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スピカの決断



 それから。

 無事にエクスペインの街に戻った悠斗は、《性別転換の実》の効果が切れるまで適当に街をブラブラとして時間を潰し、自宅に戻ることにした。



「はぁ……。今日は本当に疲れたなぁ……」



 部屋に入るなり悠斗は、新しく変えたばかりのベッドの感触に癒されていた。

 このベッドは先日、ローナス平原で討伐した《マシュマロボール》から採取した《天使の綿毛》で作ったものである。


 家具の制作は家事万能属性を持ったリリナの担当であった。



「このモチモチとした感触、生き返るわー」



 流石は王族御用達というだけのことはある。

 柔らかさの中に程良い弾力を持っている《天使の綿毛》は、日本で売っているどんなベッドにも勝る寝心地の良さがあった。



 コンコンコンッ。



 突如として部屋の中にノックの音が響き渡る。


 こんな時間に誰だろう?

 最初は夕食の準備が終わったことをサーニャが伝えに来てくれたのかとも考えたが、それにしては様子がおかしい。


 サーニャの場合は部屋を入る時にノックをしないし、普段通りであれば夕食の時間はもう少し先のはずであった。



「ご主人さま。お時間よろしいでしょうか?」



 遠慮がちな動作で悠斗の部屋を訪れたのはスピカであった。


 先に帰って汗を流してきたのだろう。

 スピカの髪の毛からは微かに石鹸の良い香りが漂っていた。



「ああ。いいぞ。どうだった? 初めての冒険は?」



 努めて平静を取り繕いながらも悠斗は言った。

 本当は変装をして一日中様子を見守っていたのだが、もちろんスピカの前では口が裂けても秘密を漏らすわけにはいかない。



「はい。昨日の今日で申し訳ないのですが、そのことでご主人さまに話さなければいけないことがあるのです……」



 そう言って語るスピカの眼差しは真剣なものであった。



「今日のことで痛感しました。私が冒険者として1人で生きていくのは無理です。今日の冒険では偶然、凄腕の女冒険者の方に出会って命拾いをしたのですが……その人がいなければ私……たぶん私は今日死んでいました」



 実際に見ていた悠斗だから分かる。

 剣の腕こそ他の冒険者と比較して抜きんでた能力を持っているスピカであったが、まだまだ言動には危うさが残っている。


 もしもスピカがこれから先も冒険者を続ける気があるならば、もう暫くはサポートが必要そうだった。

 


「なぁ。そもそもスピカはどうして冒険者になろうと思ったんだ?」


「……怖かったんです。私、このままだと何時かご主人さまに捨てられてしまうんじゃないかと思って」


 

 誰よりも近くで悠斗のことを見続けていたスピカは知っていた。

 天から唯一無二の才を与えられた悠斗は、これから先も世界の覇道を突き進んでいくことなるのだろう。


 近い未来、悠斗の周り世界中から選りすぐりの美女たちが集まっていくことは想像に難くない。

 

 そうなればこの先――何の取柄もない自分は『用済み』として見限られてしまうのではないだろうか?


 何時しかスピカは漠然とそんな不安を胸に抱くようになっていたのである。



「シルフィアさんには特別な剣の腕と美貌があります。リリナさんは手先が器用で家事に関することなら何でもできます。サーニャちゃんには魔物と友達になるスキルがあります。私だけなんです。私だけが……ご主人さまの傍にいる資格を何も持っていないんです……」



 流石にそれはネガティブに捉えすぎなのでは?

 と疑問に思った悠斗だったが、そのことにはあえて触れないでおくことにした。



「結局、スピカはどうしたいんだ? このまま冒険者として自立を目指すなら、出来る限りのことで俺がサポートに回ろうと思っていたんだけど」



 悠斗の眼から見てスピカに足りていないものは『経験』と『覚悟』だけであった。


 あとは本人の気持ち次第――。

 スピカの中に本気で『冒険者として自立したい』という気持ちがあるならば、悠斗はそのあと押しをするだけである。



「いいえ。それはその……あの……」



 悠斗の言葉を受けたスピカは言葉を濁していた。

 冒険者という職業を選んだのはたまたまそれが身近なものであっただけで、実のところスピカにとっての『やりたいこと』は他にあったのだった。



「――自分の気持ちを口にできないなら俺が背中を押してやる。【本音を話してみろよ】」



 そこで悠斗が《隷属契約》のスキルを使用する。

 主人となった人間は『命令権』を行使することによって、奴隷に対してどんな命令でも従わせることができるのであった。



「叶うことなら……私、ご主人さまの所有物としてずっと生きて行きたいです!!」



 意にそぐわない形で本音を零してしまったスピカは慌てて口を覆い隠す。


 スピカにとって悠斗の存在は日に日に大きくなり、今となっては『世界の全て』と言っても差し支えのないものになっていた。


 だがしかし。

 実際にそれを口にすると『重い女』と思われて、悠斗に嫌われてしまうかもしれない。


 だからスピカは本当の気持ちを隠していたのである。



「よく本当の自分の気持ちを言えたな。偉いぞ。スピカ」


「も、もしかしてご主人さまは最初から私の気持ちに気付いて……?」


「……まぁな。だってスピカが一番活き活きとしているのは、俺と一緒にいる時だったし」


「はうぅ……」



 悠斗に頭を撫でられたスピカは甘い声を漏らす。


 世の中には人の上に立つことによって能力を発揮する人間と、人の下で働くことによって能力を発揮する人間がいる。


 悠斗の眼から見てスピカの資質は明らかに後者であった。



「ご主人さまぁっ!」



 自らの感情を抑えきれなくなったスピカは悠斗の体をベッドの上に押し倒す。

 息遣いを荒くし、頬に朱を散らしているスピカは明らかに発情していた。



「ス、スピカ!」



 悠斗は動揺していた。

 これまで『夜の楽しみ』は常に悠斗が『攻める』側であり、スピカの側から『攻められる』経験をしてこなかったからである。



「――こ、この辺で辞めておこう。じゃないと俺、本当に我慢できなくなりそうだし」



 異世界トライワイドは現代日本とは違い避妊具の普及が遅れていた。

 悠斗は遊びたい盛りの十代であり、父親になる覚悟などありはしない。


 だから悠斗は奴隷の女の子たちイチャイチャはしても『最後の一線』だけは絶対に死守してきたのである。



「……最後まではしなくたって、猛りを鎮める方法はいくらでもあるんですよ?」



 意味深な言葉を残したスピカは悠斗の下着をズリ下げる。



「……私はご主人さまの所有物です。どうか今夜は私にそのことを知らしめては頂けませんか?」 



 冒険者として自立することが無理なら、せめて悠斗との『夜の楽しみ』で役に立ちたい。

 悠斗の『所有物』として生きていく覚悟を決めたスピカに迷いはなかった。



「それってどういう……?」 


「……もっと乱暴に、モノを扱うようにして私の体を使って欲しいのです」



 スピカが『夜の楽しみ』に注文をつけてくるのは初めてのことであった。


 果たして自分は本当に悠斗の役に立っているのだろうか?

 実のところスピカは――悠斗に優しくされるたびにそんな不安を抱いていたのである。


 優しくされるよりも、乱暴に扱われる方が『所有物として役に立っている』と感じることが出来る。


 奇しくもそれはスピカの性的趣向に合致した行為でもあった。



「分かった。そういうことなら容赦はしないからな」


「はいっ。ご主人さま……!」



 最後の一線を越えなくても性欲を解消する方法は無数に存在している。


 その日以来――。

 スピカとの夜の楽しみは今まで以上にハードなものになっていくのだった。



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