第89話 飛ばされたダンジョンは俺に原点を思い出させてくれそうだ
ふぅと息を吐いた皆は、しばらく無言だ。
だが、ニジが口を開く。
「あるじぃ~は、じぇちゃい、もろるよ~。らから、ニジはちっかり、ごあんちゃびちぇ、おおちくなるの~。あるじぃ~、かえるっち、いっちゃよ~」
ハッとした皆は、ニジを撫でまわす。
「ニジに教えられました。タケル様のことです、必ず戻りますよ。ただ、時間はかかるとおもいます。裏ダンジョンの規模にもよると思います。だから、言われたとおり日々過ごしましょう」
そうだな、とパトリオットがラスに同意する。
眷属たちも笑顔で頷いた。
同時に、ラスが「皆さん、汚いですよ」と風呂を勧めた。
□□□□□
さて、行くか。
一応、セバスにメールは送ったけどちゃんと届いてたらいいな。
まあ、伝わっていると信じておこう。
大きな扉に触れれば、ギギッとゆっくり開いてゆく。 そこは広い草原だった。
周りの気配を探ってみるが、今の所何もいない。
じゃあ、ここは安全地帯なのでこのまま確認するかな。
何が使えるんだろう。
魔法は?
うーん、やはり使えないか。石版にかいてあったとおりだな。じゃあ、スキルはどうなのか。
いろいろと検証してみた結果。
使えるのは――
生活魔法、ストレージ、超回復・最高度治療スキル、調理スキル、ホームセンター・スーパーマーケット、魔眼、錬成スキル、世界眼、居合道、剣術、交渉術、気配察知、蒼竜刀、蒼伴刀、単独転移。
概ね、これだけだね。
空を飛べないのは辛いな。刀は使えるらしいので、攻撃方法は基本に戻るって事か。まあ、仕方がない。
このエリア全体はワンフロアだと思うけど、どれくらいの広さがあるんだ? 世界眼で見てみようか。
え? ボルック国と同じくらいか。
それでも、単独でも転移ができるだけよかった。
ここを出れば戦いだな。あちらこちらに安全エリアがある気がするけど、どうだろう。まあ、メシを食い、休む場所があったらいい。
とりあえず、スタートだ!
安全エリアを出たら、すごい数のオークの気配。
ここって、Cランク以上の魔物だけみたいだ。
集団のオークだけど、数え切れないな。それなら、まとめていくか。
【一閃!】
ズババババー
おお、これはすごいね。
何頭やったかな。ついでに次の列もやるか。
【一閃!】
うーん、かなりやっつけることはできるけど、これじゃぁ、数が減らないな。
漫画で見たような、技ができればいいんだけど。
いろいろ考えてカタの練習をしたことがあった。試しにやってみるか。しっかりイメージして魔力を多めに。
【二天鵠煌!】
スパッと音もなく蒼竜刀と蒼伴刀から光が飛び出した。その光は両側から内側に向かって、一気に進む。
綺麗にオークを横殴りに切り裂いてゆくのはすごいね。これ、俺のイメージがそのまま刀に乗ってる感じだ。
じゃあ、次もやってみるか。漫画で見たやつだけど……
漫画のやつは『九頭竜閃』だったけど、俺には古竜がいる。竜神の加護もある。ならば、『威竜煌鱗』はどうだろうか。竜神の使役するドラゴンが光の速さで切り裂く。そんなイメージだけど。まあ、とりあえずトライしてみるか。
古竜、俺の我が儘な考えだけど助けてほしい。俺は皆のところに戻らなきゃならないんだ。
【威竜煌鱗!(いりゅうこうりん)】
ブワリと蒼竜刀から光が飛び出し、幾筋もの光の刃となって飛んで行く。
光はまるでドラゴンが口を開いてオークを飲み込むかのごとく、次々とオークのクビが飛んで行く。
キングも、アーチャーもメイジも。そして普通のオークたちもクビがなくなり次々と倒れて行く。
そういえば、ここの魔物はなくならないな。ドロップアイテムがないってこと?
ストレージを確認すれば、裏ダンジョンと書かれたファイルがあった。中には魔石や肉、革、牙などが入ってる。よかった、ドロップするんだ。
顔を上げれば、全てのオークがいない?
ええと、と気配察知で確認したが、オークは殲滅されてた。
古竜と支配下のドラゴンの力を借りたけど……本当にすごい。ストレージを確認すれば、六百体を狩ったようだ。
魔法じゃないけど、魔力は使った。それにしてもすごいな。古竜! ありがとうね。これからもまだまだ力を借りると思うけど、頼むな。
あ、また来たね。ドシンドシンと音が聞こえる。
何が出たんだ?
オーガだ。
また、面倒なやつらがでたね。こいつらはデカいから、俺の一閃でやれるか?
【一閃!】
ズバババーと切れたけれど、やはりオークよりは切れないな。革が硬いからだろうね。さっきは柔らかく切れたのに、オーガは簡単にはいなかそうだ。
じゃあ、それぞれの居合技でどれくらい倒せるか、やってみよう。
【二天鵠煌!】
両腕の刃から激しい光が飛んで行く。両端から中央に向かって鋭く切り込んでゆく。
うん、これはイケる!
もう少し魔力を込めれば、刃が大きくなるか。次でやってみよう。
【二天鵠煌!】
おお! やっぱり思った通りだ。
光の刃が大きくなった。これ、使えるぞ!
