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(007) ミーティング

 

   6


 汎用中型宇宙艦〈クリスティナ〉。

 銀河連邦でももっともポピュラーなタイプの宇宙艦で、恒星間航行の可能なジャンプ・ドライブと広いフリースペースを備えており、多目的用途に利用されている。

 本艦〈クリスティナ〉は、地球とアルゼナを往復するための輸送用のシャトルとして利用されていたが、装備次第では違う運用の仕方も可能なのである。

 たとえば、武器を積めば戦闘艦になるし、電子装備を積めば電装艦に、戦闘機を積めば小型母艦にも、という風に。そして、貨物スペースに利用すれば、輸送艦にもなるわけだ。

 従来の乗員は二〇名ほど。しかし、パイロットを含めてその半数以上を先の戦闘で失っている。

 それと、クロセスト行きだった乗客が四十名ほどを加えて、計五〇人ほどが現在の全乗員ということになっている。

 

 

 

 翌日。

 各部署の代表者を集めてミーティングが開かれることになった。

 参加人数は十二人。そのうち〈クリスティナ〉のもともとの乗員は五人だけで、残りはマッカやセーナと同じ候補生だった。

 自己紹介もそこそこに、セーナはさっそく壇上にあがって自らの主張を提議した。

 彼女の議案を簡単に説明するなら「いますぐベルゼブルの追撃を行うべきだ」というものである。

 実は、〈クリスティナ〉がジャンプ・アウトしたとき、一緒にこの宇宙へやってきた個体がいるらしいのだ。〈クリスティナ〉のジャンプに巻き込まれたのか、あるいは、こちらが向こうのジャンプに巻き込まれたのか。はたまたどうにかして追いかけてきたのか。理由はわからないが、とにかく、その個体を野放しにするべきではないというのがセーナの意見である。

「無理だね! 追うったって、どうやって? ここがどこだかもわかんないんだよ?」

 まだ三〇代くらいだが、すこし生え際の後退している技術士官がセーナに反論した。

「現在位置がわからなくても、航路は追える」

 技術士官は、セーナをバカにした風に両手をひらひらさせて鼻で笑った。

「ジャンプ・ドライブがいかれちゃってるの! ハッキリ言って、ベルゼブルの追撃どころか、ただ一光年移動するってだけでも今の〈クリスティナ〉には不可能なの!」

「修理すればいい」

「これだから、素人は! 設備も部品もないのに、簡単に直せるわけないでしょ? 少なくても僕には無理だね! 僕に無理ってことは、この艦の誰にも無理ってことさ!」

「私なら出来る」

 セーナは澄ました顔で言い返した。

 嘘でもハッタリでもなく、ただ単に事実を述べてやっただけと言うような、涼しい顔だ。

「出来る? 出来るって? 出来るわけないだろ! ただの学生のくせに、何言ってんの!」

「自分に出来ないからと言って、私にも出来ないなどと決めつけるな。不可能を克服するすべを技術と呼ぶんだ。舐めるな。私はおまえのような三流と違って、本物の技術者だぞ」

「なんだって!?」

 セーナのあんまり傲慢な物言いに、技術士官が声を荒げて立ち上がった。

「まぁまぁまぁ! 落ち着いて!」

 艦長代理のエリオットが慌てて間に割って入る。

 技術士官は、軍人と言っても技術屋なので小柄だが、セーナよりはもちろん大きいし逞しい。傍目には、エリオットがセーナを庇ったように見えただろう。

 だが、マッカにだけは、いま助かったのは技術士官の方だと分かっていた。セーナの右手は素早く懐の拳銃へ伸びていた。エリオットが止めなければ、彼女はためらいなく撃って黙らせていただろう。

 当然、セーナは態度を改める気などさらさらなかった。

「仮に、私にも不可能なら〈クリスティナ〉は一生この場に立ち往生するしかないということだ。それでは困るから、なんとかする。……かならずな」

「できるものか! 適当なことを」

「まあまあまあ!! ともかく、いまは出来るってことで仮定しとこ? 話進まないから?」

 エリオットが強引に技術士官をねじ伏せて、椅子へ座らせた。

 技術士官は、両肩をがっちり掴まれて立ち上がれない。何か喋ろうとしたが、今度は口を塞がれた。

「むぐーー!! むぐむぐーーー!!」

 エリオットは、疲れたという風に溜め息を吐いた。

「あのさ、きみももうちょっと友好的に喋れないかな? せっかくの美人サンが台無しだよ?」

 セーナは、エリオットに侮蔑の視線だけ向けて、聞き流した。

 全体へ向き直って話を再開する。

「すでに説明があったように、この銀河は我々の知っている銀河とは、違う銀河だ。黙って待っていても救援など来るわけがないし、地球へ帰れる可能性はほとんど絶望的だ」

 ほとんど、という言い方が少し引っかかった。

 不可能と言い切らない辺りが彼女らしい。それも漠然と奇跡とか幸運を信じてるわけではなく、自分で何とかする気でいるのだ。

 なんておもしろい女だろう。

 そんな感想を持ったのはマッカだけで、他のメンバーたちはセーナの言葉にショックを受け、騒がしくなった。

 地球へ帰れる可能性はほとんど絶望的だ。

 改めて言われると、確かに強いインパクトのある言葉である。

「現在は水も食料も充分にあるが、いつまでも保つわけではない。それらが尽きる前に水や食料のある惑星を探す必要がある」

 そして、セーナは次の瞬間、もっとインパクトの強いことを言った。

「そして、可能なら私たちはその惑星へ移住しなければならない」

 移住……だと……?

