第74話:共闘、防衛軍の流儀
崩壊するエルドラの地で、かつて敵対した三つの意志が、いま一つの輝きを放っている。
ジン・クロサワ、ヴォルフ・シュナイダー、そしてシオン・ミカゲ。
帝国も王国も、皇帝も賢者も関係ない。そこにあるのは、地球から転移してきた防衛軍特殊PM-ギア部隊の隊員としての、血の通った連携だけであった。
青白いプラズマを噴射し、三機のPM-ギアが魔王PM-ゼロギアへと肉薄する。
その動きは、物理法則を無視した圧倒的な速度であった。互いの機体ステータスがネットワークを通じてリアルタイムで共有され、誰がどこで攻撃を受け、誰がどこでカバーに入るべきかという判断が、思考速度よりも速く処理されている。
ジンが先頭を切る。
彼の纏う天使と悪魔の装甲が、ムラサメを構える右手の出力を爆発的に引き上げた。
ゼロギアが両肩の角から放つ赤黒い次元粒子砲を、ジンは横一閃に回避する。その回避の軌道はあまりに最短で、最小の動きで弾幕を切り裂いていく。
そこに、ヴォルフが食い込む。
どけ、隊長。あとは俺の仕事だ。
ヴォルフはファフニールの砲身をゼロギアの正面に突きつけ、引き金を引いた。
魔法を失ったただの粒子金属の弾丸ではない。ヴォルフが自身の生命力と、防衛軍時代の鬼のような訓練で培った予測射撃のすべてを込めた、一点突破の粒子弾。
それはゼロギアの胸部クリスタルに向けて放たれるが、ゼロギアは即座に次元断層シールドを展開する。
しかし、ヴォルフは最初からクリスタルを壊すつもりなどなかった。
シオン、今だ。
ヴォルフの叫びと共に、シオンがそのシールドの裏側へと、文字通り「滑り込んだ」。
彼女の折れたロンギヌスは、魔力で固められた槍ではなく、彼女自身の魂の輝きを宿した光の杭となっていた。シオンはゼロギアの巨大な関節部のわずかな隙間、次元断層シールドの発生源となっている結晶基部に、その光の槍を深々と突き立てた。
ガギィィィィィィンッ!
シオンの一撃が、盾を支える動力回路にノイズを走らせる。
ほんの一瞬、盾が揺らぐ。その刹那を見逃すはずがなかった。
ジンが、ヴォルフが作った衝撃と、シオンが作った隙を、ムラサメの刃へと収束させていく。
防衛軍時代、幾度となくシミュレーションで繰り返した完璧な連携フォーメーション。前衛が敵を追い込み、遊撃が敵の姿勢を崩し、決定打を放つ。
互いの背中を預け、互いの役割を誰よりも深く信頼し合ったからこそ成立する、泥臭い防衛軍の流儀。
ジンがムラサメを大きく振りかぶる。
その太刀には、地球の空を思い出す青白い光が、これでもかというほどに渦巻いていた。
あいつらを信じて、前衛に立つ。
お前たちを信じて、背中を守る。
そう教わったんだよ、俺たちは。
ジンが、ゼロギアの巨大な胴体へと切り込む。
シオンが突き立てた光の槍の箇所から、ゼロギアの内部回路へ衝撃が伝わる。断層シールドが強制解除されたその瞬間、ムラサメがゼロギアの漆黒の装甲を切り裂き、その奥にある赤いクリスタルに深い傷を刻み込んだ。
『ガァァァァァァァァッ!? 貴様ら、人間風情が……またしても、この私に、神なる私に傷をつけたかぁぁぁっ!』
東郷の悲鳴が、ゼロギアを操る狂気をさらに煽り立てる。
ゼロギアは痛みを感じるかのようにのけぞり、周囲の空間を爆発的に圧縮して、ジンたちを弾き飛ばそうとする。
だが、ジンは退かない。
むしろ、食い込む。
彼は、己のギアを限界まで酷使し、右腕から火花を散らしながら、ムラサメの刃をクリスタルに食い込ませ続けた。
ヴォルフが駆け寄る。
隊長、無理すんな! 俺のファフニールの予備粒子を全部回す!
ヴォルフは自身のギアの駆動系を犠牲にし、極限まで圧縮された粒子エネルギーをジンのギアへと送り込んだ。装甲が悲鳴を上げ、高熱で変色し、ヴォルフの全身に火花が散る。それでも彼は、かつての副隊長として、隊長の背中を支え続けた。
シオンが舞う。
ロンギヌスを再び光として生成し、ゼロギアの周囲で執拗に回避運動を繰り返しながら、敵の攻撃の起点となる次元の揺らぎを先読みして斬り続ける。
隊長、ヴォルフ副隊長。あの東郷の怒りが、次元のゆがみそのものになっています。このままでは攻撃が当たらないかもしれません。……私のロンギヌスで、奴の次元観測を封じます!
シオンは、自らのギアの全生命維持エネルギーをロンギヌスに転換した。
その光は、かつてのどの白魔法よりも眩しく、そして切なかった。
彼女は、魔王の懐に飛び込み、その折れたロンギヌスをゼロギアの頭部に突き立てる。
東郷の観測装置を破壊する。自身の装甲を放棄して、敵の目潰しとなるという、あまりにもシオンらしい、不器用で真っ直ぐな戦術。
『貴様らァァァァッ!』
東郷が狂気と共に、周囲の空間そのものを爆発させた。
三人は強烈な衝撃波で吹き飛ばされ、遥か彼方の荒野へと叩きつけられる。
だが、その表情に悔いはない。
ジンが地面を滑りながら立ち上がる。
ヴォルフが砕けた銃身を杖にして吠える。
シオンが折れた槍を構え、震える足で踏み留まる。
互いの装甲は、元の姿が思い出せないほどにまで破壊されていた。
だが、その瞳には、かつてないほどの確信があった。
この絶望的な魔王を、必ず打ち倒せるという確信。
三人がそろえば、どんな理不尽な世界だろうと、必ず帰るべき場所へ辿り着けるという確信。
「……見たか、東郷。お前が何台もの魔獣を使い、どれだけシステムで支配しようと、俺たちの連携は、お前の計算式には入ってねえんだよ」
ジンが静かに言い放つ。
遠くでゼロギアが、傷ついた機体を震わせながら、再び立ち上がろうとしていた。
だが、その動きは鈍い。クリスタルの傷はまだ修復しきれておらず、東郷の狂気も、三人の連携によって着実に摩耗しつつある。
東郷の孤独な絶望と、三人の泥臭い絆。
どちらが本物か、答えはもうすぐそこに見えていた。




