデアを閃いたのである。



「現れろ! 召喚獣、リヴァイアサン!」



 瞬間、悠斗の背後に美しい1匹の竜が出現する。



 リヴァイアサン 脅威LV33



 悠斗の命名が反映されて、魔眼のスキルで表示される名前も何時ものように『水の化身』ではなく『リヴァイアサン』となっていた。


 その全長は頭から尻尾の先までを含めると20メートル近くあるだろう。

 召喚獣『リヴァイアサン』の巨体は、サラマンダーのサイズを圧倒していた。



「食らい尽くせ!」

 


 悠斗の命令を受けた次の瞬間。

 リヴァイアサンは大きな口を開いたままサラマンダーに向かって突撃する。

 


 ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァン!


 ズガガガガガガガガガッ!



 その威力は凄まじく、サラマンダーの体を吹き飛ばしても尚、勢いが衰えることがない。

 サラマンダーの体を完全に飲み込んで、10メートル近く洞窟の壁を抉った地点で、役目を終わらせたリヴァイアサンは元の水に戻ることになった。



 悠斗はそこでステータスを確認。


 近衛悠斗

 固有能力: 能力略奪 隷属契約 魔眼 透過 警鐘 成長促進 魔力精製 魂創造 魔力圧縮 影縫

 魔法  : 火魔法 LV5(12/50) 水魔法 LV7(0/70)

       風魔法 LV6(18/60)  聖魔法 LV6(37/60)

       呪魔法 LV6(6/60)

 特性  : 火耐性 LV6(16/60) 水耐性 LV3(15/30)

       風耐性 LV7(61/70)



 火属性魔法の熟練度が20上昇している。

 リヴァイアサンに飲み込まれたサラマンダーの姿は確認できなかったが、スキルを取得できたということ無事に倒すことができたのだろう。

 


「あ、あの……。ユウコさん……」

 


 凄まじい光景を見てしまった。

 悠斗が編み出したオリジナル魔法、《召喚魔法》はスピカが今まで見てきた魔法の中でも間違いなく最大威力のものであった。


 もしかしたら目の前の少女は、魔法に関してだけなら悠斗すら凌駕しているのではないだろうか?


 2人が同一人物だと気付かないスピカはそんな感想を抱いていた。

 


「悪い。そこ……どいてくれるか?」


「……え?」



 断りを入れた悠斗は無言のままスピカの元を通り過ぎていく。

 悠斗が向かった先は、右腕を失い血だまりに沈むヒラリーと、その治療にあたっているポッチョのところであった。


 

「ああ。ううっ。いてえよぉ……」


「クソッ。俺のヒールじゃ回復が追い付かねえ! 早く街に戻らねえと出血で死んじまう!」


「どけ。貸してみろ」



 乱暴にポッチョの体を押しのけた悠斗は、右腕を失ったヒラリーに対して杖を向ける。



(15倍ヒール!)



 この魔法が今日使用することが出来る最後の魔法となるだろう。

 ハイヒールの魔法を《魔力圧縮》のスキルで威力5倍に引き上げた《15倍ヒール》は、ヒラリーのダメージをたちどころに癒していく。



「な、なんだこれは……」



 その奇跡を誰よりも間近で目の当たりにしていたポッチョは驚愕の声を漏らしていた。



「信じられねえ……。腕が生えてやがる……!?」

 


 自らも聖属性魔法の使い手であったポッチョであったが、これほど高出力の回復魔法など見たことがなかった。


 多くの聖属性魔法の使い手が出来ることと言うと、傷の止血程度であり、間違っても腕一本を丸ごと再生することなど不可能なのである。

 


「嘘だろ……。オレの腕が……腕が治っている!?」


「良かったな! ヒラリー! これも全てユウコさんのおかげだ!」



 涙を流して喜んでいる男たちとは、対称的に悠斗は納得のいかない面持ちを浮かべていた。



(まずいな。ちょっと失敗しているぞ…)



 どうやら15倍ヒールは腕1本を生やすには過剰な力を持っていたらしい。

 新しく作られたヒラリーの右腕は、左腕と比べて不自然に長くなっていた。



 結果的に15倍ヒールの効果をここで検証できたのは幸いだった。



 もしも自分の体で先に試すことになっていたら、左右の腕の長さで悩んでいたのは悠斗の方だったかもしれない。



「……本当なら私が気付いて、回復に行くべきところだったのに」



 スピカは己の行動を恥じていた。

 

 ――目まぐるしく変化する状況の中で常に最善の選択を探すこと。


 それこそが冒険者に求められる素質の中で最も重要なものであり、スピカに欠けていたものである。


 今回の冒険はスピカがこれまで経験していた『悠斗の命令に従って動く』ものとは、完全に別種のものであった。

 

 

「いいか。2人とも。1つだけ忠告しておく」



 悠斗が言葉を切り出すとヒラリー&ポッチョは、固唾を飲んで言葉を待った。



「――女を振り向かせたいなら、姑息な手段を使わずに腕を上げろ。今日のことは良い教訓にするんだな」



 悠斗は冒険者活動に出会いを求めた2人の行動を非難しない。


 何故ならば――。

 男が女を求めるのは生物として当然の本能であり、これを否定することは人類の繁栄を否定するのと同義だからである。


 あくまで日本の法律に反しない範囲であるならば、個人的な制裁は必要ないと悠斗は考えていた。



「「はい! ユウコ様!」」



 キラキラとした尊敬の眼差しを向けるヒラリー&ポッチョは、元気良く返事をする。


 その日を境にして――。

 伝説の魔術師ユウコの名前は、エクスペインの街を駆け巡ることになるのだった。




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