何度か挑戦したが、いいところ百体ほどだ。これじゃ自分が疲弊してしまう。それなら、古竜の力を借りるしかない。魔法が使えないということは、これほど戦いにくいことなのか。
古竜。申し訳ないけど、頼むよ。また力を貸して欲しい。
おそらく、ずっと頼むことになると思うけど、久しぶりに魔法無しの戦いも、初心に返れるからいいんだろうね。でも、俺の刀は一人じゃ使いこなせないのがよくわかった。
古竜と一緒に使うべきものだと思う。そうしたいんだ、頼む、俺を助けて!
【威竜煌鱗!】
蒼竜刀から発せられた輝く光は、幾重にも広がり、ドラゴンたちがオーガを飲み込んで行く。
すごい、綺麗だ……
気がついた時には、目の前のオーガは全ていなかった。本当に感謝しかないよ、古竜。
オーガとハイオーガの数は六百五十体だった。おっそろしいな、これ。
そんな風に、古竜とドラゴンたちの助けを借りながら進んで行く。
数時間後には、「ひとつ目」と二つ目がある「二つ目」とあわせて八百体。ダイヤウルフが七百五十体だった。
この辺りで休もうかと思いつき、場所を探す。
草原と岩場があるけど、どうだろうか。
気配察知で岩場の洞窟を探す。どこもいっぱいだね。サーペントのマンションみたいだ。
それなら、平原のど真ん中にするか。それもあとで困りそうだけど。あの岩山の上に上がれればいいのに。あ、でも、同じ事か。結界を張っても魔力が漏れればどうにもならないかな。
うーん、どうするかな。
岩の中をくりぬければいいんだけど。って、あれ?
くりぬけばいいじゃん。地面より岩場の方がいいか。この最初のデカい岩にはサーペントの穴はないね。ここを掘ってみるかな。
魔物を避けてこの岩に穴をくりぬきたい。なるべく厚く壁を残す。端の方は薄めでいいかも。魔物に破壊されなければいい。
あ、違う。土魔法使えないや。
じゃあ、錬金スキルはどうかな。
この辺りに金属の箱を造る。人の気配も感じないくらいの箱。空気抜きは必要だけど、ストレージの中にある魔道具を使ってもいい。
全体の大きさは、二メートルキューブで。入り口はスライドロック。金属もストレージの中のものを使って。鉄、魔鉄、ミスリルなどの合金でもいい。魔力多めで。移動する時にはストレージに入れる。
【錬成!】
ブワリと光ったのは、岩場の手前だ。
なるほど、岩から少し離したか。
あ、出入り口はあそこか。
じゃあ、とりあえず結界で全体を覆うか。
【結界】
おお、半円の中に入ったぞ。で、そろそろキューブができるか。
おお~できあがりだ。よかった、錬金スキルが使えて。普通の冒険者だと、こんなところに放り込まれたら、命がないだろう。最初から俺は恵まれてる。恵まれすぎてるくらいだ。
キューブのドアを開けて、中に入った。
扉は自動的に閉まって、闇の中にひとり立つ。
ええと、魔法が使えないけど。あ、そうだ生活魔法が使えるんだった。
(灯り)
おお、暗いけど見える。これくらいでいい感じだ。
さて。とりあえず、寝床を確保するか。
確か盗賊のお宝にベッドがあったはず。
おお、あったあった。これを出してっと。あ、布団がないけど、どうする? いや、あるか。魔道テントの中にあったぞ。盗賊のお宝はアイテムボックスに戻してっと。テントを取りだし、ベッドと布団、枕を取り出した。テント、デカすぎだろうよ。まあ、いいけど。
あとは、風呂は後にして、トイレだな。魔道具付きのやつを取り出して使おう。これは、水も排水も全て魔道具でできるものだ。空気が綺麗ということは、魔道具が発動してるんだろう。
あとは、風呂だけど。どうするかなぁ。
魔道テントは、とりあえず出すことはできる。じゃあ、それを置くか? その方がいいかもしれないな。
ああ、何も考えずにやるから後手に回るんだよな、俺。
とりあえず魔道テントを取り出す。
幅はギリギリだね。中は空間を拡張してあるからだろう、広い。
じゃあ、ベッドを戻して布団も枕も戻そう。
トイレは使ってないからストレージへ逆戻り。
はあ。腹が減ったな。
野営用のテーブルと椅子を取りだし、肉串やフライを取り出す。そして保存容器に入ったおにぎりだ。スープが飲みたいな、と確認してみたが。料理の文字がグレーになってる。これは出せないのか? はぁ、どうやらそうらしい。
もしかして、炊飯器も?
あ、大丈夫、これは炊きたてご飯がいっぱい入ってるね。
素材は取り出せるんだな。なんで料理が出せない? これは俺が作ったものではなくて、ラスが作ったものか。なんとなく理解できた気がする。
自分が作ったもの、もしくは自分が買ったものしか取り出せない。なんだか面倒だな。でも、何も出せないよりはいい。スーパーが使えるということは、俺が買ったものになるんだろう。それなら大丈夫だ。
じゃあ、何か惣菜を出してみるか。
こういうときには、大好きな牡蠣フライとカップ味噌汁だな。あと、ホームセンターの瞬間湯沸かしポット。うん、これならカップラーメンもできるな。じゃあ、味噌汁をやめてカップラーメンにしよう。
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【あとがき】
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