 マッカは、脳に直接カミナリが落ちてきたような衝撃を受けた。

 適当な惑星を見つけて、そこに移住する……。

 笑えない冗談である。

 実の所、クロセストへ搬入予定だった物資が相当あるので、水や食料は数年単位で保つ。だから、この件に関して危機的意識を持ってる人間は少なかった。

 だが、いずれは尽きるし、補給の宛てはない。

 ならば、それは当然頭にいれておかなければならない可能性の一つではあるのだが。というか、ここが本当に地球から百万光年以上離れたような、まったく知らない未知の銀河だとすれば、それしかないと言い変えても正しいのだろうが。

 マッカでさえ、考えがそこまで及んでいなかった。

「水や食料、つまり、有機体の繁殖する惑星というのは、でたらめに宇宙を飛んでも簡単に見つかるものではない。――だが、手がかりはある」

 それが、ベルゼブルということだ。

 ベルゼブルも有機体であり、有機物を捕食し繁殖する。

 そもそもベルゼブルが天の川に現れたのも、人類がそこら中の惑星をテラフォーミングして有機体を繁殖させたのが原因とも言われている。彼らにとっては、豊富な餌場に見えたのだろう。

 つまり、ベルゼブルの行く先には、かならず、有機体の繁殖する惑星があるはずということだ。

 エリオットが手をあげた。

「だが、いまさら追いかけたって間に合うのか? 宙間戦ならともかく、惑星に降りて繁殖されてたらどうにもなんないぞ? むしろ、反対方向に進路を取るべきじゃないのか?」

「今なら間に合う。今なら、な。惑星の環境にもよるが、マザーがその惑星に適したクイーンを生むまでには数日かかるし、クイーンが新たなマザーを育てるまでにはもっと時間がかかる。もともとの個体数が少ないことも優位だ。確かに一度繁殖を始めると奴らは幾何級数的に数を増やしていくが、だからこそ、初期の段階なら叩きようもある」

「それにしたって〈クリスティナ〉の火力じゃ難しいだろ? ドラグーンはあるが、プラネットバスターまでは積んでないぞ?」

 〈プラネットバスター〉は、惑星破壊兵器のことでドラグーン専用の特殊装備の一つでもある。一般的に、一度ベルゼブルの侵入を許し繁殖されてしまった惑星は、〈プラネットバスター〉を使って惑星ごと破壊するしかないと言われている。

 本体と一緒に一通りの装備一式も貨物にあったが、さすがに〈プラネットバスター〉までは積んでいなかった。

「〈クリスティナ〉の反応炉の一つを代用する」

「代用って?」

「暴走させて、爆発させる」

「はぁぁ??」

「もちろん、惑星を破壊するには至らないが、初期段階ならこれでも充分殲滅が可能なはずだ。そもそも有機体は私たちにとっても必要なのだから、惑星をまるごと破壊するわけにもいかない」

「無茶苦茶だ!!」

 エリオットの手を押し退けて、技術士官が立ち上がった。

「反応炉を暴走!? 原子爆弾を作ろうってのかよ!! そんなことしたら惑星の生態環境はどうなる!! それこそ移住なんて出来ないぞ!!」

「私たちがもっとも優先すべきことは、ベルゼブルの殲滅だよ。どのみち、いくら有機体が繁殖していた所で、何の手も加えず人類がそのまま定住出来るような惑星はほとんどありえない」

「自分が移住しなければならないって言ったんだろ!!」

「運が良ければ、の話だよ。サイズにもよるが放射能が惑星の全域まで及ぶとは限らない。移住が無理でも、ともかく有機物を確保出来れば生存期間を延ばすことも出来る」

「無茶苦茶だ!!」

 技術士官は、もう一度大きな声で怒鳴って、周りへも賛同を求めた。

 何人かが彼に同調し、セーナへ向かって好き勝手なことを言い始めた。

「黙れ! どのみちリスクを負うのは私だけだ! ジャンプ・ドライブを修理するのは私だ。ベルゼブルの航路を特定するのも私だ。反応炉を改造するのも私だ。ドラグーンで攻撃をかけるのも私だ。もし、すこしでも作戦に支障が出た場合、おまえたちは〈クリスティナ〉で銀河の反対側へ逃げればいい。それでも不満があるというなら言ってみろ! この恥知らずどもめ!」

 セーナは、失望の目で周りを見渡した。

「勝手に決めんな」

 無性に腹が立つ。マッカは拳を握り、セーナを睨み付けた。

「ドラグーンの操縦(パイロット)は俺だ。俺がやる」

 セーナは、マッカの視線をまっすぐに受け止め、何故か不愉快そうに「ふんっ」と鼻を鳴らした。

「なら、リスクを負うのは私と、そこのバカだけだ。……依存はないな? エリオット――艦長代理?」

 エリオットは、セーナに「きっ」と睨まれると、白旗というように素早く両手をあげた。

「……うん、まぁ、きみの言ってることはすべてその通りだと思うし。作戦は許可するけども、態度は少し考えようよ? きみってまだ准尉ですらないでしょ? 士官候補生候補?」

 セーナは人差し指を立てて「ちっちっち」と指を振った。

「民間人だから、軍規に縛られることもないということだよ。艦長代理? 私はあくまで善意の協力者だ」

 エリオットは、降参というように溜め息を吐いて、腕を下ろした。

 マッカがこのとき思ったのは、もし、エリオットが拒否していれば、彼女はエルを使って〈クリスティナ〉をハイジャックしていただろうということだ。

 ……本当に、とんでもない女である。

 

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